( 169270 ) 2024/05/11 17:36:13 0 00 航空自衛隊の最新鋭戦闘機F-35。JSMミサイルなど搭載可能だ(写真・航空自衛隊ホームページ)
日本は敵国攻撃能力の導入を進めている。戦時において敵国領土内にある目標を攻撃する。そのために巡航ミサイル導入を進めている。しかし、そのミサイルで何を狙うのかは見えていない。それでどのような効果を期待するのかといった話もない。日本の敵国攻撃能力は何を狙うのだろうか。
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将来的には海南島の中国海軍基地が第1目標となる。なぜなら敵国攻撃に求める3つの条件をすべて満たすためである。
■あやふやな敵国攻撃能力
日本は敵国攻撃能力に何を期待しているのだろうか。現状ではその段階から不明瞭である。明確な目的があっての話ではない。
そもそも対象国の段階で変化している。当初は北朝鮮対策であった。核実験と弾道弾開発への対策として1990年代に与党が持ち出したのが始まりである。最終的には北朝鮮弾道弾の発射前撃破を狙う話となった。
それが中国対策に一変した。導入検討は2020年6月に始まる。これはイージス・アショアの代替策としてであり北朝鮮対策であった。
それが同年秋口から中国対策に変化した。南西諸島侵攻の抑止のためには必要であるとの内容である。後には台湾有事の抑止も加わった。
なお、どちらの場合も実現性の検討はしていない。本当に敵国攻撃能力が効果を挙げるのか。そのような評価はまったくない。
実際のところ、抑止は北朝鮮でも難しい。アメリカの強大な航空戦力や核兵器にも怯まない国である。日本が準備できる程度の巡航ミサイル攻撃は怖れもしない。
弾道弾の発射前撃破も絵空事である。車載式でありつねに動き回っており低速の巡航ミサイルでは狙えない。
中国抑止は空想でしかない。南西侵攻の抑止は空中楼閣である。そもそも中国に侵攻の素振りがない。それを抑止するとの理由づけ自体が珍妙である。
台湾有事を抑止する力もない。中国が台湾回収を決意するのはよほどの状況である。アメリカの参戦はない場合か、あるいは参戦があっても戦う覚悟を決めている。その際に日本の巡航ミサイル攻撃があるかどうかは気にしない。
■攻撃対象も攻撃範囲も揺れ動く
攻撃対象も明確にできてはいない。防衛省が陸海空それぞれの自衛隊に巡航ミサイル配備を進めているのは、それを決めかねているからである。
陸軍式に敵上陸部隊の出発港攻撃に使うか、海軍式に潜水艦等に積んで中国後方撹乱に利用するか、空軍式に中国軍用機の地上撃破に用いるか。日本の戦力規模からすればどれか1つに絞る必要があるが、それができていない。
付け加えれば、攻撃範囲も揺れ動いている。これは名称の変化からうかがえる。最初の「敵基地攻撃能力」とは軍事基地や所在する軍隊を攻撃するニュアンスである。それが後には「反撃能力」に名前を変えた。
これは目標は軍隊には限らないニュアンスを含んでいる。目標を軍隊に絞るのか、交通施設等を含むのかも決めかねていたのだろう。
日本は敵国攻撃能力をどう使うのか。それは現時点ではまったく決まっていない。ただし、今後の方向性は推測できる。すなわち「おそらく防衛省・自衛隊はその方針でまとまるだろう」との内容は見えている。
それは中国の戦力分散である。平時、戦時を問わず中国に後方防衛を強要する。それにより対日正面に向く軍事力を減らす。その形でまとまるだろう。
そのために日本は中国の後方部に巡航ミサイルを指向する。まずは南シナ海沿岸部である。可能ならば海から離れた内陸部も狙うこととなる。
■中国の戦力分散を狙うか
これは「日本が戦時に南シナ海や内陸部に巡航ミサイルを打ち込めばどうなるか」を考えるとわかりやすい。
中国は後方防衛を強化しなければならなくなる。日本の巡航ミサイル迎撃のために戦闘機や対空ミサイルを用意する。また、発射元となる日本潜水艦や護衛艦への警戒も強化しなければならない。
その分の戦力は日本の正面から減る。後方防衛に戦力を割いた分、各正面の戦力は減る。東シナ海方面の戦力も減る。それにより日本は中国との軍事的対峙を有利にできる。東シナ海正面における中国軍事力と日本軍事力の比率を改善できるのである。
なぜ、そのように推測できるのか。戦力分散の強要は日米の対中軍事戦略と合致するからである。
アメリカは対中軍事戦略の主軸に据えている。南シナ海まで軍事力を展開しているのはそのためである。
アメリカが潜水艦を投入すれば中国は対潜水艦部隊を配置しなければならない。哨戒機を送り込めば、中国は多数の戦闘機を配備しスクランブル(緊急発進)をかけなければならない。
