( 178220 )  2024/06/07 01:59:07  
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インボイス制度導入で混乱する納税者も少なくない 

 

 2023年10月より始まった適格請求書等保存方式、通称「インボイス制度」。国税庁によれば、個人事業主の消費税の申告件数は約197万2000件で、前年度の105万5000件から約87%増加。申告納税額は約6850億円で、前年度からは約9%増加したという。 

 

【資料】課税事業者となった個人事業主の消費税納付期限は3月31日。計画的な納税を行うための「予納ダイレクト」という制度も 

 

 インボイス登録により初めて消費税を納税する個人事業者がかなり増えたことがうかがえるが、その裏では制度の複雑さゆえに混乱を招くケースもあるようだ。 

 

 まず「インボイス(適格請求書)」とは、複数の税率がある消費税に対応した請求書のことで、インボイスが発行された取引については、消費税の仕入税額控除が適用される。インボイスを発行するには「適格請求書発行事業者」に登録する必要があり、この登録ができるのは消費税の課税事業者のみ。1年間の売上(事業収入)が1000万円未満の事業者については消費税の納付が免除されるが、適格請求書発行事業者に登録すると、売上が1000万円未満でも消費税を納付しなくてはならない。 

 

 つまり、売上が1000万円未満の事業者はインボイス登録をせず免税事業者のままでいることで、売上の消費税分を“益税”として得ることができるため、インボイス登録をしないことのメリットが大きい。一方で、取引先にとっては免税事業者との取引は仕入税額控除の対象とならないため、免税事業者よりも課税事業者と取引をしたほうが、納税額が減るというメリットがある。そのため、免税納税者のままだと“取引先から仕事をもらえないかもしれない”というリスクがあり、売上1000万円未満でもインボイス登録をして、消費税を納付する事業者も少なくないのだ。 

 

 また今回のインボイス制度導入にあたって、免税事業者からインボイス発行事業者となり、消費税を納税することになった事業者に対しては、「2割特例」という負担軽減措置がある。この特例は、仕入税額の計算の必要はなく、売上にかかる消費税額の2割を納付するというものだ。令和5年(2023年)の消費税申告においては、インボイス制度が始まった10月から12月の売上にかかる消費税に対して適用される。 

 

 

 そうしたなか、一旦は「2割特例」の適用を受けて消費税を納付したにも関わらず、後に適用外ということが発覚し、消費税を追加で納付することになったという人がいる。 

 

 都内に住むフリー編集者のAさん(40代女性)は、昨年インボイス発行事業者に登録し、今年の確定申告で初めて消費税の申告を行った。 

 

「毎年、税務署で相談員の方に教えてもらいながら確定申告をしています。令和5年の売上は約870万円でした。消費税の申告は初めてでまったくわからない状態だったんですが、相談員の指示通り、2割特例が適用されて令和5年の10月から12月の売上に対する消費税を4万円ほど納付しました」(Aさん・以下同) 

 

 しかしその後、Aさんのもとに税務署から連絡があり、2割特例の対象外だったことが発覚。差額の消費税を追加で納付することとなった。 

 

「実は令和3年に売上が初めて1000万円を超えていたんです。その時点で令和5年は1年通して“課税事業者”になっていたということ。それまで売上が1000万円を超えたことがなく、消費税を納税したこともなかったので、“インボイス登録して初めて課税事業者になった”と思っていたんですが、そういう話ではなかったようで……」 

 

 個人事業者の場合、申告する年の前々年の事業年度を「基準期間」とし、その基準期間で売上が1000万円を超えていた場合、インボイス登録に関係なく課税事業者となる。基準期間の売上が1000万円を超えていた場合、インボイスの2割特例は適用されない。 

 

 つまりAさんの場合、基準期間である令和3年の売上が1000万円を超えていたため、令和5年は課税事業者となり、インボイスに登録しているか否かにかかわらず、令和5年分は消費税を納付しなければならなかったのだ。 

 

「初めて課税事業者になったタイミングとインボイス登録のタイミングが重なってしまっていたということです。今思えば、確定申告に行ったとき、税務署の相談員の方から、基準期間の売上が1000万円を超えているかどうか質問されたような気もします。でも、これまで消費税を申告したこともなかったので、基準期間のことをしっかり理解していなくて、ちゃんと答えられられなかったんだと思います」 

 

 

 後日、修正後の消費税の申告書が自宅に郵送され、追加で40万円弱の消費税を納付することになったAさん。売上にかかる消費税額から業種に応じたみなし仕入率をかけた金額を差し引いた額を納税する「簡易課税方式」を適用して消費税額を計算した。フリー編集者の場合、みなし仕入率が50%となる「第5種事業」に区分される。簡易課税方式を適用するには、事前の届け出が必要だ。 

 

「あとから思い出したんですが、私は簡易課税方式を選択する届け出を出していたんです。税務署から簡易課税方式についての届出書が自宅に届いて、知人のフリーライターにどうすればいいかを聞いて、言われるがままに記入して返送した記憶があります。 

 

 それは売上が1000万円を超えて、令和5年に課税事業者になるからその届出書が届いたということなんですよね。このあたりの制度もしっかり理解しておかないと、いろいろと面倒な手続きが増えてしまうことを痛感しました」 

 

 4万円で済むと思った消費税納税が、追加で40万円も払うことになったAさんだが、この制度の複雑さに困惑するばかりだ。 

 

「追徴課税や利子を取られたわけではないし、間違って申告していた私が悪いので、合計44万円を納付するのは仕方ないとは思います。でも、この制度でミスすることなく申告するのは大変だと実感しました。来年の確定申告では間違えないようにしたいとは思っているものの、まったく自信はありません」 

 

 インボイス制度開始の裏側では、Aさんのように修正申告が必要になったケースや、初めての消費税申告に手間取る個人事業者も少なくないだろう。かつ、そういった事例が税務署への負担になることも容易に想像できる。導入から紛糾の声が続出したインボイス制度だが、まだまだ混乱は続きそうだ。(了) 

 

 

 
 

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