( 176695 )  2024/06/02 14:58:28  
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教員不足で授業ができない事態も=写真はイメージ(写真:maroke/Shutterstock) 

 

 深刻な教員不足が続いています。文部科学省による2021年5月時点の全国調査では、小中合わせて1350校で教員の定員割れが起きていました。各地の自治体はあの手この手の採用活動を続けていますが、「ブラック職場」との見方が広がってきたためか、抜本解決への道筋は見えていません。教員不足の背景にはどんな事情があるのでしょうか。やさしく解説します。 

 

【表】都道府県別・小学校教員不足ランキング 

 

 (フロントラインプレス) 

 

■ 「定額働かせ放題」NHK報道で騒ぎ 

 

 この5月中旬、教員の待遇改善をめぐるニュース報道で、ちょっとした騒ぎが起きました。 

 

 公立学校の教員には残業代を支払わない代わりに月給の4%を一律支給することになっていますが、教員の待遇改善問題をNHKが報じた際、この仕組みについて「定額働かせ放題、どれだけ残業しても一定の上乗せ分しか支払われない教員の給与の枠組みはこのように呼ばれています」と放送したのです(5月13日)。 

 

 これに文部科学省が激怒。「(放送は)現行の仕組みや経緯、背景、中央教育審議会における議論の内容に触れることのない一面的なもので、大変遺憾」とする局長名の文書を公表する事態となりました。 

 

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 報道への圧力ではないかとの指摘も湧き上がりましたが、それ以上に教員の給与体系や待遇問題に注目が集まりました。焦点は“定額働かせ放題”です。 

 

 公立学校教員の残業代が支払われないことは、教職員給与特別措置法(給特法)という法律で定められています。代わりに支給されるのが、月給4%分の「教職調整額」です。 

 

■ 一律月給の4%→10%以上でも「学校がもたない」 

 

 給特法が制定された1971年当時、1カ月の残業時間は8時間と見なすことが適正であるとの考えから、実際の残業時間に関わりなく、8時間の残業代に相当する額を支給する仕組みができたのです。 

 

 教員は放課後になっても翌日以降の授業の準備や採点、部活動の指導、各種報告書の作成、家庭との連絡調整などに追われ、多忙を極めます。児童・生徒を放りだして退勤するわけにもいきません。 

 

 そうした実態を受け、文科省に置かれている中央教育審議会(中教審)は、半世紀以上も前に決まった4%という水準を引き上げ、少なくとも10%以上にすべきだとの考え方をこの5月に打ち出しました。 

 

 ただ、教員側からは歓迎の声が上がる一方で、「残業時間に応じた手当が出るわけではない」「現場の忙しさに見合わない待遇」といった声も続出しました。 

 

 とくに「このままでは学校がもたない」と訴えてきた全日本教職員組合(全教)は中教審を厳しく批判。「長時間労働の解消のためには業務に見合った教職員の増員と業務量の削減が必要」とする声明を発表し、潤沢な予算を付けて教員を増やすよう要望したのです。 

 

 では、教員不足はどのような水準にあるのでしょうか。 

 

 

■ 「授業ができない」ケースも 

 

 最も新しい公的な全国調査は、文科省による2021年5月時点のものです(公表は2022年)。それによると、小学校は794校で979人、中学校は556校で722人の教員の欠員が生じていました。小中合わせると、1701人の教員不足です。 

 

 高校や特別支援学級を加えると、2063人の不足。全国平均では、20校に1校の割合で教員の定員割れが起きていました。 

 

 教員不足が進んだ結果、学級担任を正教員だけで担うことは不可能になっています。同じ調査によると、小学校では11.49%、特別支援学級では23.69%の学級担任が身分の不安定な非正規雇用でした。 

 

 教員不足の理由としては、「産休・育休取得者が見込みより増加」が最も多く、以下、「特別支援学級が見込みより増加」「病休職者数が見込みより増加」と続きました。 

 

