( 173060 )  2024/05/22 16:38:37  
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3割近い人が「頭金ゼロ」でマイホームを購入している(写真:Chay_Tee/Shutterstock) 

 

 (山下 和之:住宅ジャーナリスト) 

 

 マンションや戸建て住宅の価格高騰もあり、頭金なしや少ない頭金でマイホームを買う人が増えている。これまでは超低金利が続き、価格も上がり続けてきたので、さほど問題が表面化することはなかったが、これからは金利が上がり、価格も低下する時代に変わる。ローン破綻や担保割れのリスクが高まるので、より慎重な資金計画を立てて購入することが大切になる。 

 

【グラフ】ライフステージ別のマイホーム購入額と自己資金比率 

 

■ 「頭金2割以上」が住宅ローンの条件だったが… 

 

 かつて、マイホームの取得においては、頭金が2割以上必要といわれたが、それにはいくつかの理由がある。 

 

 第一には、多くの銀行が住宅ローンの条件として、融資率8割を上限としていたので、残りの2割以上は自己資金として頭金を用意しなければ買えなかった。 

 

 取得後何年かたって、資産価値が分譲時価格から2割、3割下がったとしても、2割以上の頭金を用意して買っていれば、ローン残高も減っているので、簡単には担保割れにはならない。そのため、銀行としてはリスクヘッジのために2割以上の頭金が必要としていたわけだ。 

 

 もうひとつの見方として、2割以上を用意するには、しっかりと家計を管理して預貯金を増やす必要があり、それができる堅実な人であれば、住宅ローンも確実に返済してくれるのではないかという計算が成り立つ。2割以上の頭金を用意する人に対しては、銀行としても安心して融資でき、信用力の高い人物とみなされる。 

 

 だが、近年は銀行間の住宅ローン貸し出し競争の激化もあり、頭金2割以下でも積極的に融資する銀行が増えてきた。折しも住宅価格が上昇し、簡単には担保割れにはならないという背景も重なり、融資率の上限を8割から9割に引き上げ、10割もOKとする金融機関が増えてきた。 

 

 もちろん、従来から頭金ゼロでマイホームを取得する人はいた。富裕層や高額所得者などで確実に返済できるだろうと判断した人に対しては、頭金ゼロや頭金が少なくても、銀行は積極的に融資してきた。それが、最近ではごくふつうの会社員に対しても、頭金ゼロや少ない頭金で住宅ローンを融資する銀行が増えてきたのだ。 

 

 三井住友信託銀行では、持ち家を取得した人を対象に頭金をどれくらい用意していたかを調べているが、【グラフ1】にあるように、1993年までは、「ゼロ(頭金なし)」の人の割合は16.0%だったのが、1994年~2003年には19.8%に、2004年~2013年には29.3%に増え、2014年~2023年には37.1%に達している。 

 

 1993年までは「頭金が2割くらい」と「頭金が3割くらい」の合計が44.4%で、2、3割の頭金を用意してマイホームを買う人が主流だったのが、2014年~2023年には23.9%に減少、代わって「ゼロ(頭金なし)」とする人が急増してきたわけだ。 

 

 

■ 変動金利型ローンは返済額が増えるリスク大 

 

 頭金ゼロでもマイホームが買えた背景には、超低金利時代が長く続き、住宅価格が上がり続けてきたという事情がある。 

 

 変動金利型の住宅ローンだと多くの銀行で0.3%台、0.4%台の超低金利で利用でき、返済負担が少なくて済む。しかも、価格が上がり続けているので頭金ゼロで買っても、担保割れになるリスクは小さく、銀行としても安心して貸せたわけだ。 

 

 ところが、その超低金利と価格高騰という2つの前提条件がターニングポイントに差し掛かっている。 

 

 2024年3月には日本銀行がマイナス金利政策を解除し、17年ぶりに金利の引き上げを行った。2024年5月段階では、住宅ローン金利はさほど上がってはいないが、夏から秋にかけて、本格的な上昇が始まるのではないかとみられている。基準金利の引き上げだけではなく、優遇金利幅の縮小による、実質的な引き上げも想定される。 

 

 そうなると、これからマイホームの購入を考えている人のローン借り入れ後の返済負担が重くなるだけではなく、すでに住宅を取得している人で、変動金利型住宅ローンを利用している人は、今後金利の上昇で毎月の返済額が増額されるリスクが高まる。 

 

■ 中古住宅の価格下落が進み、たちまち担保割れに 

 

 しかも、これまで上がり続けてきた住宅価格が下落し始めている。不動産専門データバンクの東京カンテイによると、2024年3月の70m2 

当たりの中古マンション価格は、各地で下がり始めている。 首都圏は前年同月比3.7%、近畿圏は2.2%、中部圏は3.9%の下落だった。首都圏の都県別動向をみると、東京都のみ0.2%の上昇とかろうじてプラスを維持しているものの、神奈川県は1.7%、埼玉県は4.6%、千葉県は2.5%ダウンしている。 

 

 住宅ローンの金利上昇が、この相場動向にも影響を与える可能性がある。三菱UFJ信託銀行では、ゼロ金利政策解除に伴う住宅ローン金利上昇が住宅市場にどのような影響を与えそうか、デベロッパーを対象に調査を行っている。 

 

