( 178355 )  2024/06/07 16:14:48  
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再構築協議会であり方協議が始まった芸備線の列車(画像:高田泰) 

 

 岡山県と広島県の山間部を結ぶ芸備線の再構築協議会が進むなか、JR西日本が地元の神経を“逆なで”する発言を繰り返している。沿線地方自治体とJR西日本の溝は広がる一方だ。 

 

【画像】えっ…! これがJR西日本の「年収」です(計17枚) 

 

「利用実態に応じた持続可能な交通体系を相談したい」 

 

鳥取県米子市で5月下旬に開かれたJR西日本山陰支社の記者会見。佐伯祥一支社長が中国山地を通って島根県と広島県を結ぶ木次(きすき)線について、出雲横田駅(島根県奥出雲町)から芸備線と接続する備後落合駅(広島県庄原市)まで29.6kmのあり方協議を始めたい意向を示した。 

 

 岡山県と広島県の山間部を結ぶ芸備線は、備中神代(岡山県新見市)~備後庄原(庄原市)間68.5kmのあり方協議が3月から国の再構築協議会で始まったばかり。記者会見当日の午前中に沿線自治体の担当課長級に連絡を入れる唐突な発表に、地元は驚きと反発を隠さなかった。 

 

 だが、地元の神経を逆なでする発言はこれだけでない。山陰支社記者会見の1週間前、岡山支社の浅井昌容副支社長は岡山市で開かれた芸備線再構築協議会の幹事会で 

 

「設備投資を単独で行うことは困難」 

 

と主張した。JR西日本の決算が黒字に回復していることを挙げ、芸備線への予算投入を求める沿線自治体の意向に反論した格好だ。 

 

 さらに山陰支社の記者会見から6日後には、広岡研二広島支社長が大雨被害で全線運休が続く山口県の美祢(みね)線46kmについて、山口県山陽小野田市で開かれた美祢線利用促進協議会で 

 

「復旧や再開後の運行をJR西日本単独で行うのは難しい」 

 

と述べた。鉄道に限らない公共交通のあり方を議論する部会の設置も提案している。 

 

 美祢線は中国山地を越え、山口県内を南北に貫く路線。中国山地では2003(平成25)年に広島県を走る可部線の大部分、2018年に島根県と広島県を結ぶ三江(さんこう)線が廃止されている。JR西日本が芸備線に続き、木次線、美祢線のあり方協議に言及したことで、中国山地を走るローカル線の危機が一気に高まった。 

 

 

将来を不安視する声が出ている福塩線の列車(画像:高田泰) 

 

 3路線のうち、JR西日本があり方協議に言及した区間の2022年度輸送密度(1km当たりの1日平均輸送人員)は、 

 

・芸備線:20~89人 

・木次線:54人 

・美祢線:377人 

 

である。特に芸備線と木次線は沿線の急激な人口減少からJR西日本管内で一、二を争う閑散路線になった。運行本数が1日3~6往復と極めて少ないこともあり、住民の日常利用も限定的だ。 

 

 JR西日本はこれら路線に対し、「大量輸送という鉄道の特性が発揮できなくなっている」と度々主張してきた。沿線自治体は 

 

「線区を輸送密度で判断し、暗に廃止を迫っている」(広島県の自治体関係者) 

 

と受け止めている。 

 

 中国山地では芸備、木次の両線に加え、広島県の福塩(ふくえん)線、鳥取県と岡山県を結ぶ因美線、兵庫県から内陸を通って岡山県に入る姫新(きしん)線に輸送密度200人未満の区間がある。広島県の湯崎英彦知事が5月末の記者会見で 

 

「次々に尻尾を切っていく話につながるのでないか」 

 

と述べたように、“廃線ドミノ”が起きることへの不安は高まる一方だ。 

 

 沿線自治体は利用者が激減した区間であっても、鉄道ネットワーク網の一部と位置づけてきた。JR西日本には公共交通としての対応を求め、大都市圏や新幹線で得た利益でローカル線を維持するよう求めている。それだけに、地元の神経を逆なでする発言の連続に 

 

「公共交通の立場を忘れている」(広島県の自治体関係者) 

 

と指摘する声もある。 

 

 これに対し、JR西日本は「大量輸送の特性を発揮できないことについて、機会があるたびに当社の見解を主張しているだけ」とし、公共交通事業者としての立場を守っていることを強調した。 

 

 旧国鉄末期には輸送密度4000人未満の路線がバスや第三セクター転換の対象となった。JR西日本OBのひとりは 

 

「旧国鉄時代なら廃止して当たり前の輸送密度になっても運行を継続しているのは、公共交通の担い手を意識しているからだ」 

 

と反論する。 

 

 

輸送密度200人未満の区間を抱える姫新線の列車(画像:高田泰) 

 

 JR西日本は2004(平成16)年、国が所有する株式が売却され、完全民営化した。株主には金融機関や外国法人、証券会社などが名を連ねる。公共部門が保有する株式は3月末現在で構成比0.00%の100株にすぎない。 

 

 広島支社の奥井明彦副支社長は芸備線再構築協議会幹事会終了後の記者会見で芸備線への設備投資に関して 

 

「民間企業なので、株主らへの説明という点で、今の利用実態を考えると難しい」 

 

と説明するなど、さまざまな会合で 

 

・民間企業 

・株主利益 

 

という言葉がJR西日本関係者の口から出るようになった。 

 

 完全民営化から20年が経過し、沿線自治体の間でJR西日本の意識の変化を指摘する声が上がっている。島根県の丸山達也知事は6月4日の記者会見で木次線のあり方協議提案に対し 

 

「この時期に表明したのは会社としてメリットがあるから。普通に考えると(6月19日開催予定の)株主総会が控えているからでは」 

 

と皮肉っぽく語った。 

 

 地場百貨店・天満屋社長の経歴を持つ岡山県の伊原木隆太知事は5月下旬の記者会見でJR西日本が芸備線への設備投資を困難とする考えを示したことについて 

 

「国営組織と株式会社は当然、目的が違う。株式会社を経営していた私からすると、JR西日本がそういう発想をすること自体は理解できるが、自治体としては了解できない」 

 

と述べた。ローカル線をあくまで公共交通ととらえ、存廃を輸送密度で判断すべきでないとする沿線自治体と、民間企業の立ち位置から路線のあるべき姿を問うJR西日本の意識は、大きくかい離している。この溝はそう簡単に埋まりそうもない。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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