( 172845 ) 2024/05/22 01:12:02 0 00 ふるさと納税で財源の流出に悩まされてきた政令市や特別区が、寄付獲得に力を入れ始めた。税収の減少と獲得した寄付の差で生じる「赤字」は4年間で1・8倍に拡大。地方との格差是正という制度の趣旨を踏まえ、返礼品競争から距離を置いてきた都市部が、耐えかねて反転攻勢をかけ始めている。(猪原章)
【表】首都圏や関西の自治体のふるさと納税の取り組み
東京都新宿区の返礼品を紹介する仲介サイト「ふるなび」のホームページ
高級ホテルの宿泊券(寄付額50万円)、商業施設の共通食事券(同2万円)、老舗店の抹茶アイス(同6000円)――。ふるさと納税の仲介サイトで東京都新宿区を検索すると、こんな返礼品がずらりと並ぶ。
同区は2008年度の制度開始以降、返礼品を提供してこなかったが、23年10月から提供を始めた。担当者は「ふるさと納税を使う区民の増加で税収が減少している」として財源確保に向けた狙いを語る。
ふるさと納税は、住民が居住地以外の自治体に寄付をすると、寄付額から2000円を引いた額が住民税などから控除される。そのため利用の増加は、居住地の自治体の税収減に直結する。
(写真:読売新聞)
新宿区のふるさと納税による住民税の減少額は19年度の21億円から、23年度は38億円に拡大。一方、区への寄付は返礼品を提供していなかったことで年間数百万~1億円程度と、税収減と集めた寄付額の差で「赤字」が生じている。
国は税収減の75%を地方交付税で補填(ほてん)しているが、税収が潤沢などの理由で地方交付税を受けていない自治体は対象外だ。新宿区はこれに該当しており、担当者は「多額の税流出が穴埋めもされないのは痛い」と強調する。
総務省によると、ふるさと納税の寄付総額は、制度開始当初の81億円から22年度は120倍近い9654億円まで膨らんでいる。
東京都北区が返礼品として提供する人間国宝・奥山峰石氏が制作した湯沸かし=同区提供
これに伴う23年度の税収減は、最大が横浜市(272億円)で、名古屋市(159億円)、大阪市(148億円)と続き、上位20自治体はすべて政令市と特別区が占める。22年度の全政令市・特別区の「赤字」は計1953億円。4年前(1094億円)の1・8倍だ。
関西で税収減が最大の大阪市は今年度から、過度な競争を避ける目的で独自に定めていた返礼品の調達額の自主規制を撤廃する。従来の「寄付金1万円以上で2000円以内」をやめ、国の基準の「寄付額の3割以下」に合わせる。
同市の「赤字」は22年度は144億円。新宿区と異なり、地方交付税による補填があるが、市幹部は「少しでも税収減を食い止めたい」と話す。
厳しい財政状況が続く京都市は、一足早く積極姿勢に転じた。20年度にふるさと納税の専門チームを新設。18年度の返礼品はわずか8だったが、現在は老舗料亭の豪華おせち料理など3000以上だ。22年度は年21億円の「黒字」で、同市の二宮啓之・担当課長は「今の制度が続く以上、攻めていくしかない」と語る。
ふるさと納税では、一部の自治体が多額の寄付を集める構図が続いている。総務省によると、2022年度はふるさと納税に参加する自治体約1700のうち、6%にあたる上位100自治体が、寄付総額9654億円の半分近い4429億円(45・9%)を集めた。
集めた寄付額の最多は、肉と焼酎が売りの宮崎県都城市(195億円)で、カニやホタテの産地・北海道紋別市(194億円)、同根室市(176億円)が続く。3市は20、21年度もトップ3を占め、過去5年を見ると、上位20の中には繰り返しランクインする自治体が少なくない。
桃山学院大の吉弘憲介教授(地方財政論)は「都市部の本格参入は、税を奪い合う制度のゆがみが引き起こした現象だ。国は自治体の規模に応じて寄付受け入れ上限を設けるなど制度を改善するべきだ」と話す。
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