( 168439 ) 2024/05/09 02:05:33 0 00 大型連休中の外国為替市場で円相場が乱高下している。政府・日銀による円買いの為替介入があったと見られるが、その後も円安・ドル高基調が続く。今回の円安は日米の金利差が主因だが、為替取引の構造変化も見逃せない。
【関連画像】29日午後、財務省内で円相場について取材に応じる神田真人財務官(右端)(写真:共同通信)
4月26日、日銀は金融政策決定会合で政策金利を据え置いた。会合後の記者会見で、植田和男総裁は「現状の円安なら物価への影響を無視できるか」との問いに対して「はい」と明言した。これで日銀が早期に利上げに動くとの警戒感が後退し、円相場は1ドル=155円台から158円台まで下落した。
29日には34年ぶりに1ドル=160円台を付けた後、154円台まで急騰する場面があった。市場では政府・日銀が円買いの為替介入に踏み切ったとの観測が広がっている。日銀が4月30日に公表した当座預金残高の見通しに基づき、29日の円買い介入が5兆円規模だったとの見方も出ている。
「為替介入があっても効果は一時的だ」。三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジストの植野大作氏は円安・ドル高基調が続くと見る。こうした見解を裏付けるように、30日(現地時間)のニューヨーク外国為替市場では再び円安・ドル高が進み、1ドル=157円台後半まで下落した。
今回の円安の主因は日米の金利差だ。米国の10年物国債の利回りは4%台後半と昨年11月以来の高水準。一方で日本は0.8%台にとどまる。金利が高い国に投資すると高い利息が得られることから、金利の安い国の通貨を売って高い国の通貨を買う構造的な要因となっている。国内の輸入企業などの実需勢に加え、ヘッジファンドなどの投機筋が円売りを加速させている。
●強い米経済、利下げ観測が後退
年初時点では、今年は円高・ドル安基調に転じるとの見方が多かった。米国のインフレが最終局面に入り、米連邦準備理事会(FRB)が年内に大きく利下げに転じ、日米の金利差が縮小するとの見立てだ。だが米国経済は強く、足元ではインフレが市場の予想以上に根強いため、利下げ観測が後退している。
米金利先物の値動きから市場の織り込む政策金利の予想を示す「フェドウオッチ」によると、2024年末までの利下げ回数で現在有力視されているのは「1回」と、3月時点の「3回」から後退した。年内の利下げ見送りや再利上げの見方も浮上している。
日銀の金融政策はどうか。3月にマイナス金利を解除し、現在の政策金利は0~0.1%。市場では円安でコストプッシュ型のインフレが進めば、7月にも追加利上げに踏み切る可能性があるとの見方が多い。一方、米国の政策金利は5.25~5.50%と過去最高水準にある。日米10年債の金利差は4%近くまで拡大している。日銀が追加利上げをしても、金利差は大きくは縮小しない見通しだ。
足元の円安はこの金利差が引き起こしているのは間違いない。だが、円売り・ドル買い需要を生み出す構造変化が静かに進んでいることも見逃せない。
第1に、日本人による米グーグルや米アップルといった巨大プラットフォーマーのサービスの利用が急拡大していることだ。利用料金の支払いには円を売ってドルを買う必要があり、国をまたいだ「デジタル赤字」は年5兆円規模に達する。
米マイクロソフトのクラウドサービスや米ネットフリックスの映像配信サービスなどはビジネスや生活で欠かせないものとなり、代替する国内サービスも少ないことから、今後も円の下押し圧力として続く。23年には、海外とのモノやサービスなどの取引状況を示す「貿易・サービス収支」が5年連続で赤字となった。
第2に製造業を中心とする国内産業の空洞化だ。日本企業は過去の円高局面時に生産拠点や販売網の海外移転を進めた。稼いだ外貨が円に転換されれば円高・ドル安要因となるが、人口減で大きな成長が見込みにくい国内に還流させることなく海外で再投資するサイクルを回し始めている。企業の海外子会社の利益などの「直接投資収益」は23年に20兆円超の黒字となったが、その多くが海外子会社に残ったままだ。
●為替介入には限りがある
第3に、1月に始まった新しい少額投資非課税制度(NISA)を通じた個人の海外投資だ。「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」や「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」など米国株を多く含むインデックスファンドが人気で、投資先は海外の株式や債券などが多くを占める。
日本総合研究所によると、新NISA開始による海外投資額は最大で年3兆9000億円程度となる見通しだ。これはドル円相場を最大6円弱下押しする計算だという。新NISAでは多くの個人が毎月決まった額の投資信託を買う積立投資をしているため、為替の動向に関係なく一定規模の円売り・ドル買い需要が繰り返し生じることになる。
前述のように29日に政府・日銀が実施したと見られる円買い介入は5兆円規模と推測されている。3月末時点の政府の外貨準備高は約1兆2900億ドル(約195兆円)であり、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野氏は「1回の介入が5兆~6兆円とすると、介入ができるのは20回程度まで」と見る。
日本単独の為替介入は効果が限られるが、長引くインフレを退治したい米国にとって円高・ドル安要因となる協調介入は現在の金融政策に反する動きとなるため受け入れることは難しいだろう。日本は介入で時間稼ぎをする間に米国の利下げを待つしかないのが実態だ。
市場関係者は2日未明(日本時間)に発表される米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果に注目している。パウエル議長から金融緩和に消極的な「タカ派」の発言が飛び出すようだと円売りが再び勢いづき、政府・日銀が介入で対抗するといった展開も考えられる。
阿曽村 雄太
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