( 171990 )  2024/05/19 14:46:02  
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Photo:PIXTA 

 

 あおり運転の標的になることを防ぐため、愛車に「ドラレコ作動中」「ただいま録画中」などと書かれたステッカーを貼る人が増えています。ですが、こうしたステッカーを貼ったクルマに反感を持つ人も多くいるようです。周囲に配慮しつつ、あおり運転から身を守るには、どんな「代替策」が求められるのでしょうか。(自動車ジャーナリスト 吉川賢一) 

 

【画像】高圧的な印象を与えないステッカーの例 

 

● 「ドラレコ作動中」「ただいま録画中」… 「あおり運転防止ステッカー」って意味ある? 

 

 事故や「あおり運転」の被害に遭った際に、その映像を記録できるドライブレコーダー(ドラレコ)。駐車中のクルマの「監視カメラ」としても使えるため、安全なカーライフを楽しむためには不可欠な装備となっています。 

 

 実際、普及率も右肩上がりとなっています。ソニー損害保険が2023年6月に実施したインターネットリサーチ(※)によると、ドラレコの搭載率は52.5%に到達し、2013年の調査開始以来初めて50%を突破。安全運転を支援する「車線逸脱防止支援システム」(40.4%)や「自動ブレーキ」(35.0%)の搭載率を上回りました。それだけ多くのドライバーが必要性を感じているのでしょう。 

 

 (※)月に1回以上運転する18~59歳の男女が対象、有効回答1000人。 

 

 ドラレコがここまで普及した背景には、悪質なあおり運転に起因する事件・事故があります。例えば2017年には、東名高速の本線上で強制停止させられたクルマに後続車が突っ込み、夫婦二人が亡くなる痛ましい事故が起きました。2019年には常磐道本線上で「殴打事件」が発生し、世間を騒がせました。 

 

 このうち19年の事件では、加害者の男が窓ガラス越しに殴りかかってくる映像がドラレコに残されており、その様子がニュースでたびたび報じられました。こうしたドラレコの映像は、裁判における証拠としても大いに役立ちます。 

 

 そのためか、昨今はドラレコの普及に伴って「ドラレコ作動中」「ただいま録画中」などのステッカーを貼っているクルマを見かけるようになりました。ですが、ステッカーの評価は賛否両論。「あおられることが減った」という声がある一方で、「うざい」などとネガティブに捉える人も少なくないようです。 

 

 あおり運転の被害を防ぐためのグッズに、なぜ反発の声が挙がっているのでしょうか。周囲に配慮しつつ、あおり運転から身を守るには、どんな「代替策」が求められるのでしょうか。道路交通法や運転マナーに詳しい自動車ジャーナリストが考察します。 

 

 

● 「あおり運転防止ステッカー」が 周囲の反感を買う理由 

 

 確かに「あおり運転防止ステッカー」(以下:ドラレコステッカー)の文面は、何も悪いことをしていない見ず知らずの人に「録画しているぞ」「あおるなよ」とプレッシャーをかけているように読めなくもありません。 

 

 そうした意図はなく、あくまで「お守り」のような感覚でドラレコステッカーを貼っている人が大半だとは思うのですが、見かけたドライバーが何とも言えない気持ちになるのも分かります。 

 

 中には、ドラレコステッカーを貼っているクルマに出くわすと「このくらいの車間距離でも大丈夫かな?」「あおっていると思われないかな?」と不安になるドライバーもいるようです。 

 

 さらに、SNS上では「ドラレコステッカーを貼っているクルマこそが自己中心的な運転をする」という意見もみられました。ステッカーを貼った上で安全運転をしているドライバーも多いため一概には言い切れませんが、この意見は一理あります。 

 

 わざわざドラレコステッカーを貼ってまで他のドライバーを牽制(けんせい)している人の中には、一般的なドライバーよりも「あおられやすい」人がいるはずです。こうしたドライバーは、自らが周囲を不快にさせている可能性も否定できません。 

 

 もちろん、あおり運転は決して許されないものです。どのような理由があったとしても、ドライバーはあおり運転に手を染めてはいけません。しかし現実的には、あおり運転を「される側」の運転操作が周囲の迷惑となり、それがきっかけでトラブルに発展する場合も多くあります。 

 

 追い越し車線を延々と走り続けたり、逆方向に膨らんでから右左折したり、ウィンカーを出さずに車線変更をしたり――。迷惑運転を悪気なく繰り返している張本人が、ステッカーを使って「録画しているぞ」「あおるなよ」と主張しているのであれば、あまり気持ちの良いものではありません。 

 

 ドラレコステッカーを貼ったことで「あおられなくなった」と効果を実感している人の中には、そうした迷惑ドライバーが含まれているかもしれません。一安心している人は、自分の運転に問題がないかを思い返してみてください。 

 

 

● ドラレコステッカーの代替策として おススメのシールとは? 

 

 そもそも、このステッカーは本当に必要なのでしょうか。 

 

 筆者は日常的にクルマの運転をしますが、交通ルールをしっかり守って運転していることもあって、あおり運転の標的にされることは滅多にありません(ドラレコステッカーは貼っていません)。 

 

 高速道路の追い越し車線でかっ飛ばしてきたクルマに追いつかれ、車間距離を詰められることはまれにありますが、こちらの速度が遅いわけではありません。急いでいるクルマが速度超過で突っ込んでくるケースが大半です。詰められても「君子危うきに近寄らず」の精神ですぐに譲っているため、特にトラブルになることもありません(譲る義理はないのですが……)。 

 

 ステッカーを貼らなくても、特段の問題は起きていないのです。このように考えてみると、「後続車にプレッシャーをかけている」と捉えられかねないドラレコステッカーは、一定のメリット(あおり運転の抑止効果)が見込まれるとはいえ、あまり得策とは言えないかもしれません。 

 

 どうしても何かを貼らないと不安だという人は、代替策として「お先にどうぞ」や「運転が下手でごめんなさい」などと書かれたステッカーを貼った方が、周囲に与えるプレッシャーを軽減できると思われます。 

 

 ネット通販などでは、他にも「運転が下手すぎて自分でもびっくりしています」「運転苦手です 一生懸命運転中 優しく見守ってください」「超ペーパードライバー練習中」などと、周囲に高圧的な印象を与えないコミカルなものが売られています。 

 

 とはいえ、トラブルを避ける上で本当に大切なのは、ステッカーに頼るのではなく「安全運転の基礎」を徹底することです。 

 

 言わずもがなですが、道路上の治安を守るためには「ルール・マナーの遵守」と「譲り合いの精神」が必要になります。その上で、ドライバーが観察力や予測力を磨くことも大切です。予期せぬ事態に直面しても、周囲の状況をしっかり把握し、他のドライバーの動きを見越した運転ができれば、交通事故はぐっと減ります。あおり運転につながるトラブルも少なくなるはずです。 

 

 ステッカーを貼りたい人もそうでない人も、この「運転の本質」を忘れないようにしたいものです。 

 

吉川賢一 

 

 

 
 

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