 その結果、住宅ローン金利が0.5%上昇した場合、分譲住宅について、「販売価格が下落する(10%以上)」とする企業が16%で、「販売価格が下落する(10%未満)」が56%と、合わせて72%が、下落が始まると回答している。金利上昇で返済負担が増え、消費者の購買力が低下、価格を下げざるを得なくなるとするデベロッパーが多いわけだ。 

 

 これは分譲住宅への影響だが、すでに下落が始まっている中古住宅への影響は、さらに深刻なものになるかもしれない。価格下落に金利上昇が拍車をかけ、一段と下落幅が大きくなってくる可能性がある。 

 

 そうなると、頭金ゼロでマイホームを買っている人は、今後住宅ローンの返済額が増える中で、中古住宅の相場が2割、3割と下落し、住宅ローン残高が売却可能価格を大きく上回る担保割れになってしまうリスクが高まる。 

 

 通常に返済できていれば問題はないが、金利が上がって返済額が増加し、返済が厳しくなったので売却したいと思っても、担保割れ状態では売却は簡単ではなく、身動きが取れない状況に陥りかねない。 

 

 

■ 意外にも少ない自己資金でマイホームを購入している「DINKS」 

 

 特に注意が必要なのが、共働きで子どものいない「DINKS(ディンクス)」ではないだろうか。 

 

 現在、マンションや戸建て住宅の価格高騰により、専業主婦(主夫)の片働き世帯では簡単にマイホームを購入できず、共働きで購入するケースが増えている。 

 

 リクルートSUUMOリサーチセンターの調査によると、2023年に首都圏で新築マンションを購入した世帯のうち、58.6%が共働き世帯だったが、夫婦のみの世帯では共働きが89.8%とほぼ9割に達している。10年前の2013年には78.2%だったから、10年間で11.6ポイントも高まっている(【グラフ2】参照)。 

 

 SUUMOの調査では頭金比率(自己資金比率)も調査しているが、首都圏で新築マンションを買った人の頭金比率の平均は21.7%だった。しかし、ライフステージ別にみると大きな差がある。 

 

 【グラフ3】でも分かるように、ほとんどが共働きの「夫婦のみの世帯」では、自己資金比率が9.5%と1割を切る水準になっている。先の三菱UFJ信託銀行の調査にもあったように、「ゼロ(頭金なし)」で買っている世帯がかなりの割合でいるのだ。 

 

 自己資金が少ないのに、実は借入額はどのライフステージよりも多くなっている。シングルやシニアカップルは4000万円台の借入額だが、子どもありのファミリー世帯は借入額が5509万円に増え、夫婦のみ世帯はそれを上回る5624万円となっている。 

 

 取得したマンションの専有面積はファミリー世帯が70.8m2 

で、夫婦のみ世帯は66.7m2 

と、やや狭くなっているものの、借入額は多く、かなり無理をして買っているのではないかと推察される。 

 

■ 夫婦どちらかの収入が途絶えるとローン返済が困難に 

 

 世帯年収をみると、契約者の平均が1057万円に対して、夫婦のみ世帯は1068万円で、子どものいるファミリー世帯は1121万円となっている。夫婦のみの世帯では共働き世帯がほとんどなのに、世帯年収はファミリー世帯よりも若干低いレベルにとどまっており、共働きでないとマンションを買えない夫婦が多いのではないかと推察される。 

 

 注意しておきたいのは、共働き世帯は片働き世帯に比べると収入が減ったりするリスクが倍になる点だ。片働きであれば、病気やケガなどに見舞われたり、勤務先のリストラ、倒産などに遭ったりするリスクは1人分だが、共働きだと夫婦は2人分という見方もできるからだ。 

 

 仮にギリギリの資金計画でマイホームを買っている共働き世帯が多いとすれば、どちらかの収入が途絶えると、たちまち返済が困難になる。そうなると、ローンの延滞からローン破綻につながる確率も高くなってしまう。 

 

 そうならないためには、一定期間どちらかの収入が途絶えたり、減少したりしても何とか返済を続けられるようなゆとりある資金計画でマイホームを購入し、決して無理をしないというのが大前提といっていだろう。 

 

 

■ 残高がゼロになる「団信特約」をつけるのが安心 

 

 住宅ローン破綻に陥らないためには、不測の事態に備えて保険に加入しておくのも大切だ。 

 

 住宅ローンには、団体信用生命保険(以下、団信)がついていて、本人が亡くなったり、高度障害に陥ったりした場合、残高がゼロになって、残された人には住宅ローンのない住まいが残されることになる。この通常の団信の保険料は金利に含まれ、別途負担は生じない仕組みだ。 

 

 しかし、通常の団信だけでは、亡くなった人分の残高がゼロになるだけで、完全に残高はゼロにはならない。50%ずつのペアローンだとどちらかが亡くなったり、高度障害に陥ったりしたとしても50%分はローンが残ってしまう。ローン支払い額は減っても返済は続くので生活が厳しくなりかねない。 

 

 そのため、どちらかが死亡したときにはゼロになるような特約をつけておくのが安心だ。保険料は若干高くなるが、安全・安心のためには欠かせない。 

 

 これからの時代、住宅ローン金利が上がり、価格相場が下がる可能性が極めて高く、何かとリスクが大きくなるので、住宅購入や住宅ローン計画にはより慎重な姿勢が求められる。 

 

山下 和之 

 

 

 
 

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