( 171023 )  2024/05/16 17:09:57  
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東京都心にある東京ドームは老朽化が進んでおり、築地市場跡地や明治神宮外苑地区に新たなスタジアム建設構想が持ち上がっている。

特に築地市場跡地では多目的スタジアムが計画されており、巨人の本拠地移転の可能性も浮上しているが、専門家によれば今後の利用はプロ野球の本拠地だけでなく、国際大会やイベントなど多岐にわたる可能性があると指摘されている。

一方、明治神宮外苑地区でも新神宮球場が計画されており、ボールパーク構想が進行している。

地域全体の再開発によりスポーツ施設を中心とした街づくりがトレンドとなり、国際コンベンションの誘致にも追い風が吹いている。

巨人の本拠地移転については、現時点で完全移転する可能性は低く、築地市場跡地の多目的スタジアムを利用することも検討されている。

(要約)

( 171025 )  2024/05/16 17:09:57  
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東京ドームは老朽化が進んでいる(写真:kuremo/Shutterstock) 

 

 東京都心では、2つのスタジアム構想が持ち上がっている。一つは築地市場跡地で、もう一つは明治神宮外苑地区。いずれも再開発計画に盛り込まれる。 

 神宮外苑はプロ野球・ヤクルトの本拠地となる見込みだが、気になるのは築地市場跡地に建設が予定される多目的スタジアムの行方だ。巨人が本拠地を東京ドームから移すという見方がある。 

 Mazda Zoom-Zoomスタジアム広島(マツダスタジアム)の設計に携わった追手門学院大の上林功准教授の話を基に、可能性を検証する。 

 (田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授) 

 

【予想図】築地市場跡地の再開発では、中核となる5万人規模の大規模集客・交流施設やMICE施設などを整備する 

 

 巨人が本拠地を置く東京ドームは、オープンから30年以上が経過して老朽化が進む。築地市場跡地の再開発には巨人の親会社である読売新聞社、ドームを完全子会社化した三井不動産も名前を連ねる。読売は現状、「移転ありき」を否定するが、スポーツ紙などのスポーツメディアは「巨人と多目的スタジアム」に軸足を置いた報道が目立つ。 

 

 一方、プロ野球・広島の本拠地となったMazda Zoom-Zoomスタジアム広島(マツダスタジアム)の設計に携わった追手門学院大の上林功准教授は、「築地市場跡地の多目的スタジアムは、国際コンベンションも開催できる東アジア最大規模の集客施設であり、スポーツでも利用可能な屋内施設と言ったほうがわかりやすい。その用途は多様で、プロ野球の本拠地ありきではないはず。巨人の本拠地移転に偏った報道には違和感がある」と指摘する。 

 

 東京駅から南へ約2キロに位置する「東京の台所」と呼ばれた築地市場の跡地。2018年に80年以上の歴史に幕を下ろした市場跡地は地下鉄4路線の駅から徒歩圏内で、東京駅から有楽町を経て東京ビッグサイトまでをつなぐ地下鉄新線の新駅構想もあるなど、利便性に恵まれた好立地だ。 

 

 広さは19万平方メートルで東京ドーム約4個分。“ONE PARK × ONE TOWN”をコンセプトに商業施設やホテル、住居棟などの建設が予定される広大な敷地において、中核施設となるのは、多目的スタジアムだ。最大5万7000人が収容可能の全天候型の施設は可動席などで内部の形を変幻自在に変えられるため、野球やサッカー、バスケットボールといった多様なスポーツにとどまらず、音楽ライブなどの開催も可能とする。 

 

 これらの施設の多くは、2032年度の竣工を予定している。 

 

 そんな築地市場の跡地利用には、かねてから巨人の本拠地移転が取り沙汰されてきた。 

 

 

■ 各地で進むメジャーリーグ仕様のボールパーク化 

 

 日本初のドーム球場として東京・水道橋に東京ドームがオープンしたのは1988年。ビジネス街に近く、こちらも地下鉄2路線とJR総武線から徒歩すぐと利便性が高いことから、仕事帰りのビジネスパーソンや家族連れがプロ野球観戦するには絶好の立地条件にあてはまる。 

 

 一方、老朽化が懸念されるほか、日本国内では、球場内外にショッピングモールやエンターテインメント性が高い娯楽施設、レストランなどが集まって、家族連れなどが野球以外でも楽しめる空間を創出するメジャーリーグ仕様のボールパーク化が進む。 

 

 スポーツコンテンツやスタジアムを中核とした街づくりや再開発は日本でもトレンドとなっている。2005年に新規参入した楽天がスタジアム周辺の整備を進めたほか、横浜スタジアムを傘下に収めたDeNAも球場周辺と一体となった空間を創出。日本ハムは23年に札幌から隣接する北広島市へ本拠地「エスコンフィールド」を移転し、野球以外でも、長崎で24年秋にサッカースタジアムを中心としたシティが開業予定だ。 

