( 170640 ) 2024/05/15 16:40:02 0 00 6年ほど前に注目を集めた「コンビニ生ビール」だが、結局は不発に。現在は結局、缶ビールばかりが売られている(写真はイメージです) Photo:Bloomberg/Getty Images
「販売体制が整えられない」ことを理由に、セブン-イレブンが「100円生ビール」(ちょい生)の提供を断念してから早6年。店内でのオペレーションを練り直す時間は十分にあったはずだが、他の大手チェーンを含め、今もなおコンビニ店頭で生ビールは売られていない。販売すれば大ヒットが見込めると思われるが、何がネックになっているのか。生ビールを売れない状況下で、最近になって一部コンビニが始めた「注ぎたての酒を売る」秘策とは――。(流通ジャーナリスト 森山真二)
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● 販売中止から6年… セブン「100円生ビール」復活はある?
セブン-イレブン(以下セブン)が、一部店舗で始める予定だった「100円生ビール」のテスト販売を急きょ中止したのは2018年7月。セブンは当時、その理由として「注目が集まりすぎて販売体制が整えられない」といった趣旨のコメントをしていたが、あれから約6年がたつ今も販売は再開されないままだ。
ビール需要の最盛期である夏を前にして、「100円生ビール」が再び売られればありがたいところだが、「まさかの復活」を果たす可能性はあるのだろうか――。
結論に触れる前に、かつてセブンが「100円生ビール」を売り出そうとした理由を改めて考察してみたい。おそらく、それは極めてシンプルなものだろう。生ビール本体での収益を得られるほか、カウンター回りのファストフード、チルドのサラダや焼き物、そして「おつまみ」などの「ついで買い」が見込めたからだと考えられる。
顧客による買い上げ点数の増加は、コンビニの成長にとって不可欠だ。ローソン元社長の新浪剛史氏(現サントリーホールディングス社長)は、ローソン社長在任時に「もう一品がなかなか増えない」「もう一品何かを買ってもらう努力をしたい」と語っていたことがある。
その観点からも、缶ビールよりも単価が安く、ビールサーバーによって味わいを高めた生ビールを提供すれば、顧客による「ついで買い」の食指が動いた可能性は高い。
セブンはかつて、レジ横で「揚げたてドーナツ」を展開して失敗したことがあるが、それとこれとはわけが違う。生ビールを売り出せば、確実に買い上げ点数アップの起爆剤になることはセブン側も分かっていただろう。
そうした勝算があったにもかかわらず、セブンが土壇場で生ビールの販売を取りやめたのはなぜか。次ページ以降では、筆者が考える「二つの要因」をはじめ、セブンによる「100円生ビール」再開の可能性や、コンビニで「注ぎたての酒を売る」ビジネスの最適解について解説する。
● コンビニが生ビールを売る 「意外なデメリット」とは?
こちらも極めてシンプルだが、セブンが生ビールの販売を取りやめた理由の一つ目は、「店頭の治安悪化」の懸念があったからだろう。
「ヤンキーがコンビニ前でたむろする」という言い回しがある通り、コンビニ各社はただでさえ店頭で酒宴を始め、たばこをプカプカとふかす迷惑客に苦しめられてきた。
その中で、缶ビールよりも安くてうまく、「その場で飲むこと」に価値がある生ビールを提供するとどうなっていたか。あるスーパーマーケット運営会社幹部は「コンビニの前は、あたかも居酒屋の店頭と化していただろう」と見る。
「ついで買い」の起爆剤として売り出したのはいいものの、「あのコンビニの前では酒盛りをいつもやっていて、入りづらい」「酔っ払いに絡まれたくない」という悪評が立ち、来店客が減ったら元も子もない。
「イートインスペースで一杯やってもらえば良かったじゃないか」と思う人がいるかもしれないが、生ビール片手の酔客が店内に集まっていると、それはそれで迷惑だ。
見方を変えると、当時よりイートインスペースが普及した今も、そこで缶ビールなどを楽しむ人はあまり見かけない。結局は「店内で飲むより、近くの居酒屋で一杯やった方が落ち着ける」という顧客心理になっているのかもしれない。イートインスペースと店内飲酒の相性は意外とよくない可能性もある。
