( 169900 )  2024/05/13 17:42:53  
00

「休日千円」が始まった日の高速道路=平成21(2009)年3月、兵庫県川西市 

 

高額な高速道路料金が「地域格差の正体」だとして、現行の走行距離に応じて課金される「距離制」を改め、普通車400円、大型車1500円など「定額制」で走り放題とする料金制度改革を、元トヨタ副社長の栗岡完爾さんと経営コンサルタントの近藤宙時さんが提言している。(「上」から続く) 

 

【グラフでみる】都道府県をまたぐ移動手段の割合 

 

■走り放題だった2年3カ月 

 

深夜の東名高速・海老名サービスエリアに、「車中泊」するノアやヴォクシーが並んでいた。 

 

15年前の平成21(2009)年3月から2年3カ月間、「高速休日上限千円」という政策が行われた際のことだ。 

 

前年のリーマン・ショックを受け、当時の麻生太郎政権が景気対策として決断。乗用車とバイクのみで物流は対象外、さらに地方部のみ、ETC(自動料金収受システム)利用のみと限定的だったが、土日祝日どこまで走っても千円という政策の結果、ETCの普及にも弾みがつき、各地の大型サービスエリアには車中泊する車が目立った。 

 

この政策のための国家予算は当初、「2年で5千億円」といわれたが、国土交通省の有識者委資料によると実際にかかったのは年間1500億円ほどだった。一方、観光への直接効果は年間3600億円、経済全体への効果は年間8千億円に上ったという。 

 

■渋滞は「全日定額ならさばける」 

 

昨年5月、近藤さんは参院国土交通委に参考人として出席、定額制のメリットを説明した。一方で政府側は一連の答弁で、次の3つのデメリットを示した。 

 

1つ目は「激しい渋滞が発生する」というもので、「休日千円」の際、毎週末に大型連休並みの渋滞が発生し、特に東名、名神両高速では約3倍の渋滞となって、物流に悪影響が出たことを念頭に置いている。 

 

これについて、近藤さんは「休日千円はよく『失敗』といわれているが、もともと渋滞しやすい休日のみ実施し、ピークをよりピークにしてしまった。全日定額制ならさばけると考えている」と指摘。さらに、定額制にすると出口で料金所がいらなくなるため、現在10キロに1カ所程度ある出口について、首都高速のような簡易な出口を増やすことで、車が分散化して出口渋滞を解消できるとした。 

 

また、休日千円が行われた平成21年ごろはまだ、新東名高速は開通していなかった。24、28両年の静岡、愛知両県での新東名の開通により、東名高速の渋滞はかなりの程度解消されている。 

 

 

2つ目のデメリットの指摘は、岸田文雄首相も触れた「ほかの交通機関へ悪影響が出る」というものだ。国交省によると、休日千円の際は高速バスの利用者が1割減、フェリーの旅客が2割減る悪影響を受けた。一方で鉄道の利用者数に大きな変化はみられなかったという。 

 

近藤さんは、鉄道への影響がほぼなく、休日千円ではバスは対象外だったことに言及した上で「ほかの交通機関へ影響を及ぼしたとしても、全体として国富が増えるかどうかのほうが大事ではないか」と応じた。国交省の調査で、都道府県をまたぐ移動手段の約75%は乗用車利用との結果が出ている。 

 

栗岡さんらによると、そもそも距離制の料金制度は、昭和30年代に名神高速を建設する際、同時期に建設されていた東海道新幹線から利用客を奪わないように配慮されたためとの話もあるという。 

 

■「公正な競争環境ゆがめる」 

 

政府側は定額制の3つ目のデメリットとして、高速道路の建設費が金融機関などからの債務で賄われ、料金収入で返済される仕組みであることに関し「安定的な債務返済が難しくなる可能性がある」と答弁。 

 

近藤さんは「逆に人口減少の中、現行の料金制度で払えるのか。むしろ定額制のほうが利用者が増えるのではないか」と反論した。 

 

こうしたやり取りについて、国交省高速道路課は取材に対し、「鉄道も航空機もバスもフェリーも距離制の中で、高速道路だけ定額制にすることは、公正な競争環境をゆがめることになる」と説明。「公平性の観点から、利用した距離に応じて負担する距離制が適正であると考えており、定額制についてはメリット、デメリットを比較して慎重に検討していきたい」としている。 

 

同省には、他の業界団体から「バス利用の減少や渋滞の増加を招くため、高速料金の今以上の値下げには反対」(日本バス協会)、「公正な競争環境をゆがめることなく、フェリーなど海上輸送に悪影響を与えることのないようにすべき」(日本旅客船協会)との意見が寄せられているという。 

 

 

■割引「年間9千億円」か値下げか 

 

一連の答弁で、政府側は「地域間交流を通じた地域経済の活性化が期待できる」と定額制のメリットも挙げた。また、政府は昨年7月に閣議決定した「第3次国土形成計画」の中で、東京一極集中の是正に向け、二地域居住者ら特定の地域と継続的に関わる「関係人口」など、地方への人の流れの創出、拡大を掲げた。 

 

高速料金が距離制を続けるなら、たとえば都市から地方のテレワーク先や二地域居住先への移動について、自治体と協力して「二地域割」といった割引を行うなど、地方への人流を作りだすツールとして活用するアイデアも出ている。 

 

実際、国交省によると現行の距離制料金制度では、観光振興や沿道の環境改善など、それぞれの政策課題を解決するため、休日割引、夜間割引など20種類もの割引を行っており、総額は令和元年度で約9千億円に上るという。 

 

栗岡さんらは「複雑な割引を年間9千億円も行うくらいなら、定額制による値下げで利用者を増やしたほうが、国の大方針である地方への人流、物流の拡大に資する」と指摘する。 

 

 

 
 

IMAGE