( 171385 )  2024/05/17 16:38:18  
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路線バス(画像:写真AC) 

 

 路線バスドライバーの「2024年問題」が顕在化し、離職率や人手不足が大きな社会問題になっている。 

 

【画像】えっ…! これがバスドライバーの「年収」です(計13枚) 

 

 筆者(西山敏樹、都市工学者)は路線バスの研究者である。当媒体の連載「ホンネだらけの公共交通論」の過去記事でも指摘したように、ドライバーにとって、事故やトラブルは日常茶飯事である。それらは必ずしもドライバーの責任ばかりではない。例えば、次のようなケースがあり、枚挙にいとまがない 

 

・バスが完全に停止する前に乗客が席を立って降車扉に移動し、転倒した 

・乗客がバスを降りて車両の前方または後方を横切り、バスまたは他の車両と衝突した 

・子どもが不意に通学路から飛び出し、死傷した 

 

 ドライバーが安全に対して十二分な注意を払っていても、乗客や周辺市民の非常識な行動によって責任を問われることも少なくない。ドライバーは交通事故や乗客のけがを防ぐために常に注意を払っているが、乗客のなかにはドライバーに責任を転嫁しようとする者さえいる。不当な責任転嫁は意外に多いのだ。 

 

 これはドライバーにとって大きなストレス源であり、乗客数の減少による給与カットも離職や人員不足の原因となっている。 

 

路線バス(画像:写真AC) 

 

 バス会社がこれまで、理不尽な事故やトラブルが発生した際に、現場を支えるドライバーを守ってこなかったことは大問題だ。会社は 

 

・沿線住民 

・バス利用者 

・地域社会 

 

に対して“過剰”におわびする一方で、 

 

「ドライバーへの指導・教育を再徹底する」 

 

といった“決まり文句”で、けむに巻くことが多いのだ。 

 

 長期的かつ俯瞰(ふかん)的な視点で、路線バスの事故やトラブルの原因をデータから分析し、リスクを回避することが不可欠だ。これがバス会社に求められる姿勢だ。 

 

 近年、DX技術の発達により、車両に車載カメラを設置しデータを記録できるようになった。こうした技術は、トラブルや事故の原因分析に役立ち、その後の安全対策の策定を容易にする。 

 

 また、いざというときには 

 

「ドライバーを守るためのデータ」 

 

としても活用できる。バス会社は労働者であるドライバーを大切にしなければ、働き手を失い人手不足に直面することになる。そのため、 

 

・車載カメラ 

・安全な床材 

・車内に段差のない車両 

 

など、新しい技術でバス事業とドライバーを守る取り組みを始めているところもある。 

 

 

路線バス(画像:写真AC) 

 

 睡眠不足による居眠り運転や緊急対応の不備による重大事故が頻発したため、国土交通省は2018年6月に「指導及び監督の指針」を改正した。この指針では、次の点を徹底することを求めている。 

 

・事故、車両故障、災害など緊急事態における適切な対応 

・睡眠不足や薬の副作用などの危険性、改善基準告示に関するドライバー教育 

 

これにより、バス会社の指導体制が厳しく問われる風潮が強まった。 

 

今では、事故やトラブルが発生した際にバス会社の指導体制や方法も問われるようになり、結局 

 

「行政指導の下でこれだけ厳しい教育が行われているにもかかわらず事故が発生するのは、現場のプロであるドライバーの対応が悪い」 

 

という方向に話が転がっていく。こうして、マネジメント職から現場への責任転換が生じるのだ。 

 

路線バス(画像:写真AC) 

 

 バス会社にも問題がある。筆者がドライバーと接していると、マネジメント職や事務職とドライバーとのコミュニケーション不足が浮き彫りになる。 

 

 例えば、事故やトラブルが発生すると、当該ドライバーを一方的に呼び出し、教育や指導を再徹底するケースが多いだ。重要なのは、 

 

「ドライバーの言い分を聞き、公平な立場で解決する」 

 

ことだ。他車との接触事故では、相手のルール違反があるかもしれない。車内事故の場合でも、いくら注意していても乗客の危険行為があると、多くのドライバーから不安の声が上がる。会社はそれを踏まえて事態を解決する必要がある。これは当該ドライバーを守るためだ。 

 

 バス会社には人的リソースが限られており、事務職は事故やトラブルが発生した際、一刻も早く対処して事態を収拾したいのだ。そのため、ドライバーに責任が転嫁されやすいのだ。しかし、責任の所在を明確にするためには、ドライバーの声に耳を傾けることが重要だ。 

 

 ただ、マネジメント職や事務職とドライバーとのコミュニケーション不足については、組織コミュニケーションを専門とする人材を雇うことも難しい状況だ。 

 

路線バス(画像:写真AC) 

 

 ドライバーへの不当な責任転嫁と会社の保護不足は、ドライバーの減少と地域社会への影響をもたらす。 

 

 ドライバーと乗客双方にとって安全で快適なモビリティを実現するには、車載カメラなどの証拠データを残す新技術の導入が不可欠だ。 

 

 同時に、社内のコミュニケーション体制を改善し、相互のコミュニケーションを促進する企業環境を整える必要がある。 

 

 そして、なにより組織を改善するための 

 

・費用 

・専門家の支援 

 

を提供する交通政策も、将来的には必要だ。 

 

西山敏樹(都市工学者) 

 

 

 
 

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