( 170320 )  2024/05/14 17:45:29  
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フジテレビ社屋 

 

元財務官僚でエコノミストの髙橋洋一氏の書籍『髙橋洋一のファクトチェック 2024年版』(WAC BUNKO)。 

 

【写真】ホリエモンが買収しようとしていたものといえば… 

 

本記事では書籍を一部抜粋・再構成し、なぜ日本に世界に通用するIT企業が育たないかを考察する。 

 

──ネットでもよく話題になるのですが、日本から世界的なIT企業が生まれないのはなぜなんでしょう。 

 

なんでなんだろうね。でも、その目のようなものはなくはないんだよ。例えばホリエモン(堀江貴文)とか、Winny(ウィニー)の開発者の故・金子勇さんとか、けっこういるんだけれど、どうもみんな潰されるような印象がある。ああいう芽を育てていれば日本もずいぶん変わっていた気がするけどね。 

 

日本人はそういう先進的な分野に弱いとは思えない。そこそこ面白いアイディアもあるからね。たぶん、社会の仕組みや教育のせいもあるんじゃないかな。「みんな同じがいい」とか「出る杭は打たれる」とかいった日本的な社会の傾向があるように思うね。 

 

もっと自由にやらせていればずいぶん変わっていた可能性がある。ホリエモンがフジテレビを買収していたら、いまごろAmazonプライムみたいなことになっていたかもしれない。 

 

少なくともプロ野球はまったく違っていた。東大の故・金子勇氏が開発したファイル交換ソフトWinnyも、利用者に悪用されて残念なことになってしまったけれど、あれほど画期的なソフトなんだから、商標化すべきだった。若い人にチャレンジさせれば社会的に面白いんだけどね。 

 

 ──既得権益者が強いから新しい芽が摘まれるんでしょうか。 

 

それはあるね。ホリエモンが現れた時もマスコミが寄ってたかって叩いたでしょう。 

 

──日本社会はそういう傾向が強いですか。 

 

社会が安定しているから既得権がたくさんあるのは間違いないよ。高度経済成長で成功した人たちが既得権者になっている。パワーがあるからね、新参者を許さない。 

  

 

──アメリカでそうならないのはなぜでしょう。 

 

自由闊達で、下剋上の世界だとみんな割り切っているから、既得権がない。アマゾンもグーグルも新興企業でしょう。経団連のようなものもないから、昔の企業なんかあっという間に潰れる。規制というのもあまりないから、規制緩和をめぐる議論をすることもなく、自由にやっていいという発想がある。そうすると新しい人は伸びやすい。 

 

日本の場合は既得権にどっぷり漬かっている人たちが規制緩和に大反対している。規制緩和が嫌いな人って、みんな既得権に結びついているんだよ。 

  

 

──そういう人のほうが力があるから意見が通りやすい? 

 

そうなんじゃないかな。 

 

 

──もう一つお聞きしたいんですけど、今後クレジットカード会社はどうなりますか? 

 

金融業界も規制の塊の世界でね。たとえば銀行は昔、クレジットはあんまり綺麗な仕事じゃないからというので、ぜんぶ子会社か関連会社にやらせていたんだよ。だからクレジット会社は利ザヤで儲けていたんだけれど、銀行の本業のほうがなかなか大変になってきて、背に腹は変えられないから、どんどんクレジット業務を浸食し始めた。そうすると従来のクレジット会社は苦しくなると思うよ。 

 

だって、銀行のほうは預金があるから圧倒的に調達コストが安い。クレジット会社は自分で資金調達できないから、銀行からお金を借りてそれを貸しているところもある。既存のクレジット会社は徐々に銀行に飲み込まれていくんじゃないかな。 

  

 

──QRコード決済のPayPayのようなサービスはどうでしょう。 

 

銀行の決済がちょっと高かったり不便だったりすると伸びる可能性はある。でもあれは融資じゃなくて決済だから、デジタル通貨が普及したらなくなるよ。そもそも間に立つ意味がなくなる。みんなアプリで終わっちゃうもの。究極的には、中央銀行がデジタル通貨を発行すると金融業界はすべて要らなくなるよ。 

 

──逆に言うと、デジタル通貨はなかなか普及しないということですか。 

 

金融業界も生きていきたいから、既得権者たちが中央銀行のデジタル通貨発行に猛反対する。中央銀行が本格的に進出したら、デジタル通貨関連業者は全員討ち死にですよ。 

  

 

──でも、どこかの国が本気でそれをやり始めたら流れはそうなる? 

 

金融業界のない国では時々やっているけれどね。だけど一般的な国なら、さすがに銀行を潰すわけにはいかない。クレジット業界は潰れてもいいけど、銀行業界は守ろうとするよ。銀行は最後まで中央銀行とくっついているから、それに依存して生き残るだろうね。 

 

だけど、銀行といっても地方銀行は大変だよ。銀行には都市銀行と地方銀行とがあるけれど、地銀はもうあまり存在意義がないものね。地銀よりどちらかというと、いまだにフェイストゥフェイスの昔ながらの商売をやっている信用金庫のほうが強いと思うよ。一方、都銀はデジタル化して対面業務を減らしているでしょう。間に入った地銀はどっちつかずだからつらいところだよ。 

 

──地銀でまとまって都市銀行みたいになるようなことはないんですか。 

 

いまさら割り込めないでしょう。信用金庫は地元の商店街と昔ながらのやり方を維持して生き残ると思うけれど、地方銀行にはこれからイバラの道が待っているよ。金融業界もいよいよIT化が進むからついていけないところも多いだろうしね。 

  

 

──IT化でだいぶ様変わりしそうですね。 

 

クレジットカードだって昔なら番号を入力すればそれで終わりだったけれど、いまは本人認証サービスの3Dセキュアとかワンタイムパスワードみたいに複雑になっているでしょう。そのうち目の認証だけですむようになるかもしれないけれど、手にチップを埋め込むみたいな形も考えられる。そういうのにも対応しなければならないしね。 

 

SFの世界がやがて現実のものになる。資本力のないニッチなところは少しずつ脱落していくことになるよ。 

 

(2023年11月6日) 

 

 

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髙橋洋一(たかはし よういち) 

 

1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。80年、大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉内閣・第1次安倍内閣ではブレーンとして活躍。2008年に『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞を受賞。『安倍さんと語った世界と日本』(ワック)、『髙橋洋一式デジタル仕事術』(かや書房)ほか著書多数。菅義偉政権下で内閣官房参与を務めていたが、ツイート上でのコロナウイルスをめぐる「さざ波」発言をめぐって、21年5月に辞任。「髙橋洋一チャンネル」をYouTubeで好評配信中。 

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髙橋洋一 

 

 

 
 

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