( 178710 )  2024/06/08 16:28:10  
00

いきなり!ステーキと対照的なやっぱりステーキ 

 

 沖縄発祥のステーキチェーン「やっぱりステーキ」が存在感を増している。2015年に那覇市で1号店をオープンしてから店舗数を増やし続け、現在では北海道から九州まで約90店舗を展開する。コロナ禍真っ只中の2020年6月に東京進出を果たした際にはメディアで取り上げられ、大きく話題になったことも記憶に新しい。 

 

【画像】こんなにコスパがいいの!? 名物の「やっぱりステーキ」、お得なランチセット、赤身ステーキなど(全8枚) 

 

 やっぱりステーキが規模を拡大したのは、同業態「いきなり!ステーキ」が縮小した時期と重なっており、今回は競合の凋落をよそに拡大した理由を分析していく。 

 

 やっぱりステーキの店内自体は、いきなり!ステーキとどこか似ている。テーブル席とカウンター席があるが、ゆっくりと食事するステーキハウスというよりは、高回転率で運営する店舗の印象だ。 

 

 注文方式は、食券機またはタブレットを採用している。メニューはステーキ類がメインであり、看板商品の「やっぱりステーキ」(ミスジステーキ)は120グラムで1390円、180グラムで1980円だ。 

 

 他にも「チキンステーキ」や「赤身ステーキ」「ヒレステーキ」などがあり、選択できるグラム数はメニューによって異なる。各メニューともサラダ・スープ・ご飯の食べ放題が含まれているため、1500円ほどで満腹感を得られるのが特徴だろう。開業当初のコンセプトも「1000円でお腹いっぱい、毎日でも食べられる沖縄ステーキ食堂」だった。 

 

 肉類を追加したい客向けには“替え肉”を提供する。100グラム前後の肉を追加できるおかわりシステムであり、やっぱりステーキの替え肉であれば90グラム850円、ロースステーキ替え肉は100グラムで800円だ。替え肉は最初に注文した料理に関係なく注文できる。例えば、やっぱりステーキにチキンステーキの替え肉も付けられる。複数の肉を楽しみたい客にはうってつけのシステムといえる。 

 

 やっぱりステーキは、那覇市に本社を置くディーズプランニングが運営する。同社は個人経営の沖縄そば店として2013年に開業し、2015年2月にやっぱりステーキの1号店を開店した。当時はいきなり!ステーキが知名度と店舗数を伸ばしていた時期だが、同チェーンが沖縄に進出したのは4月であり、開業はやっぱりステーキの方が2カ月早い。 

 

 現在はいきなり!ステーキが沖縄から撤退している一方、やっぱりステーキは2023年12月時点で24店舗を展開する。店名の由来について、創業者は「沖縄の締めはやっぱりステーキ」という文化に由来すると語っているが、いきなり!ステーキのスタイルに着想を得ている可能性は多分にあるだろう。 

 

 2016年に現社名で法人化した後、2017年にはフランチャイズ(FC)1号店として石垣店をオープン、また、県外初の店舗を大分に構えた。2018年には北海道・宮城・岐阜・福岡・鹿児島、2019年には静岡・愛知・大阪・三重・山口に進出。そしてコロナ禍の2020年6月に、吉祥寺で都内1号店を開店した。 

 

 以前からメディアで取り上げられていたが、吉祥寺店のオープンは特に注目され、全国的な知名度も大きく向上した。メディアへの露出により、仙台など一部店舗の売り上げは倍になったという。店舗数の推移を見ると、都内進出時点で51店舗だったのが、2021年8月に75店舗となり、2022年10月時点では90店舗まで成長した。その後は横ばいに推移しており、非上場のため正確な数字は公表していないが、半数以上がFC店のようだ。 

 

 

 やっぱりステーキが拡大したのは、いきなり!ステーキが規模を縮小した時期に重なる。いきなり!ステーキの店舗数は、2019年12月期末時点で490だったが、系列店同士のカニバリゼーションやコロナ禍の影響により、2020年12月期には300店舗を下回るほどに縮小。現時点では、ピーク時の半分程度しかない。こうした状況でやっぱりステーキが伸びた背景にはメディア露出の影響もあるが、やはり「安さ」が主な理由といえよう。 

 

 いきなり!ステーキでは、ステーキのランチセットを1500~2000円程度で提供しているが、通常の単品メニューにライスなどを付ければ、客単価は2000円を超える。一方のやっぱりステーキは、前述の通りセットで2000円以内に抑えられる。実際の客単価は1500円前後と見られる。 

 

 やっぱりステーキの、ご飯やスープ、サラダの食べ放題は、特に男性客を取り込んだと考えられる。同社の成功例にならったのか、店舗によってご飯の大盛り無料や1回おかわり無料のサービスを提供していたいきなり!ステーキも、最近では何回でもお替りを無料とするサービスを提供し始めている。 

 

 やっぱりステーキが安さを実現できる背景には、徹底した効率化がある。 

 

 肉が冷めにくい溶岩プレート上で焼き、一律レアで提供しているのは特徴といえるだろう。焼き加減の調節は客が自分のプレートで行うため、職人を配置する必要もない。対するいきなり!ステーキでは、レア・ミディアム・ウェルダンというように焼き加減の調節を受け付けているため、シェフは一定の熟練度が求められる。その他、やっぱりステーキでは食券機やタブレットの導入により、省人化を進めている。人件費率は通常の飲食店より10ポイントほど低く、20%を下回るという。 

 

 居抜き物件の活用も、経費削減をもたらしている。同社ではコロナ禍で閉店した飲食店や居酒屋などの旧店舗を活用。市街地では大通りから外れた道沿いに出店することもあり、家賃比率を下げているという。業界平均は7~10%とされるが、やっぱりステーキでは5%を下回る。一方、外食産業が活況を呈するアフターコロナでは居抜き物件の活用が難しくなっているのか、ここ1年の店舗数は横ばいで推移している。 

 

 

 やっぱりステーキと似た業態として、焼肉チェーンなどを運営するあみやき亭が近年注力している「感動の肉と米」が店舗数を増やしている。ご飯食べ放題が付いたステーキセットを1000円台で提供しているのが特徴で、中部や関東に32店舗を展開する。いきなり!ステーキおよびやっぱりステーキと同様に、高回転率で運営する業態である。現在はロードサイドがメインだが、都内では北千住と新橋の“駅チカ”に店を構え、都心進出の動きもみられる。あみやき亭は今期、同業態の出店を強化する方針だ。 

 

 以前の記事『いきなり!ステーキが、名物「オーダーカット」を廃止していた! ピークから5年、経営再建の現在を探る』でも述べたように、いきなり!ステーキが縮小した背景には消費者の間でそもそもステーキ店の利用需要が低いことが関係している。 

 

 月1回以上の頻度でステーキ店を利用するのは、消費者全体の1割しかいないという調査データもある。しかし、客単価を2000円以下に抑えられれば、男性客を中心に需要を創出できる可能性もある。物価高で1000円超えのラーメンも見られるようになった現在、1000円台メニューの割高感が低くなっているのも追い風だ。いきなり!ステーキの退店によって生じた空白を埋める形で今後、やっぱりステーキのような1000円台のステーキ業態が増えていくのかもしれない。 

 

経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

IMAGE