( 178030 )  2024/06/06 17:25:45  
00

AdobeStock 

 

 ドル円相場は、4月29日に1ドル160円をつけ、日本中を震撼させた。しかし「まだまだ、円安は止まりませんよ」というのは、元モルガン銀行東京支店長の藤巻健史氏だ。「1ドル500円になってもおかしくありません」という。なぜなのか。みんかぶプレミアム特集「クライシス円安」第5回。 

 

――政府債務が増えていますがどのようにお考えでしょうか。 

 

藤巻健史 

 

 政府債務はずっと増えていますよね。今年の3月末時点で1297兆1615億円と、8年連続で過去最大を更新しています。例えば1987年に比べて4倍近くも国の借金は増えています。問題は、2012年あたりにはすでに国の借金が多くなっていて日本は財政破綻しているんじゃないかと思うほどでしたが、2013年に黒田さんが総裁になり、財政破綻という危機を先送りにするために知恵をしぼり始めてしまったところにあると思います。 

 

 国にお金がないとなれば、税金で集めるか、新しく紙幣を刷ってまかなうという2者択一です。昔は戦争で他国からぶんどってくるという方法を選択した国もあったようですが、これは当然のことながらとんでもない話。異次元緩和というのは日銀が国債を買って紙幣を発行して財源を増やすといった方法で財政破綻を回避したわけです。増税ができないから回避したということです。 

 

 例えば、紙幣を刷って国会議員としての給料を払ってあげましょうなどといったことを始めてしまう、これは「財政ファイナンス」と言われますが、どういうことかと言いますと、政府の借金を中央銀行が紙幣を刷って賄うということです。 

 

 そういうことをしてしまうと、紙幣の価値が暴落してしまうことは歴史の教えですよね。それを今まさに展開している状況と言えます。貨幣量を制限されていた金本位制が放棄された1980年以降のハイパーインフレは、こういったことが原因で起こっているケースがほとんどです。 

 

 私は主流派の金融論をずっと学んできたので、それに基づいてトレーディングもしてきましたし、人に教えたりもしてきた中で、やってはいけないことの一番目に書いてあることを日銀はしているんですよ。それも過激に。 

 

 

 伝統的な金融論は何百年も前から効果があることもも不作用もないことが検証されてきたものなので馬鹿にはできません。近年では、様々な人が「統合政府論」などと勝手なことを言っていますが、それは「財政ファイナンス」そのものですよ。中央銀行と政府を1部局にするということは、中央銀行が紙幣を刷って国債を買うということですので、「統合政府」理論の実践。現在行われている「財政ファイナンス」そのものです。とんでもない話ですよね。 

 

 過去、何度もそして徹底的に否定されたものを、再び新しい議論のようにすり替えて、あたかも正しいことのように言いふらしてしまったのですから、人災もいいところだと思います。 

 

――今はバブルのような状況と言えますか。また、日銀はなぜ利上げをしないのでしょうか。 

 

藤巻健史 

 

 不動産価格が上昇していることを考えると、今はバブルと同じ状況だと思います。植田総裁はそれをわかっていると思います。80年代後半のバブル当時は、当時の澄田元総裁がCPI(消費者物価指数)だけ見ていたから金融引き締めが遅れました。その時は、不動産や株価や絵画などの資産価格を見てもっと早く引き締めを行わなければならなかったと反省されています。 

 

 植田総裁は元学者なので、本来ならもう金利を引き上げなければならないし、国債の購入も減額してバランスシートを締めていかなくてはならないということをよくわかっているはずです。 

 

 しかし、日銀は長期国債を多額買っていて、長期金利が少しでも引き上がれば、債務超過になるし、短期金利を上げれば損のたれ流しになるので、色々な理屈をこねて、上げないのだと思います。上げられないということです。 

 

 今資産価格が上昇していて、かつCPIが2年近く2%上昇とオーバーしている状況で、超超超緩和政策をとっているのはおかしいに決まっています。金利を引き上げばらまかれたお金回収しないとこのインフレや資産インフレから脱却することは不可能です。 

 

 金利を引き上げたり、ばらまかれ過ぎたお金を回収すれば、日銀も債務超過でおかしくなりますし、政府の財政もおかしくなる上に、変動金利で住宅ローンを借りている人や、中小の金融機関も破綻します。つまり、日銀はどうにもならないから金融緩和から脱却できないだけということですね。 

 

藤巻健史 

 

 

 
 

IMAGE