( 171585 )  2024/05/18 01:56:44  
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直撃取材に応じた周富輝氏。調理場では別の料理人が偽装行為を 

 

 横浜にある人気中華料理店『生香園』本館。『料理の鉄人』などで活躍した周富徳さん(享年71)の弟・周富輝氏(73)がオーナーシェフとして同店を経営する。しかし、NEWSポストセブンの取材に、この広東料理の名店で10年以上も前から偽装が行われていたことを元従業員Aさんが証言。取材班が富輝氏を直撃すると、意外な言葉を繰り返した──。【前後編の後編。前編から読む】 

 

【写真】食品偽装を行う料理人らの姿、なれた手つきで「食紅」を入れる瞬間、実際のメニュー表と提供されている「偽装料理」など 

 

 取材のきっかけは、10年以上も『生香園』の調理場で働いていた元従業員Aさんの告発だった。Aさんによると偽装されている主なメニューは『ふかのひれ、かにの玉子入りスープ』(中盆4830円・小盆3580円)と『うづら挽肉の炒め、レタス添え』(中盆2750円・小盆1880円)の2品だ。「蟹の卵」にはニワトリの卵、「うずらの挽肉」には豚の挽肉が使われていたという。またこの2品以外にも複数のメニューに偽装があったという。 

 

 元従業員が証言する偽装疑惑について、富輝氏はどう答えるのか。4月中旬に本人を直撃した。取材班が富輝氏に声をかけると、「あそこで話そうか」と、同氏は店前のベンチにゆっくりと腰を下ろした。 

 

──「蟹の卵」や「うづらの挽肉炒め」を使用した料理に「蟹の卵」や「うずら」を使用していないのは事実ですか? 

 

「蟹の卵は冷凍すると冷凍焼けして臭みが出てまずくなるの。保存するのも1カ月くらいがいいとこなので捨ててしまう。うずらのメニューもあまり注文がないから、捨ててない時は挽肉でやっちゃうこともあるのね。しょっちゅう出るものじゃないから捨てちゃうのよ」 

 

 蟹の卵やうづらを別の食材で代用していたことを認めた富輝氏。だが、その理由を尋ねると、持論を展開した。記者との一問一答は以下の通り。 

 

「オレはコックにはちゃんと新鮮なものを仕入れとけと怒るんだけど、そうこうしているうちにコロナ禍になって、経営が大変になっちゃったのよ。4カ月で2000万円も赤字を食らっちゃって、このままだと潰れると会計士にも言われて、毎月の売り上げがガタ落ちになった。厨房を任せちゃったっていうのもオレのミス。コックさんが材料を捨てちゃった後に、注文が来て(違う材料を)使っちゃったことがあるんだよ」 

 

──蟹の卵の代わりに鶏卵を使っている? 

 

「蟹の卵を使って鶏卵を混ぜて色を綺麗にするの」 

 

──蟹の卵のスープを頼む方は多い? 

 

「出ないよ。ほとんど頼まないよ。『蟹肉入りふかひれスープ』とか、まだそういうのは扱いやすいけど、『蟹の卵』は特殊なもの。理想は生だけど、あまり出ないから冷凍する。それで結局ダメになるから、今は(注文が入っても)断っている」 

 

──今もメニューには載っているが。 

 

「あるけど、メニューから消すと汚くなるでしょう。お客さんには『今切れてる』と言っている。コロナ明けで、やっと最近お店の調子も良くなってきたわけよ。だから今はなるべく出ないメニューは売り切れにしてるの」 

 

 

──お客さんを騙してしまったことについて、申し訳ないという気持ちはありますか? 

 

「あるねぇ。コックさんが(食材が)ない時にやっちゃったみたいで、だから『(そういうことは)やめろ』と」 

 

──常連客の方はショックを受けるのでは? 

 

「ウチはお得意さんが8割で、オレがホールにいて注文があったら『うづらがないから他の挽肉で代用できますよ』と、もちろん言うよ。お客さんも『それでいいよ』と。でも、そのことは厨房の人間は知らないから。でも今は面倒くさいからメニュー自体をやめたの」 

 

──騙していたという認識はない? 

 

「オレ的に? メニューを切らすと、オレは怒るし、コロナになり、調理場よりホールで売り上げをあげることに専念するようになったから」 

 

──この取材の前にお店で「蟹の卵」や「うずら」のメニューを注文したら、周さんや他の店員さんは「今そのメニューはありません」「代用品を使った料理ならあります」と説明しますか? 

 

「言う言う。でも今日も売り切れになっちゃってるから。もうやんないって言ったじゃない」 

 

 富輝氏は調理場の料理人が勝手に忖度して別食材を使っていたと説明した。また現在は「蟹の卵」や「うずら」を使用したオーダーは断り、客の要望によっては別の食材で代用することもあるという。 

 

 だが、取材班は富輝氏に話を聞く前に同店を訪れ、実際に偽装が疑われるメニューを食していた。店ではオーダーを断ることもなく、「蟹の卵」「うずら」の食材を代用するなどの事前の説明もなかった。料理はメニュー表通りの価格だった。 

 

 食品偽装については「コックがやった」という富輝氏の主張を元従業員のAさんに確認すると、発言を真っ向から否定した。 

 

「冷凍庫に保管など初めて聞いたし、そもそも蟹の卵やうづらなど、この十数年間、見たこともありませんし、仕入れすらしていません。すべて料理人がしたことにしているなんて、耳を疑いました。厨房が独断で作るなんてことはあり得ません。 

 

 蟹の卵の色も富輝社長が厨房に入って来て確認していましたし、うずらの挽肉炒めも暗黙の了解でした。儲かるメニューを売り切れなんかにするはずがありません。従業員はある意味で犠牲者です。偽装は決して許されることではありません」 

  

 かつて、脱税事件で有罪判決を受けた際に「これからは一生懸命、料理の腕を磨きたい」と、料理の道を極めることを誓っていた富輝氏。偽装疑惑と向き合う日は来るのだろうか。食のプロとしての資質が問われている。 

 

(了。前編を読む。告発の証拠動画を見る) 

 

 

 
 

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