これには「航行の自由作戦」も含まれる。アメリカが軍艦1隻を南沙諸島に送り込むと中国は数隻の軍艦で対応しなければならない。
さらに、それ以降の「航行の自由作戦」に備えて南シナ海に多数の軍艦を張り付けなければならないのである。
戦時に内陸攻撃を仕掛けるのも同じ趣旨である。おそらくアメリカは昆明や蘭州、さらには新疆、チベットを攻撃する。
それも防空網が手薄なミャンマーやカンボジア、ラオス、場合によればパキスタン上空を経由した攻撃を実施するだろう。中国に後方全体の防空を強要するのである。
日本の対中軍事戦略もその方向にシフトしている。海自が進める南シナ海展開も同様の理由である。これまでは親善使節に近い練習艦隊が通過する程度であった。それが最近では実戦部隊の軽空母や護衛艦、潜水艦を送り込んでいる。
日本潜水艦の大型化もこの文脈で理解できる。1990年代末に登場した「おやしお」級以降は、従来潜水艦の1.5倍から2倍の大きさになっている。これも南シナ海での作戦活動のためと見るのが自然である。
フィリピン軍事援助も同じ目的で解釈できる。日本が背後につくことで同国は中国に対して強気になる。それにより南沙問題などの泥沼化が期待できる。つまりは中国の力をそげるのである。
■攻撃目標はどこか
日本の敵国攻撃能力は何を目標とするのだろうか。候補はいくつも考えられる。
例えば、エネルギー輸送路である。中央アジアや四川省の天然ガスを沿岸部まで送る西気東輸、川気東送パイプラインである。ミャンマーと昆明を結ぶ中緬油気管道を加えてもよい。いずれも攻撃すれば中国は防御強化を図る。
また、鉄道施設も有力な攻撃目標となる。長江を跨ぐ15の鉄道橋は中国南北交通の隘路である。ここも戦時に攻撃すれば過度の反応を引き起こす。
実際に、指摘しただけで解放軍が反応したことがある。筆者は10年ほど前に「橋のうち4ないし7を落とせば中国戦争経済は崩壊する」と軍事専門誌に書いた。すると解放軍は33年間も実施しなかった長江での仮設橋展開演習を再開した。
衛星発射基地も好目標となる。酒泉基地(甘粛省)ほかへの攻撃は低リスクなので安心して実施できる。
まず中国の市民生活や周辺の民間人を巻き添えにしない。そのうえで報復を受けても日本も困らない、種子島や内浦湾が攻撃されても市民生活や周辺住民への影響はない。
ただ、その中でも目標として間違いないのは、海南島の中国海軍基地だ。まずここを、日本の敵国攻撃能力は目標とする。
なぜなら目標としての3条件をすべて満たすからである。戦争を有利にする、攻撃成功も見込める、攻撃実施に困難は伴わない。海南島はそのいずれも満足する、ほぼ唯一の目標である。
■戦争を有利にできるか
第1に、戦争を有利にする効果は間違いないことである。中国が最も重視する戦力は何だろうか。戦略原潜と空母である。どちらも対米抑止には欠かせない。
戦略原潜は核反撃能力の要である。中国戦略原潜が生き残る限りは、アメリカは中国との戦争をためらう。またアメリカの先制核攻撃を封じることもできる。
空母は中国沿岸部における制海権確保のカギだ。やはり、中国空母が生き残っている限り、アメリカ艦隊は中国沿岸部には近づきがたい。
そして、そのどちらも基地を海南島の三亜においている。正確に言えば、対日米戦となった際に下がる基地を三亜に用意している。
安全確保のためである。海南島は沖縄の嘉手納や韓国の群山、アメリカ領グアムのいずれからも遠い港だ。それゆえに一番重要な戦力を配置しようとしている。
そこに日本が巡航ミサイルを指向すればどうなるだろうか。平時から搭載艦艇を近づけ、戦時に攻撃を仕掛ければどうなるか。
中国は海南島防衛に力を注ぐ。平時には日本艦隊が近づきがたくし、戦時には阻止しようとする。そのために南シナ海の防衛戦力を増強する。
つまり、戦力分散の強要を期待できる。軍事力の対中劣勢といった日本の問題点を解決できるのである。
■攻撃は成果を生むか
第2は、成功を見込めることである。攻撃すれば成果を期待できる。その点でも海南島海軍基地は敵国攻撃の目標としての条件を満たす。
これは戦略原潜や空母を確実に撃沈破できるといった意味ではない。損傷を与えられなくとも戦力分散を強要できる。その意味で攻撃は成功を見込めるのである。
攻撃は命中弾なしで終わるかもしれない。中国の防空警戒網に引っかかる、あるいは別の軍艦を狙ってしまう、そもそも攻撃時に停泊していない、命中直前に迎撃される事態である。
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