( 173688 )  2024/05/24 17:31:11  
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スクウェア・エニックス・ホールディングスは一部タイトルの開発中止により約220億円の特損を計上し、組織体制を刷新した。

売上高は3.8%増の3563億円だったが、営業利益は26.6%減の325億円、純利益は69.7%減の149億円と減益となった。

新たな開発方針ではタイトルの厳選とクオリティ向上を重視し、既存IPを活用した大型タイトルを主力とする方針となっている。

スクエニはマルチプラットフォーム展開を強化し、組織体制を横連携を重視したものに変更するなど、業績改善への取り組みが進んでいる。

(要約)

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一部タイトルの開発中止により、巨額特損を計上したスクエニ。開発方針の見直しに伴い、4月から組織体制も刷新した(撮影:今井康一) 

 

 「ファイナルファンタジー」「ドラゴンクエスト」――。国民的ゲームソフトを生み出してきたメーカーが試練に直面している。 

 

【図表で見る】ゲーム大手の営業利益率の比較。スクエニの収益力低迷が目立つ 

 

 スクウェア・エニックス・ホールディングス(HD)は5月13日に発表した2024年3月期決算において、主に2027年以降の発売を予定していたHDゲーム(家庭用ゲーム)の一部タイトルの開発を中止したことにより、過去最大となる約220億円のコンテンツ等廃棄特損を計上した。 

 

 さらに、開発を続けるタイトルについても販売予測を一部引き下げたことに伴い、約168億円に上るコンテンツ評価損などを売上原価に計上した。この結果、2024年3月期の売上高は3563億円(前期比3.8%増)、営業利益は325億円(同26.6%減)、純利益は149億円(同69.7%減)と、大幅減益に沈んだ。 

 

■今後はタイトルを厳選していく 

 

 スクエニでは、開発に着手したHDゲームの開発コストを「コンテンツ制作勘定」として貸借対照表上の資産に計上し、発売のタイミングで一気に損益計算書上の原価に計上している。このコンテンツ制作勘定は2023年3月期末に872億円まで膨らんでいたが、評価損や廃棄特損などにより2024年3月期末には485億円にまで縮小した。 

 

 今回の損失計上は、開発方針の見直しによるものだ。スクエニは「これまではトップライン(売上高)を稼ぐために、新作の発売タイトル数で勝負していたが、今後はよりタイトルを厳選しクオリティを上げていくことで、HDゲーム単独でも安定的に利益を創出したい」と説明する。 

 

 ゲーム業界ではヒット作の有無が業績を大きく左右するため、スクエニは本数を多く出すことでリスクヘッジを狙ってきた。ただ、開発人員などのリソースが分散したこともあり、一部の大型タイトルや、社内で作り切れずに外部に開発を委託したタイトルなどでは、期待通りの収益を得られず、結果としてHDゲームや全社の収益性の悪化をもたらした。 

 

 スクエニの2024年3月期の営業利益率は9.13%。直近数年の営業利益率で比較すると、同業のカプコン(前期実績は37.4%)やコーエーテクモHD(同33.6%)とは、20%以上の大差をつけられている。 

 

 

 新たな開発方針の下、今後は既存IP(知的財産)を活用した大型タイトルを中心に数を絞り、自社の開発リソースを集中させる。今回の特損では、この方針に合わない中堅タイトルなどが開発中止の判断を下されたとみられる。 

 

■新規投入のFFシリーズも不発 

 

 一方、大型タイトルへの依存度が高くなれば、売れ行きが予測を外れたときのリスクが増大するというジレンマに直面する。 

 

 実際、スクエニが最近発売したタイトルを振り返ると、有力なIPであっても必ずしもヒットする状況ではなくなっている。 

 

 2024年3月期はファイナルファンタジー16(2023年6月発売)とファイナルファンタジー7リバース(2024年2月発売)を投入したものの、開発費の償却負担や評価損をカバーできず、HDゲームの売上高は992億円(前期は785億円)、営業損失は81億円(同41億円の赤字)に膨らんだ。 

 

 厳選したタイトルをヒットさせるためのカギとなるのが、マルチプラットフォームでの展開だ。 

 

 FF16やFF7リバースはソニーの「プレイステーション5」のみで発売するなど、スクエニでは主力タイトルの一部を特定のハード端末での展開に限定していた。 

 

 一方、業界では1つのハードに依存せず、任天堂のスイッチやマイクロソフトのXbox、PCなどを含む複数のプラットフォームに同時展開するケースが増えている。ユーザー層や地域を広げることで、ゲーム自体の世界的ヒットだけでなく、IPの影響力拡大も狙うことができる。 

 

 「FFシリーズは映像美を押し出しているからこそ、ハイエンド向けのプレイステーションが選ばれていたが、今は海外で普及率の高いPCなどのスペックも上がってきている」(業界関係者) 

 

 スクエニによると、「開発を継続するタイトルや新たに立ち上げるタイトルは、基本的にほぼすべてマルチプラットフォームで展開していく」という。 

 

■横連携を重視した組織体制に変更 

 

 スペックの異なる複数のプラットフォームで同じように動かせる仕様を作り上げるには、そのためのノウハウが必要とされ、開発は複雑化、高度化する。この先スクエニでは、開発プロセスの見直しや合理化に加え、マルチプラットフォーム対応という条件下でのクオリティの維持・向上が求められる。 

 

 

 内部開発の強化に向けて、4月には組織体制も変更した。「組織が縦割りで、情報の横連携ができていなかった」(スクエニ)として、これまでの事業部制を廃止し、開発人材の有効活用やノウハウの共有を進める方針だ。タイトルポートフォリオの管理が行き届かず、自社が手がける複数のタイトルが同時期に発売されたことで需要を食い合ってしまう状況も発生していたといい、タイトルの進捗管理プロセス全体も見直す。 

 

 「ある程度の規模のHDゲームを開発するには5年はかかる」(業界関係者)とされ、今回の改革の成果が発売タイトルの中身や業績に反映されるには、相応の時間を要するだろう。 

 

 一方で、ゲーム市場を取り巻く環境の変化はめまぐるしい。移ろいやすいユーザーの嗜好を的確にキャッチしながら、安定的に収益を生み出し続ける体質に変革できるか。重要な局面を迎えている。 

 

田中 理瑛 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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