( 171410 )  2024/05/17 17:06:19  
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写真提供: 現代ビジネス 

 

 社長と社員の給与格差、どれくらいならOKですか?  

 日本では、資産5億円以上の超富裕層は9万世帯。単身世帯の34・5%は資産ゼローー。 

 

【写真】格差は避けるべき課題なのか?貧困、格差、大金持ちにまつわる資本主義の宿命 

 

 富裕者をより富ませ、貧困者をより貧しくさせる今日の資本主義。 

 

 第一人者が明かす、貧困大国・日本への処方箋。 

 

 本記事では〈社長と社員の「給与格差」、どれくらいなら許せますか? …日本では、企業の経営トップと従業員の報酬格差は「最大174倍」もあった! 〉にひきつづき、格差社会の現実をみていきます。 

 

 ※本記事は橘木俊詔『資本主義の宿命 経済学は格差とどう向き合ってきたか』から抜粋・編集したものです。 

 

 格差社会の現実がどうなっているかを検証しておこう。結果の格差を示す代表例として所得格差があるが、所得格差の検証方法に関しては研究の蓄積がある、貧困者と貧富の格差に注目して現実を知ることにする。 

 

 高所得者と低所得者の間の所得差を端的に示す統計指標にはいくつかある。すなわち、所得格差の程度を示す数字の指標である。例えば、(1)トップ(あるいはボトム)何名の高所得者(あるいは低所得者)の得る所得総額が全人口の所得総額に占める比率、(2)ジニ係数、(3)アトキンソン指標、(4)タイル指標、(5)対数分散、など各種ある。 

 

 これらのうちもっともわかりやすく、かつ頻繁に用いられる指標はジニ係数である。学問的にいえば、アトキンソン指標(人びとにとって社会で好ましい所得分配はどういう姿か、の価値判断をいろいろ前提にして、所得格差を計測する指標)、タイル指標(エントロピー〈情報の価値〉を考慮したうえで格差の計測された指標)のように価値の高いものもあるが、これらは種々の高度に学問的な側面に配慮せねばならず、解釈が複雑になる。ジニ係数が何よりも単純明快なので、ここではこの指標を用いる。 

 

 ジニ係数はイタリアの統計学者ジニによって開発されたもので、0.0(完全平等)と1.0(完全不平等)の間の値をとる。数値が大きいほど不平等度が高い(すなわち所得格差が大きい)ということになる。日本での過去から現在までの推移と、国際比較に注目しておこう。 

 

 

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 表1-1は1972年から現代まで(ほぼ50年)のジニ係数の推移を示したものである。再分配前所得と再分配後所得の二つに関して計測されているが、前者は引退した年金受給者の所得がゼロ(すなわち勤労所得がゼロ)として計測されているので、誤解を与える恐れがあり解釈を控える。再分配後所得とは、再分配前所得から税金と社会保険料の支払い額を差し引き、年金、医療、介護、失業給付、生活保護などの社会保障給付額を加えた所得である。 

 

 1970~1980年代は安定成長期だったので、所得分配に大きな変動はなく、ジニ係数は0.31~0.34であった。それが1990年の数値を見ると、0.36に急上昇し、大幅に所得格差が拡大したことがわかる。原因の一つとしては、1980年代後半のバブル期では株価と地価の高騰があったので、資産家の金融所得が高くなり、所得格差の拡大の余韻が残っていたことが挙げられるだろう。 

 

 1990年代には「失われた30年」とされる不景気が始まり、低所得者の数が増加して所得格差は拡大に向かっていった。21世紀に入る頃、それがますます深刻となり、ジニ係数は0.38を超えた。表1-1では1950~1960年代の高度成長期の数字は示されていないが、この時代は平等主義の時代、あるいは格差の小さい時代であったことは皆の知る事実なので報告していない。結論として、戦後から20世紀末にかけて日本は一気に所得格差において相当程度の拡大が進行して、今もそれが進行中と解釈できる。 

 

写真:現代ビジネス 

 

 日本の所得格差が拡大してきたことはわかったが、その水準がどれほど深刻であるかは、他国との比較によって明確になる。表1-2は一部の中進国と多くの先進国のジニ係数を示したものである。いろいろなことをこの表から解釈できる。 

 

 第一に、先進国と中進国(この表ではメキシコとコロンビアで代表)を比較すると、総じて先進国の方のジニ係数が低く、経済が発展・成熟すると格差は小さくなる。 

 

 第二に、先進国のなかでも所得格差の大きい国は、アメリカ、イスラエル、韓国などであり、ほどほどの格差を示すのはイギリス、フランス、ドイツといったヨーロッパの大国である。 

 

 第三に、格差の小さい国、あるいは平等性の高い国はスウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェーなどの北欧諸国である。これらの国はいわゆる福祉国家として有名であり、賃金格差が小さいうえに、政府は国民に手厚い社会保障制度を提供しているし、税制における累進性も強いので、国民の間での所得格差は小さくなるのである。 

 

 日本についても論じておこう。先進国として評価すると、アメリカほど高くはないが、他の多くの国よりもジニ係数が高く、所得格差は大きい国である、と判定してよい。これはとても重要な事実で、日本は先進国のなかでもかなり所得格差の大きい国になっている。 

 

 先ほど確認した事実、すなわち戦後の日本は所得格差がかなり拡大してきたことと、国際比較において先進諸国のなかでも相当に所得格差が大きいという事実と合わせると、日本は所得格差のかなり大きな国になっている、と結論づけられる。格差の国、日本なのである。 

 

橘木 俊詔 

 

 

 
 

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