いずれにせよ、そうしたメリット・デメリットを天秤にかけた結果、「生ビール販売中止」という判断に至ったのだろう。
● 販売中止には「リベート」も関係!? 情報通が指摘
二つ目は、メーカーが小売店に支払う「リベート(販売奨励金)」が関係しているとみられる。
というのも、酒・アルコール類の業界では、メーカーが小売店にリベート(販売奨励金)を支払い、値下げの原資に充ててもらう商習慣が存在する。一定期間内の売り上げ額に基づき、メーカー側が報奨金のような形でリベートを支給する場合もある。
このリベートについて、コンビニ事情に詳しいジャーナリストによると、セブンの生ビール(正式には、生ビールとして小分けする前のバルク)の売り上げに応じて支払い予定だった金額は「缶ビールより少なかった可能性がある」という。
その状況下では、もし「店頭の治安悪化」を度外視して店頭でセブンが生ビールを売り出したとしても、得られる収益は「意外と物足りない」ものになっていたかもしれない。
余談だが、このリベートは不当廉売につながることから公正取引委員会による注意喚起などの対象となってきたほか、酒税法の改正によって一定の基準が設けられてきた。
また、あまりにリベートを大盤振る舞いすると自社の利益を圧迫するため、メーカー各社はリベートの金額を調整し、安売りを広げすぎない施策を打っていた時期がある。だが小売店からの反発もあり、リベートという商習慣は形を変えて残り続けているのが現状だ。
セブンの生ビールに話を戻すと、こうした「二つの事情」がある状況下では、テスト販売の再開は難しそうだ。他の大手を含め、夏の需要期を迎えても、店内で売られるのは今まで通り「缶ビールのみ」だと考えられる。
● 「コンビニで注ぎたての酒を売る」 ビジネスの最適解とは?
しかし、「コンビニで注ぎたての酒を売る」という施策にビジネスの芽があるのも事実である。その証拠に、JR東日本の沿線内で駅ナカコンビニを展開する「ニューデイズ」は、今も一部店舗で生ビールを売り続けている。ニューデイズは店舗が駅構内にあり、酔客のたむろを物理的に防げるほか、新幹線の乗客などによる利用が見込めるという特殊事情があるから成立しているのだろう。
また、昨今は「お酒の美術館」というバー(運営会社は京都市に本社を置くNBG)がファミリーマートやローソンと組み、コンビニの店内に出店している。顧客は店内で購入したおつまみやチルド食品などを持ち込めるのが特徴だ(ドリンクは不可)。「ファミチキ専用ハイボール」「からあげクン専用ウイスキー」といったコラボ商品も売り出しているようだ。
報道によると、2023年11月時点での店舗数はファミマ8店舗、ローソン4店舗。本格展開はまだこれからだが、今のコンビニは酒店から業態転換したところも多いため、運営サイドとのシナジー効果も得やすく、このバーは業界全体に拡大しそうな雰囲気だ。
何しろ、この業態であれば、顧客は生ビールなどの注ぎたての酒を安く飲める。コンビニ前やイートインスペースより落ち着けるメリットもある。コンビニ側は買い上げ点数の増加が見込めるほか、自前でバーを運営する必要もなく、入り口を分けてテナントのように入居してもらえばいい。バーの運営側も、コンビニで気軽にお酒を飲みたいという客層を取り込める。
この三者がそろって「Win-Win」になる仕掛けによって、コンビニ側はお酒を巡る問題が起こるリスクを押さえつつ、収益を最大化できるというわけだ。顧客がバーに移動したとしても、経営母体は別である。イートインスペースに顧客が滞留している場合と比べて、コンビニ単体での回転率が高まるという計算も働く。
昨今は少子高齢化が進んでいるが、見方によっては「一般消費者に占める『合法的にお酒を飲める人』の割合」は高まっていると言える。新型コロナウイルス禍を経て、ビールを含む酒類市場の規模は縮小しているが、顧客獲得のチャンスは残されているのだ。
その中で「酒好き」の支持を得る手段として、「飲めるコンビニ」は最適解なのかもしれない。
森山真二
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