( 177105 ) 2024/06/03 16:47:59 0 00 多くの家電メーカーがしのぎを削る中、さまざまな新製品が市場に投入されている(写真:パナソニック、バルミューダ、象印マホービン)
「デザインでは先駆者だったが、ほかのメーカーのデザインが良くなり、しかも私たちの製品より低価格で提供されている。そしてそれを乗り越えるだけの販売力が維持できていない」
【グラフで見る】巣ごもり需要の反動減に見舞われた、バルミューダの業績悪化は深刻
新興家電メーカー・バルミューダの寺尾玄社長は5月10日決算会見で、悔しさをにじませてそう語った。同社は2023年12月期決算で、13億7500万円の営業赤字に転落した。
バルミューダは2015年に発売した、パンをおいしく焼けるトースターが大ヒット。その後も電気ケトルや炊飯器など、従来のイメージを覆すようなおしゃれなデザインや斬新なアイデアで一世を風靡した。
2020年には東証マザーズ市場(現グロース市場)に上場を果たし、コロナ禍では巣ごもり需要を捉えて大幅に売り上げを伸ばしてきた。
■購入層に商品が行き渡った
が、足元は反動減に苦しんでいる。赤字だった2023年度から、2024年度は1億5000万円の営業黒字へ大幅改善を目指しているが、5月10日に発表した2024年度第1四半期(1~3月期)は2億3600万円の営業赤字と水面下。前期から続く旧製品の在庫処理などが響いた。
バルミューダの家電は「売れる数が一般的な製品と比べると少なく、買う人たちが買ってしまうとなかなか次の一巡に入りにくい」(寺尾社長)。コロナ禍の特需で潜在的な購入層に製品が行き渡ってしまい、収束すると急激に販売数が落ちた。
追い打ちをかけたのは急激な円安だ。バルミューダは工場を持たないファブレスで、中国や台湾など海外を中心に複数の工場へ製造を委託している。円安によって海外で製造している商品の製造原価が上昇し、採算性が悪化した。
そこで値上げに踏み切ると、さらに売り上げが落ちる悪循環に陥った。すでに撤退したスマートフォン事業のために従業員数を増やしていたこともあり、人件費がかさんで大幅な赤字に転落してしまった。
苦戦を強いられているのはバルミューダだけではない。国内家電最大手のパナソニック ホールディングス(HD)は、白物家電事業の一部を収益性の改善が必要な「課題事業」の1つだと明らかにした。
■中国家電の”マネシタ電器”に
パナソニックの家電事業は2021年度以降、3期連続の営業減益に沈む。パナソニックHDの楠見雄規社長は「(家電事業会社の)くらしアプライアンス社全体ではそこそこの収益を出しているが、調理家電や空調が期待ほどの収益を出していない。(中略)すでにトップは交代させた」と語る。
2023年12月に新たに家電事業のトップに就任した堂埜茂氏は、収益性の改善が進んでいない理由を「一生使わないであろう機能を取り除けていないのが原因だ」と説明する。
「例えば電子レンジ。1000個ぐらい機能があって多くのセンサーが入っているが、本当に必要なのか。ほとんど移動させない炊飯器にコードを収納できるリールが必要か、と考えていくとシンプルにできる」(堂埜氏)。そして「よくないプライドを捨て、世界で通用する製品を作っている中国メーカーの“マネシタ”電器になる」と続ける。
大手から新興まで厳しい事業環境に苦しめられる中、気を吐くメーカーもある。炊飯器で国内最大手の象印マホービンだ。調理家電が売上高の約7割を占める同社は、2025年度までの中期経営計画で「調理家電の国内トップブランド確立」をブチ上げた。
2023年11月期の調理家電部門の売上高は586億円。2024年11月期は612億円を計画し、国内外の調理家電が業績を牽引する。
同社の堀本光則・商品企画部長は「性能が高いのは当たり前。お客様が本当に求めている機能は何なのか徹底的に調査し、それをちょうどいい価格で買ってもらえるかどうか」が開発のポイントだと語る。
その一例が炊飯器の最上位モデル「炎舞炊き」だ。競合他社の製品が続々とインターネットと接続できるIoT機能を搭載し、スマートフォンなどと連携させる機能を導入する中、象印はネットへの接続機能をつけていない。
■IoT先駆者がこだわったこと
同社は2001年から湯沸かしポットを利用すると家族の携帯電話に通知が飛ぶ「みまもりポット」を展開するなど、通信機能を搭載した家電の開発では隠れた先駆者だ。
それでもあえて通信機能を入れなかったのは「おいしいご飯を炊くという本質のためには、優先順位が低い機能」(堀本氏)だったから。炎舞炊きではネットにつながる代わりに、ご飯を炊くたびに炊き上がりを評価するボタンが表示され、炊飯器が利用者の好みを学習していく。
デザイン性にも気を配る。「かつては台所と居間が別の住宅が多かったが、リビング・ダイニング・キッチンが1つの空間という住宅が増え、家電製品がつねに目につく場所に置かれるようになった」(堀本氏)からだ。
2022年には17年ぶりにオーブンレンジの新製品を発売するなど、つまずく大手や新興を尻目に今後もさらに攻勢を強める構えだ。
人口減少によって国内家電市場が緩やかに縮小していく中、家電メーカー各社の戦略は二分されつつある。
バルミューダや象印のような新興・中堅の家電メーカーは、それぞれが得意とする製品の付加価値を高め、大手メーカーが手薄なマーケットでシェアを伸ばそうとしている。
例えばバルミューダは2023年にホットプレートの新製品を発売した。実勢価格で3.3万円程度の高級機種だが、「中高年の男性を中心に、お金に余裕のある層に受けている」(同社)という。同じ価格帯に既存メーカーの製品がなかったこともあり、発売から1週間で5000台を売り上げた。
■パナソニックはPB受託製造に意欲
一方で、洗濯機や冷蔵庫など大型家電が中心の大手家電メーカーの間では他社との協業や、パートナーを模索する動きが広がっている。
パナソニックは、量販店などの小売業者が展開するプライベートブランド製品の受託製造を開始する構えだ。日立製作所は国内家電事業会社の資本構成変更も含めて、すでにパートナー探しを進めている。
三菱電機は東洋経済の取材に対し書面で「機器単体での販売から家電の使用状況や運転データなどを活用したソリューションを展開していく中で、各社との連携や協業を図る可能性はあり得る」と回答した。
大手企業は海外投資家などから「営業利益率10%以上」といった目標を突きつけられ、半ば強制的に収益性の低い事業の再編を求められている。このまま収益性が低い状況が続けば、将来的な成長性の乏しい国内家電事業は再編の対象となる可能性が高いだろう。
消費者1人ひとりの生活を支える家電で国内メーカーは生き残れるのか。それとも台頭している中国など海外メーカーに市場を明け渡すことになるのか。各メーカーに残された時間は少ない。
梅垣 勇人 :東洋経済 記者
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