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自民党が衆院3補選で全敗し、次の焦点が静岡知事選に移る。

岸田首相の支持率低下や求心力低下が懸念され、内閣支持率の低さから解散を巡る状況も複雑化。

静岡知事選結果次第では、岸田首相が党総裁選に打って出るかどうかが焦点となる。

(要約)

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記者団の質問に答える岸田文雄首相=4月30日、首相官邸 

 

 4月28日に投開票された衆院3補選で、自民党は不戦敗を含めて全敗した。次の焦点は静岡県知事選(9日告示、26日投開票)で、自民系の候補が敗北すれば、9月の党総裁選を控え、岸田文雄首相の求心力低下が一層進むのは必至。こうした岸田首相の歩みは、総裁選不出馬に追い込まれた菅義偉前首相に酷似している。岸田首相は「いつか来た道」を終着まで進むことになるのだろうか?(時事通信解説委員長 高橋正光) 

 

【ひと目でわかる】岸田内閣の支持率推移 

 

 ◇3補選全敗、次は静岡知事選 

 

 衆院3補選のうち、自民党は東京15区と長崎3区に候補者を立てず不戦敗。唯一候補を擁立し、立憲民主党と一騎討ちとなった島根1区は、約2万4800票の大差で敗れた。 

 

 島根県は小選挙区制が導入された1996年以降、自民党が議席を独占し続けてきた「保守王国」。竹下登元首相、桜内義雄元衆院議長、青木幹雄元参院議員会長ら、多くの大物議員を輩出したことでも知られる。その島根での惨敗は、自民党安倍派などの裏金事件に対し、有権者の怒りが渦巻き、党の支持基盤が崩れつつあることを裏付けた。 

 

 内閣支持率が低迷(時事通信4月調査で16.6%)する岸田首相は、今国会(会期末は6月23日)で衆院を解散。与党で過半数を確保し、「国民の信任」をバックに、総裁再選を果たす戦略を描いているとされる。3補選の結果、自民党内では「岸田首相では衆院選を戦えない」との声が漏れた。 

 

 こうした状況下、党勢を占う上で、与野党が次に注目するのが川勝平太氏の辞職に伴う静岡県知事選だ。現時点では、自民系の元副知事、野党系の前浜松市長、共産党県委員長の3人の争いとなる見通し。自民県連は、元副知事の推薦を党本部に申請している。党本部の対応は未定だが、自民党の集票力が試される。 

 

 裏金事件との関連では、離党勧告の処分を受けた塩谷立・元文部科学相、安倍派幹部から口止めされたことを暴露して注目を浴び、女性問題で議員辞職した宮沢博行前防衛副大臣は共に、静岡県が選挙区。事件やスキャンダルが自民系の候補に暗い影を落としている。もし敗れれば、党内で「岸田首相では戦えない」との声がさらに広がりそうだ。 

 

 そして、内閣支持率をV字回復できないまま、岸田首相が会期末に解散に打って出ようとすれば、「岸田降ろし」の包囲網が一瞬にしてできかねない。信頼回復を解散容認の条件とする公明党も当然、包囲網に加わるはず。それでも岸田首相が解散を強行しようとすれば、同党を巻き込んでの権力闘争に発展するだろう。 

 

 ◇解散先送りで共に窮地 

 

 これまでの岸田首相の歩み、今後起こり得る展開を念頭に、3年前に時計の針を戻すと、菅政権とそっくりなのが分かる。新型コロナ対策が後手に回り、内閣支持率が低下した菅氏は2021年4月、衆参3補選・再選挙で不戦敗を含めて全敗した。このうち、参院広島は、公選法違反罪で河井案里氏の当選が無効になったことに伴うもの。「政治とカネ」が争点になった点で、今回の衆院島根補選と同じだ。 

 

 その後、同年7月の東京都議選で自民党は伸び悩み、8月の地元・横浜市長選で菅氏は盟友の元衆院議員を支援したが、立民が推した元大学教授に惨敗。10月の衆院議員の任期満了を控え、党内で「菅降ろし」が一気に拡大した。菅氏はぎりぎりまで、9月の総裁選への再選出馬を目指し、解散や内閣改造・党役員人事による局面転換を模索したが、いずれも封じられ、不出馬に追い込まれた。 

 

 内閣支持率が低迷する中、「政治とカネ」が大きな争点となった三つの選挙で、不戦敗を含め全敗した点は、岸田首相と菅氏は共通。静岡知事選で自民系候補が敗れれば、岸田首相は、菅氏がたどった道をもう一歩進むことになる。 

