( 170910 )  2024/05/16 14:57:45  
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和久井容疑者のSNSより 

 

 深夜の東京・新宿で女性の悲鳴とともに男の怒号が響いた―。5月8日、和久井学容疑者(51歳)が平沢俊乃さん(25歳)を刃物で刺すなどして殺害、殺人容疑で送検された。和久井容疑者はかつて平沢さんが営む飲食店で顔なじみの関係だった。それどころか和久井容疑者は平沢さんに好意を抱いていたとみられる。それがなぜ事件に至ったのか。その背景にはカネで「愛」を買おうとした男の拗らせた片思いの片鱗が見られた。 

 

【写真】和久井容疑者の愛車と「美人ママ」だった被害女性の近影 

 

和久井容疑者の愛車。その後、手放すことになる(SNSより) 

 

 「16年間の君との楽しい思い出は忘れないよ、今までありがとう、新しいオーナーさんに大事にしてもらうんだよ、元気でねバイバイ」 

 

 2021年、売却する愛車に対し、深い愛情を向ける投稿をしていた和久井学容疑者(51歳)。 

 

 それから3年あまりが経った今年5月8日、和久井容疑者は東京新宿区のマンションで、平沢俊乃さん(25歳)を刃物で刺すなどして殺害、殺人容疑で送検された。 

 

 和久井容疑者はかつて平沢さんに恋心を抱いていた。 

 

 「和久井容疑者は4年ほど前に東京・上野のガールズバーで平沢さんと知り合った。警察の調べに対して『結婚を前提にカネを渡した』などと供述しているようです」(全国紙社会部記者) 

 

 ほかにも「(平沢さんと)過去に交際をしていて、経営を応援するために1000万円以上貸した。カネを返してもらおうと思った」などとも供述しており、借金も含めると2000万円~3000万円を平沢さんに渡したとみられる。 

 

 愛車を売って作った現金はおよそ1000万円。「自分が本命だ」ということをカネでアピールした、というところだろう。 

 

 しかし、2人に交際していた事実はなく、和久井容疑者が一方的に恋愛感情を募らせていただけ。それどころか執拗に平沢さんに付きまとうまでにこじれていた。 

 

 「当初は客として仲良くしていた和久井容疑者と平沢さんですが、和久井容疑者は平沢さんに体の関係を求めてきたり、彼女の自宅周辺をうろついたり、といったストーカー行為を繰り返すようになった。平沢さんは警察に相談し、2022年5月には和久井容疑者は書面で警告を受けました。ですが、行為は止まらず、その後、ストーカー規制法違反で逮捕、拘留されています。 

 

 和久井容疑者は逮捕前、『被害に遭っている私がストーカーと言われなければならないのか』などと激昂したそうです。“被害”というのは平沢さんに渡したおカネのことです。 

 

 借用書などの書面もなく、金銭トラブルの証拠がなかったため、警察は『事件化は難しい。弁護士に相談するように』とアドバイスしたそうです。事件発生時も平沢さんに対して『ストーカー呼ばわりするんじゃねえ』などと叫んでいたといいますから、相当根に持っていたことが窺えます」(前出・社会部記者) 

 

 50代の男性が抱いていた20代の女性への恋心。それはいつしか憎しみに変わった。 

 

 犯罪心理学に詳しい東京未来大学の出口保行教授は事件について次のように説明する。 

 

 「被害者に対し、一方的な思いを募らせた以外考えられない。『愛憎』という言葉がありますが、そもそもは愛を持って接していたが、相手が自分の思い通りにならないといきなり『憎しみ』に変わる。最初は恋愛感情から始まり、徐々にストーカー的な一方的な思い込みを相手に押し付けるようになった」 

 

 公認心理士で恋愛心理学に詳しい和光大学の高坂康雅教授も事件の背景をこう推測する。 

 

 「容疑者はバイクや車が趣味でそれらを大切に乗っていたと報じられています。その趣味はおそらく本人が唯一自分を誇れるものだった。自分のアイデンティティとなるようなバイクと車を売ってまで被害者に入れ込んで、大金を貢いだところから理性的な判断は相当難しくなっていたのでしょう」 

 

 

在りし日の平沢さん(SNSより) 

 

 親子ほどの年の差、夜の世界の客とキャスト。それ以上でもそれ以下でもない関係を超え、和久井容疑者は平沢さんに入れ込んでいく。 

 

 夜の店で働くキャストは客にある程度、好意を持たせるように接客する。客のリピートがキャストたちの収入を左右するからだ。そのため、客を口説くために「好き」や「会いたかった」などといった恋心をくすぐるような言葉も平気で使う。だが当然、それはあくまでも「疑似恋愛」にほかならない。 

 

 「営業トークとして割り切り、お店の中だけの関係性だと受け止めるのが一般的です。男性客は女性従業員から、好意のあるような態度や言葉をかけられ、気持ちがよくなって帰っていく、というのが夜の店での遊び方。そのため、お店から一歩外に出たらその関係は終わりだということはわかっている。容疑者はそれを割り切れなかった」(高坂教授) 

 

 出口教授も高坂教授も和久井容疑者に対して「恋愛経験が乏しかった、あるいは夜の店と社会の切り分けがうまくいかなかったのでは」と推測する。 

 

 「多くの客は、当然和久井容疑者と同じような立場にあります。ですが、事件は起こさない。女性従業員からの言葉は『営業だ』と理解している、だから大金も使わなければ、交際したり、結婚できるなんてことは思わない。 

 

 しかし、それを割り切れなかった容疑者は被害女性からかけられた言葉、彼女の態度などを好意として脳内で変換し、繰り返しリピートしていったのではないでしょうか。そのうちにどんどん過剰に解釈するようになっていったと考えられます」(高坂教授) 

 

 「また来てね」とか「待ってた」なんていう営業文句すら、和久井容疑者にとっては愛の囁きに聞こえたのかもしれない。「あの子はそんなに俺に会いたかったんだ」「オレのことが好きなんだ」「結婚できるんだ」と、平沢さんへの思いを膨らませていったのだろうか。 

 

 問題だったのはそこにカネが絡んでいたことだ。和久井容疑者には「ある心理」が働いていたとされる。高坂教授は事件には「返報性の原理」という心理状態が働いたと説明する。 

 

 後半記事「《新宿・タワマン刺殺》「借金して2000万円以上貸した」被害女性は和久井容疑者の危険性を気づけなかったのか...「疑問の答え」」でさらに深堀りしていく。 

 

週刊現代(講談社) 

 

 

 
 

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