( 171930 )  2024/05/19 01:41:22  
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パスコ東京多摩工場で生産した食パンに異物混入が発覚した 

 

 スーパーやコンビニでお馴染みのパスコ(Pasco)の看板商品『超熟』に「ネズミの一部が混入」するという衝撃的な事態が発覚した。製造工場で何が起きていたのか。東京都昭島市の市街地。大小の工場や商業施設、マンションが建ち並ぶ一角で、騒動の発端となった工場は周囲にパンの香ばしい匂いを漂わせ、今も稼働していた──。 

 

【表】ここ10年で製パンメーカーで起きた主な「異物混入」の一覧 

 

 5月の連休明け早々、「パスコ」ブランドで知られる敷島製パンがホームページでこう発表した。 

 

〈パスコ東京多摩工場で生産した「超熟山型5枚スライス」に、異物(小動物らしきものの一部)が混入したことが判明いたしました〉 

 

 群馬県内で同商品を購入した2人の消費者から通報があり、問題が発覚。その後の調査で、食パン内部に入った5cm程度の異物は「クマネズミの一部」と判明した。 

 

 同社は直ちに当該ラインを停止し、原因究明を開始。同一ラインで製造された10万4000個について自主回収を始めた。健康被害は現在のところ確認されていないという。同社社員が匿名を条件にこう言う。 

 

「問題発覚を受け、本社から衛生管理強化の指示が各工場にありました。小麦粉の保管倉庫や各ラインの再点検を行ない、設備の綻びがないかなどを念入りに調べました」 

 

 敷島製パンは、創業100年を超える同族企業で、創業家の盛田家はソニーの盛田昭夫氏の一族と親戚筋にあたる。『超熟』シリーズは「食パンシェアNo1ブランド」を謳う同社の看板商品だ。 

 

「1998年、当時副社長だった盛田淳夫社長が社内に号令をかけ、食パンがモチモチとした食感になる『湯種製法』の量産化に成功しました。特許も取得しているこの製法は『超熟製法』と呼ばれており、同年に『超熟』と名付け発売された後も、改良を重ねて育て上げている。まさに虎の子の商品です」(同前) 

 

 それだけに、製造工程の衛生管理は徹底されてきたという。『超熟』を含むパスコ製品を製造する別の工場で勤務する社員が言う。 

 

「工場内の生産現場に入る際は手指の洗浄消毒をした後、頭からつま先まで白い作業服で覆います。その状態でエアシャワーを浴びるので、工場内はクリーンルーム並み。なぜ混入したのか……」 

 

 食品問題に詳しい垣田達哉氏(消費者問題研究所代表)はこう言う。 

 

「製造に用いる器具などの小さな欠片や原材料についていた小さな虫などが落としきれずに残るケースならわかりますが、体長20cmにもなるネズミの一部がパンに混入する例は聞いたことがない。異例中の異例です」 

 

 

 ネズミ混入という事態はなぜ起きたのか。問題の起きた「パスコ東京多摩工場」を訪れたのが冒頭の場面だ。 

 

 夕方、退勤した従業員に話を聞くと、「異物混入が起きた製造ライン以外は動いている」と明かした。前出・垣田氏はこう懸念する。 

 

「経年劣化などで工場の設備内に隙間や穴ができてネズミが侵入した可能性があるなか、原因究明中に別のラインを動かす判断には疑問が残ります」 

 

 現地を取材すると、工場の裏手にはゴミ置き場があり、産廃コンテナからはみ出すほどゴミ袋が積まれている様子が柵越しに見えた。 

 

 こうしたゴミの山がネズミ混入を招いたのではないか──同社に問うと、「鉄くず類のような無機物は屋外コンテナに保管、食物性残渣や原料の入っていた袋などの可燃物については扉付きの建物にて保管しています。今回の混入との因果関係は低いと考えております」(総務部広報室)という。 

 

 工場内はクリーンルーム並みの清浄環境が保たれ、ゴミも適切に管理されているという。では、混入の原因はいったい何なのか。工場の近くに住む住民はこんな話をした。 

 

「工場から大通りを隔てた場所にあった大きなゴルフ場が昨秋閉鎖され、物流センターができるとかで4月に工事が始まりました。それで野生動物が動いてネズミが逃げてきたのかね、なんて近所では話しているんです」 

 

 外部から侵入したネズミが『超熟』の製造工程に入り込む余地はあるのだろうか。前出の別の工場の担当者が言う。 

 

「多摩工場もクリーンな環境が保たれていたはずだから正直なところはわからない。ただ、『超熟』は仕込みから焼き上げるまでの生地の管理が大変で、機械では確認できない生地の変化を人の目で確かめます。通常のパン製造より工程や手間が多いから、注意を払っていてもそのどこかの工程で混入してしまうことはあるのかもしれない……」 

 

 敷島製パンは混入の原因をどう考えているのか。 

 

 改めて問うと、「混入経路は業者によって現在調査中ではありますが、直近1年間のモニタリング結果において、小動物の内部発生(繁殖)が確認できなかったことから、外部侵入の可能性が高いと考えております」(総務部広報室)と回答。同工場の『超熟』以外のライン稼働については、「本件は突発的な事案であり、施設全体での発生リスクは低いと判断しております。なお、当該工場内の全ラインについても調査し問題が生じた形跡がないことを確認済みです」(同前)とした。 

 

 

 製パンメーカーの「異物混入」は数年に一度、表面化している。 

 

 2022年には山崎製パンの名古屋工場で製造された『小倉ぱん』の一部にプラスチック片が混入した恐れがあるとして、自主回収を実施。北海道札幌市に本社を置く日糧製パンでも、2017年、道内の一部店舗で販売した食パンに金属片が混入した可能性があるとして自主回収している。 

 

 近年、「異物混入」があった別掲表の各社は、その後どのような対策を取っているのか。 

 

 フジパンは、「平常時の教育の実施により安全衛生意識の醸成を図り、異物混入の防止に努めております」(マーケティング部)、日糧製パンは、「AIB(米国製パン研究所)国際検査統合基準に基づく異物混入防止対策を行なっており、すべての製造工程において食品安全衛生上の危害要因を分析し、それを排除することで異物混入防止の徹底をはかっています」(総務部)と回答した。 

 

 製パン最大手の山崎製パンは、「科学的根拠に基づいた食品安全衛生管理体制を構築しています。細菌面の衛生管理、異物混入防止対策、製品の表示を3つの大きな柱として、日々の管理を行なっています」(広報・IR室)と答えた。垣田氏はこう言う。 

 

「工場で大量生産される食品のなかでもパンは生地をこね、発酵させてから成形して焼き上げる、といった工程に人の手が欠かせません。すべてを機械化できない分、エラーが起きやすくなることは確か。敷島製パンも企業努力を重ね、異物混入を防ぐしかありません」 

 

 敷島製パンは今後の異物混入対策として、現在生産ラインの清掃や混入経路の調査をしたうえで、「さらなる対策につきましては、原因究明と再発防止策を策定中です」(総務部広報室)とした。 

 

 前出の別のパスコ工場製造担当者は週刊ポストの取材にこうも語っていた。 

 

「従業員一同、東京多摩工場で起きたことを真剣に受け止め、点検を怠りなくしようと言い合っています。同じことが起きれば、アウトですから」 

 

 食パンの「ナンバーワンブランド」としての適切な対応が待たれる。 

 

※週刊ポスト2024年5月31日号 

 

 

 
 

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