 

 21年の東京五輪・パラリンピックを契機に再開発の計画が進む明治神宮外苑で生まれ変わる神宮球場は、まさにこうした時流に乗った「ボールパーク」構想が練られている。 

 

 27年中の完成を見込み、すでに明治神宮、日本スポーツ振興センター(JSC)、三井不動産、伊藤忠商事の4者の間で、現在の神宮球場と秩父宮ラグビー場を入れ替えて建設することで基本協定が結ばれている。 

 

 新スタジアムは、高さ60メートルでホテルも併設。現在の秩父宮を解体して跡地に新神宮球場の建設を始める予定で、国立競技場や周辺の商業施設などとも連携する。近隣の樹木伐採が懸念事項として残るが、全体の再開発は30年秋頃をめどに完了する計画だ。 

 

■ 巨人が築地に完全移転する可能性は低い 

 

 上林氏は「一帯の再開発によって、(神宮外苑周辺のメインストリートである)青山通り側ににぎわいを創出し、(青山通りとは反対側に位置する)新秩父宮ラグビー場側には広場ができる。新球場は、従来の壁でスタジアムの外と分け隔てられた球場とは違い、まさに開かれたスポーツ施設となる。広場でのイベントやホテルを利用してホスピタリティーを高めるなど、球場外との双方向の“接点”が多く、ファンのみならず、都民や企業との“共創”や“協働”で新たな価値を生み出すことができる」と再開発後の利点を解説する。 

  

 対する築地市場跡地はどうか。市場跡地の再開発に読売新聞社が名を連ねたことで、巨人の本拠地移転の動きが加速化するのではとの観測が高まった。 

 

 ただ、報道によれば、巨人のオーナーでもある山口寿一・読売新聞グループ本社社長は5月1日の「築地地区まちづくり事業」事業予定者決定に関する記者会見で次のように述べ、慎重な姿勢を見せた。 

 

 「プロスポーツを持つ読売としては、魅力あるスタジアムを使ってみたい気持ちはあります。ただし、(東京ドームから本拠地の)移転を前提に検討してきたものではなく、そのような予定で進んでいるわけではない」と説明した上で、「プロ野球の球団にとって、本拠地球場の移転はなかなかな大仕事。そのために相当な調整も必要。さらに申し上げると読売だけで決められることではない」 

 

 上林氏も、現状で巨人の完全移転の可能性は低いとみる。理由の一つに挙げたのが、多目的スタジアムの用途だ。 

 

 「東京都のホームページでも公開されている事業予定者からの提案概要の冒頭にある主なポイントに『スポーツ』の文字は見当たらない。多目的スタジアムについても『世界水準のイベントを誘致する大規模集客・交流施設、MICE施設』と、スポーツに留まらない使い方が紹介されている」と指摘する。 

 

 その上で「構想が進む都心部臨海地域の地下鉄では、いずれ東京駅と羽田空港(東京国際空港)をつなぐことまで盛り込まれている。計画が実現すれば、このエリアは有楽町の東京国際フォーラム、東京ビッグサイトが一体となり、アメリカ・ラスベガスのような(見本市や会議などを行うことができる)国際コンベンションエリアになる。スポーツイベントを呼び込むにしても、東アジア最大規模の収容人員を武器にテニスの世界ツアーやエックスゲームズ(X Games)、野球でもワールド・ベースボール・クラシック(WBC)などの国際大会を見据えたほうが現実味もある」と述べた。 

 

 

■ 円安で国際コンベンション誘致に追い風 

 

 上林氏によれば、東・東南アジアで開催される国際コンベンション招致で、日本は長らく不利な立場にあったという。要因の一つが長年の円高基調だとし、海外のイベンターや訪問客からすれば、日本は物価が高くて敬遠されてきたという。 

 

 ところが、円安に風向きが変わったことで、日本は「手頃な選択肢」となり、招致には追い風になっているという。「観光客を呼び込むだけでなく、国際コンベンションの招致で東京にナレッジ(知識や知見)を蓄積するチャンス。単発の展示場や国際会議にとどまらず、断続的に学術、産業、アート、スポーツなどまち全体を使った規模にまで拡大できる可能性もある。多目的スタジアムは、様々なイベントを行う大規模な集客施設として、中心的機能を担う」と強調する。 

 

 東京ドームからの本拠地移転については、「水道橋のアクセスを考えれば、東京ドームを将来的に建て替えるという選択肢はあるのではないか」と大胆な持論を展開した上で、「建て替えには時間を要するため、限定的に築地市場跡地の多目的スタジアムを本拠地として利用するということは選択肢になるだろう」との可能性を例示した。 

 

田中 充 

 

 

 
 

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