( 166839 ) 2024/05/04 15:55:13 0 00 立憲民主党石垣のり子氏が参加した「ALPS処理水の海洋放出抗議集会」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Mihajlo Maricic
福島第一原発のALPS処理水を「汚染水」と言い換えることで、風評被害を煽る人たちがいる。福島在住ジャーナリストの林智裕さんは「韓国の野党議員が、そうしたデマを広げて、日本を攻撃している。さらに立憲民主党などの一部の議員が、韓国議員と連携して、共同声明を出している。これ以上、被災地を苦しめるのはやめてほしい」という――。
【写真】なぜ泉健太代表は立憲民主党の暴走議員を処分しないのか
※本稿は、林智裕『「やさしさ」の免罪符 暴走する被害者意識と「社会正義」』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
■立憲民主党石垣のり子氏が参加した「ALPS処理水の海洋放出抗議集会」
「参議院議員の石垣のり子と申します。今日は党を代表してこちらに」 「関係者の理解なくしてはどのような処分も行わないという約束を破って」 「さらに海洋汚染を広めていく可能性も否定できない」
ALPS処理水の海洋放出が本格化した2023年8月24日から3日後の27日、立憲民主党の石垣のり子参議院議員は、社民党の福島瑞穂代表、日本共産党の小池晃書記局長らと共に、福島県いわき市小名浜(おなはま)での抗議集会に参加した。
石垣議員は2019年の参議院議員選挙で立候補し、おしどりマコと共闘し、当選している。当時のTwitter投稿を見ると、おしどりマコとのツーショット写真と共に、《あらゆる壁を超えていく。半径5mを変えていく。#石垣のりこ #おしどりマコ #共闘》《#生意気な女じゃダメですか #自由に生きちゃダメですか #新しい人じゃダメですか #石垣のりこ #おしどりマコ #共闘》などの文字が並ぶ他、2人揃っての演説動画も残されている。
■数値が下がっても「問題がなくなったわけではない」と発言
動画の中で石垣は、
《宮城県では数値がほとんどの新聞などに掲載されているのはごくわずかでございますが、だからと言って問題がなくなったわけではないと。セシウムだけではありませんね、原子力発電で問題になる、人体に影響を与え得るであろう危険な物質は他にもございます。しかし、実態がわからないがゆえに、また明らかに万が一なってしまうと困るであろうということも想定されて、今触れられていないというのが現状のようです。この辺は私、いい加減なこと申し上げるわけにはいきませんが非常に今この宮城県があいまいなまま原子力発電に関して原発の問題放射能の問題に関しては進んでいるというのが私の認識です》
と演説していることがわかる。
■政治家として不勉強
国連科学委員会などの科学的知見及び「なぜセシウムだけを測るのか」の理由などを知らずにやっているなら、政治家として不勉強と断じざるを得ない。
共産党や社民党らと共に行った集会の演説で、石垣議員は処理水放出に対し、「約束を破って」と言った。
しかし、全漁連の坂本雅信会長は同年8月21日にALPS処理水放出に関して岸田総理と会談した際、「約束っていうのは、破られてはいないけれど、しかし果たされても居ないと、そういうように思っております」と発言した。
翌22日に行われた西村康稔(やすとし)経済産業相(当時)が県漁連の野﨑哲会長と行った対談でも、野崎会長からは改めて処理水放出には反対しつつも「現時点で約束は果たされていないが、破られたとも考えないという立ち位置」「廃炉を完遂したいという方向性は(国や東電と)同じ。反対という立場で日々、緊張感を持ってこの事業を見ていきたい」との発言が得られている。
■批判の矛先が県漁連に向けられた
漁連がこのような言い回しをする背景には、2015年のサブドレン計画(汚染水の発生量を減らすため、建屋に流れ込む地下水を周辺の井戸でくみ上げ、浄化処理してから海洋放出する計画)を巡る経緯がある。
かつてサブドレン計画を漁連が容認した際、活動家の批判の矛先は県漁連に向けられた。県漁連の容認によって、サブドレン計画の実施が決まった形となったからだ。
ところが、国も県もこうした状況から徹底的に目を逸(そ)らし、「正確な情報発信を続けていく」などの杓子定規な「風評対策」ばかりで当事者を守ろうとしなかった。漁連側には、そのトラウマが根底にある。
だからこそ、「自分達が賛成したことによって政策が決定された」と見做される構図を二度と再現するわけにはいかなかった。
■国内外に「風評被害」を広めている
漁業者団体の代表すら差し置いたうえで、石垣は具体的に誰との何をもって「約束を破って」と言うのか。世論が海洋放出に賛成多数の中で、「関係者」をあまりにも恣意的に仕分けしてはいないか。
挙句、「海洋汚染を広めていく可能性も否定できない」との発信は、国内外に誤解と風評を広め、他ならぬ地元漁業者たちを苦しめる言説だ。一体誰のため、何のための活動か。これも「立憲民主党の考えの体現」なのか。
度重なる「汚染」の喧伝には、多くの当事者が苦しめられてきた。多くのマスメディアも「海洋放出に反対する漁業者」ばかりを当事者として報じた一方、海洋放出反対運動という「社会正義」が踏みにじった当事者にはスポットをあてようとしなかった。
《娘がさ、大学の掲示板?SNS?に「汚染水とか言わないで」と、投稿したと自分に教えてきました。色々あって思う所もあったのでしょう。
けど、なんで被害者の福島県民がこんな誤解を解く行動をしなくては行けないのか。本当に切ないです。汚染水、汚染魚。どれ程傷ついたのか言う人間は知らない》