 解消を目指しているNPO法人「School Voice Project」が2023年4月に実施したサンプリング調査によると、教員不足が生じていたのは公立小学校で20.5%、公立中学校で25.4%に達しています。 

 

 教員不足に直面した学校は「管理職が担任を兼務」「特別支援学級の学級数を減らしている」などの方法で急場をしのいでいます。しかし、免許を保有する教員を確保できずに「授業ができない」ケースも発生。公立小学校で6.7%、公立中学校で13.1%に上りました。 

 

 義務教育過程で授業がストップするわけですから、教員不足の影響は深刻です。 

 

 この団体には、学校現場から次のような悲痛な声がたくさん届いています。 

 

■ 現場の悲鳴「児童一人ひとりに向き合えない」 

 

 ▼専科教員が配置できず、予備実験や授業準備等に十分な時間をかけることができず、満足いく授業を実施できなかった。教員の負担感、疲労感が大幅に増し、体力も低下してコロナウイルスやインフルエンザに感染した(4人)。学校が回らなくなり、休校の事態となった(熊本県小学校) 

 

 ▼年度の始まりに担任がいなかったことや、途中で担任変更があったことで、こどもが戸惑い、学級が崩れてしまった。一年の始まりは、子どもにとっても担任にとっても重要なので、教員数の確保は喫緊の課題だと感じる(愛知県小学校) 

 

 ▼本来の業務が減るわけではないので、勤務時間が倍増し、勤務時間外勤務が100時間を超えた(愛知県小学校) 

 

 ▼校長も授業を持ち、教頭や教務主任などの持ち時数が大幅に増えた。人手不足で、職員室に人がいない。事務が出張のことも多く、職員室の留守番を1名置くのにとても苦労する。職員全体に余裕がなく、仕事を振れる教員がいない。余裕がないので、ミスも増え、それによりさらに仕事が増え、負のスパイラルになっている。児童一人一人に向き合う時間の確保が不可能に近いほど困難。行事などのために必要な会議や生徒指導のための緊急会議等、勤務時間内に会議を持つことが不可能であることが多い(埼玉県小学校) 

 

 ▼支援学級2クラスを1人でみておられたので、児童への影響があった。教務教頭も対応したが、ただでさえかなりの超過勤務の役職なので、働き方改革どころではなかった(千葉県小学校) 

 

 毎月の残業時間が100時間以上、働き方改革どころではない、子どもたち一人ひとりと向き合う時間の確保も難しい……。学級崩壊を招いているとの声もありましたが、教員不足により一部では学校が学校ではなくなりつつあるのです。 

 

 

■ あの手この手で採用に工夫 

 

 目の前の教員不足を一刻も早く解消しようと、各地の教育委員会はあの手この手で採用活動を続けています。 

 

 埼玉県では、大学2年生と短大1年生向けの職業体験「彩の国かがやき教師塾」をスタートさせています。学習指導や学級担任の補助業務を通じて、教員の仕事を理解してもらう試みで、60~80時間のボランティア。2024年度は対象の大学を増やすなどして、計300人を募集します。 

 

 滋賀県では2024年度から教員採用試験を大学3年時に受験可能としました。民間企業の就活に先を越されないための措置で、大阪市や京都府などでも同様の制度を導入します。 

 

 さらに、熊本市では大学推薦があれば、1次選考を免除する制度を2025年度からスタートさせます。その他の自治体も中途採用を強化したり、教職に就いていない免許保持者への働きかけを強めたり、対策を強化しています。 

 

 こうした策は果たして効果を生むのでしょうか。 

 

 教員不足を根本から解消するには、十分な数の教員を確保し、「ブラック職場」と呼ばせない職場環境をつくることが欠かせません。そのためにも潤沢な予算を教育に配分することが必要だと多くの教育関係者は訴えています。「一人ひとりの子どもと向き合う時間がない」というほど忙しい、本末転倒の教育現場。誰もがその改善を望んでいるはずです。 

 

 フロントラインプレス 

「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo! ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。 

 

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