 

 

1978年の自民党総裁選で予備選挙の結果が記入された表 

 

 任期途中で辞任した安倍晋三元首相の後継の菅氏は、20年9月の首相就任直後の高い内閣支持率を追い風に、解散に踏み切ることが取りざたされた。しかし、政権の「成果」を出すことを優先し、解散をせず、1年後に退陣となった。 

 

 一方、岸田首相は昨年6月の通常国会会期末、解散風を吹かせたが、最終的に見送った。その後、裏金事件などが起き、内閣支持率が急落。解散のタイミングを逃し、総裁再選が見通せなくなった点も、菅氏と同じだ。岸田政権を支える有力議員は「1年前に解散しておけばよかった」と悔やむ。 

 

 ◇人事断行し再選出馬も 

 

 解散を強行した場合の大幅議席減のリスク、党内や公明党の反発を考慮し、岸田首相は解散せずに再選を目指すとの見方も党内で浮上している。国会閉幕後に内閣改造・党役員人事を断行。自身を支持する実力者を党や内閣の要職に据え、足元を固めつつ刷新感を出し、総裁選に臨み、再選を果たすシナリオだ。 

 

 衆目が一致する「ポスト岸田」候補が見当たらないことや、麻生派以外の5派が解散を決め、派閥単位で岸田首相の対抗馬を推す可能性がなくなったことを踏まえた判断でもある。岸田首相との関係悪化が指摘される茂木敏充幹事長の後任には、菅氏ら非主流派とのパイプのある森山裕総務会長の名前が挙がる。 

 

 とはいえ、内閣支持率が大幅に上昇しない限り、このシナリオの実行は厳しそうだ。というのは、衆院議員の任期満了を来年10月、参院選を来年夏に控え、総裁選は「選挙の顔」選びとなる。多くの衆院議員や改選を迎える参院議員は、自身の選挙に少しでも有利になる候補を支持する可能性が高い。選挙地盤が弱い議員ほど、新首相誕生による自民党への逆風の緩和を期待するだろう。 

 

 また、岸田首相(総裁)の任期満了に伴う総裁選は、国会議員票と党員票の割合は同じ。不人気の岸田首相が現職の利を生かして議員票を固めても、党員票で対抗馬に大きく水をあけられれば、再選はおぼつかない。 

 

 岸田首相は再選が見通せなくても、出馬して勝負をかけるのか? 総裁選の歴史で、現職が敗れたのは、福田赳夫氏が大平正芳氏に敗北した1978年のみ。もし、岸田首相が出馬して敗れれば、2人目という不名誉な記録が残る。菅氏のみならず、河野洋平氏、谷垣禎一氏も党内情勢から再選が難しいと判断し、自ら身を引いた。 

 

 もし、岸田首相が解散できずに総裁再選を模索し、勝利が見通せずに出馬断念となれば、菅氏の「来た道」を歩んで、政権から去ることになる。 

 

 ◇攻守逆転、キーマンの菅氏 

 

 前回総裁選で、対抗馬として最初に名乗りを上げたのは岸田首相だ。菅氏は退陣後、周囲に「政権としてコロナ対策に全力を挙げてきた状況で、総裁選に手を挙げる人がいるとは思わなかった」と無念の胸中を吐露している。 

 

 政権発足から2年7カ月が経過し、岸田首相の再選戦略は厳しさを増している。一方、菅氏は非主流派の実力者として、報道各社の世論調査で次期首相候補の上位を占める石破茂元幹事長、小泉進次郎元環境相と気脈を通じる。攻守所を変えた形だ。 

 

 前回総裁選で菅氏は、岸田首相から「国民の声が政治に届いていない。民主主義の危機」と断じられた。しかし、当時の菅政権より、現在の内閣支持率、自民党支持率とも大きく下回る。世論調査の数字は、岸田政権で「民主主義の危機」がより進んだことを示している。 

 

 こうした経緯がありながら、菅氏が岸田首相の再選を認めるとは思えず、タイミングを見て「勝ち馬」づくりに動きだすのではないか。また、岸田首相が、野党の内閣不信任決議案提出を受けて立つ形で解散しようとすれば、「岸田降ろし」の包囲網に加わるだろう。国会会期末から総裁選にかけ、菅氏が政局のキーマンの一人であることは間違いない。 

 

 

 
 

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