( 178415 )  2024/06/07 17:21:05  
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トヨタの豊田会長は「不正の撲滅は無理。間違いが起きたときに立ち止まり、すぐ直すことが大事だ」と語った(撮影:尾形文繁) 

 

 「『ブルータス、おまえもか』という気持ちだ」 

 

 6月3日、トヨタ自動車、ホンダ、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機の5社は新車の認証試験で不正が確認されたと発表した。 

 

【写真】国土交通省が公表した調査報告の結果 

 

 日本の自動車業界では2010年代半ばに燃費不正が発覚、同年代後半には完成車検査の不正問題も起きた。そうした中、これまで不正と無縁だったトヨタとホンダも例外ではなかった。 

 

 そもそも今回、各社で不正が発覚したのは、日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機などトヨタグループでの連続不正がきっかけだ。国土交通省が1月に内部調査を命じていた。 

 

 トヨタでは計7車種で、歩行者保護試験における虚偽のデータ提出や衝突試験における試験車両の不正加工など安全性に直結する項目での不正が確認された。 

 

 グループのコンプライアンス体制の立て直し策を発表した1月30日の説明会で、トヨタの豊田章男会長は「私が知る限り、これ以上は(不正は)ない」と話していた。それだけに3日の会見で、トヨタでの不正を知ったときの気持ちを問われて語った冒頭の言葉には実感がこもっていた。 

 

■順法性の観点が欠けていた 

 

 「順法性の観点が欠けていた起こりえない体制ができていると思っていたが、」。そう口にしたのはホンダの三部敏宏社長だ。 

 

 ホンダでは、開発と認証の部門を分けることで組織での牽制機能が働く仕組みを導入しており、認証不正は“起きないはず”だった。だが、最長15年分のデータを調査したところ不正が発覚。騒音試験や原動機車載出力試験で、試験成績書への虚偽の数値記載や、試験条件の逸脱があったという。対象車種は販売した22車種325万台に及ぶ。 

 

 マツダでは計5車種で、出力試験におけるエンジン制御ソフトの書き換えや衝突試験における試験車両の不正加工が判明。スズキでは1車種で制動装置試験の虚偽記載が、ヤマ発では2輪の不正行為があった。 

 

 認証試験は、自動車の量産に必要な「型式指定」を取得する前提となるもの。各社は自社で再試験した結果、乗り続けても安全性に問題はないとしているものの、トヨタは「ヤリスクロス」など3車種、マツダは「MAZDA2」など2車種の生産を停止した。また、トヨタは全ての調査をまだ完了していないという。 

 

 

■現場の負担、認証制度の軽視 

 

 会見を開いたトヨタ、ホンダ、マツダの説明から見えてきたのは現場の負担増や認証制度の軽視だ。 

 

 トヨタの豊田会長は「原因は1つではない」としたうえで、「最終試験で問題が発覚しても短い納期でやり直す。そこで負担が発生したのでは」と認証部門へのシワ寄せが発生していたとの見方を示す。カスタマーファースト推進本部・宮本眞志本部長は「認証という意識が少し薄かったというのは否めない」と話す。 

 

 ホンダも現場における制度への認識が足りていなかったといい、三部社長は「再テストをできるだけやりたくないという思いがあったと思う。完全に順法意識が逸脱欠如していた」と釈明する。マツダの毛籠勝弘社長は「業務手順で足りない部分があり、それを現場の判断で補う仕事をさせてしまった」と話す。 

 

 グループの責任者としての役割を果たすとしている豊田会長を含めて、会見を開いた3社は経営責任について具体的な言及はなかった。ホンダの三部社長は「(不正が)現在起きておらず、経営陣の責任は考えていない」、マツダの毛籠社長は「現時点で言及するのは時期尚早だ」と言うにとどめた。 

 

 ある自動車メーカー幹部は「結局、一部の会社ではなく、全部の会社が不正をやっていたということだ」とため息をつく。あるトヨタ元幹部は「当然出ると思っていた。隠し切れるものでもない」と話す。 

 

■制度の見直しに取り組む必要性 

 

 国交省は6月4日、道路運送車両法に基づきトヨタ本社に立ち入り検査に入った。関係者への聴取や書類の解析を通じて、不正の経緯や原因、悪質性を調査する。トヨタやマツダでは生産中の車両で不正が確認されており、結果によっては型式指定の取り消しなど重い処分が下る可能性もある。 

 

 国交省はダイハツに対し是正命令を発出、3車種の型式指定を取り消したことで生産できない状況になり販売店や部品メーカーに影響が出た。国交省幹部は「まだ何も言えない。実際に調査をしてからだ」と話す。 

 

 今回発覚した不正の中には認証制度より厳しい条件で試験を行っていたものも含まれている。だが、認証制度は日本の自動車が安全であると証明する根底のルール。それを勝手に破ることは許されない。必要なら業界を挙げて制度の見直しに取り組むのが筋だ。安全性や高品質を強みとしてきた日本車ブランドそのもののあり方が問われている。 

 

横山 隼也 :東洋経済 記者/秦 卓弥 :東洋経済 記者/村松 魁理 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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