福島県内で農家を営む阿久津修司がXに書いた訴えは45.3万回以上表示され、2024年5月1日段階で1268件のリポスト、5129件の「いいね」が寄せられていた。
一体誰が、こうした当事者に寄り添うのか。「汚染」喧伝による人権侵害を止めるのか。
■処理水放出は「科学的には一応答えは出ている」とした岡田幹事長
石垣の演説から2日後の8月29日、記者会見で見解を問われた岡田克也幹事長は、「『党を代表して』と、そういう立場で出て行ったとしたら、それは党の見解を述べてもらわないといけない」と答えた。
一方で、岡田幹事長は7月11日の記者会見で、処理水放出は「科学的には一応答えは出ている」としたうえで、風評被害を防ぐための努力が「十分だとはとても思えない」と発言し、理解を得るための努力が足らないという点で政府を批判してきたという。
7月20日には同党の長妻昭政調会長も、処理水放出について「風評被害を払拭する努力が足りない」として放出に反対する考えを示してきた(立憲民主党公式動画より21分7秒近辺)。
■韓国の野党と共同声明を発表
「風評払拭への努力が足りない」とは、一体誰のことか。
石垣議員の発言が党の方針とまったく異なるならば、公的な場で「党を代表して」発言した石垣議員には当然、何らかの処罰を行うのが妥当だろう。まして、科学的事実に反して国益を損(そこ)ね、被災地を苦しめる誤解や、風評を助長させかねない発信ならばなおさらだ。
しかし、石垣議員が党内から公式に何らかの処罰を受けた様子は見られない。
そもそも立憲民主党は石垣議員のみならず、これまでも処理水に対する「汚染」喧伝活動に少なくはない議員が関わってきた。2023年7月にも日本共産党、社民党、れいわ新選組の議員らと共に韓国の革新系最大野党「共に民主党」と無所属の議員でつくる「福島核汚染水海洋投棄阻止国会議員団」の10人と会談した。
7月12日には、立憲民主党やれいわ新選組など野党議員8人及び韓国最大野党「共に民主党」の議員ら11人による共同声明まで発表した。
(以下、日本側から参加した議員8人) ◎立憲民主党 阿部知子 近藤昭一 篠原孝 原口一博 大河原雅子
◎れいわ新選組 櫛渕万里
◎社民党 福島瑞穂 大椿裕子
■阿部知子氏に口頭注意があったのみ
この件について、立憲民主党の泉健太代表は同年7月14日の定例会見で、「党の政策として動いているとか、党の立場として動いているものではない」と述べた。
韓国野党との共同声明に署名した5議員に対する党執行部の対応は、記者会見にまで同席した阿部知子衆議院議員に対して岡田幹事長からの口頭注意があったのみで、他の4議員には何の処分もなかった。
立憲民主党の一部議員が、党の公式見解である「処理水」と異なる「汚染水」との表現を用いていることなどに関し、岡田幹事長は9月12日の記者会見で、「党で決まったことはしっかり守ってもらう必要がある」としつつ、「だからといって、個々の議員が(意見を)言えなくなるようなことにはしたくないというのが私の信念だ」と語ったという。
■「セクシーキャバクラ」で除名にしたことも
立憲民主党の泉代表も、8月25日の記者会見で、「党の見解は『処理水』だ」としつつも、「国会議員がさまざまな見解を持つことそのものは、即座に否定されるべきものではない」と語った。
ところが、その6日後の8月31日、与党側の野村哲郎農水相(当時)が、処理水を誤って「汚染水」と発言し、その後に撤回、謝罪した件に対して泉代表は、「気の抜けた対応だ」「言い間違いというものだとして、一連の処理水に対する対応は緩んでいると。自覚が足りない」などと批判し、厳しく追及する構えを見せたという。
立憲民主党の見解や批判・処分の基準はどこにあるのか。立憲民主党内における処分などの対応がなされた他の事例と比較してみよう。
2020年、立憲民主党は新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言の発令後に、東京・歌舞伎町の「セクシーキャバクラ」と呼ばれる飲食店で遊興していた高井崇志衆院議員(当時。比例中国、現れいわ新選組幹事長)を除籍(除名)処分とした。
2023年には、衆院憲法審査会の毎週開催を「サルのやること」「蛮族の行為」などと発言した小西洋之参院議員に対して、党の規約で定められている4段階の処分のうち、最も軽い「幹事長注意」を行った。
■「個人的な主張をするなら、党の名前を名乗らないで欲しい」
他の分野も確認してみよう。立憲民主党参議院比例第22総支部長である栗下善行は、自身のHPの冒頭に掲げる政策に表現の自由を強く掲げ、《マンガ、アニメ、ゲームを含むあらゆる表現を守るために全力を尽くします》と訴える。
ツイッター(X)でもたびたび「表現の自由」を訴えてきたが、ある時からアカウント名やプロフィールから「立憲民主党」の文字が消されていた。
しかし、栗下は立憲民主党を離党していたわけではなかった。
これに対し、同年6月26日に、一般ユーザーから《久しぶりに見かけたら、名前やbio(biography)から立憲の文字がなくなっていた。離党されたのか、これは支持しなければと思ったら消されていただけの模様。不誠実な感じで二重に残念。》とのコメントが寄せられた。
栗下はこれに対し、《これまでも度々書いてきましたが、2022年8月に立憲民主党幹部の方から「個人的な主張をするなら、党の名前を名乗らないで欲しい」と言われたためです。私もびっくりしましたが、党の名前を消す方を選びました。あまり荒立てたくありませんがこれはご理解頂けましたら》と返信している。
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