( 179305 )  2024/06/10 15:57:08  
00

ケンタッキーはクリスマスに食べるイメージからの脱却を進めている(記者撮影) 

 

 国内で「ケンタッキーフライドチキン」を展開する日本KFCホールディングス(日本KFC)。現在、同社に対し、アメリカ投資ファンドのカーライルがTOB(株式公開買い付け)を実施している。カーライルは三菱商事などが保有する日本KFCの株式も取得し、完全子会社化する予定だ。 

 

【図表で見る】意外にもケンタッキー店舗はあまり増えていない? 

 

 日本KFCはアメリカでKFCを展開するヤム・ブランズと契約を締結し、日本での直営店運営やフランチャイズ加盟企業へのサブライセンス権の発行を行っている。カーライルによる買収後も事業は継続する。 

 

 会社側はカーライル傘下で出店強化やメニューの拡充、デジタル投資などを進めるとしているが、具体的な方策は明らかにしていない。どんな取り組みを進めようとしているのか。 

 

■「クリスマス需要」からの脱却も 

 

 足元の日本KFCの業績は好調だ。2024年3月期は売上高1106億円(前年比10%増)、営業利益58億円(同61%増)と増収増益だった。原材料高騰の対応で値上げを実施し、採算が向上した。コロナ禍でテイクアウト需要を取り込んだ2021年3月期の営業利益63億円(過去最高)に迫る勢いだ。 

 

 近年の日本KFCは、CM等で訴求してきた「クリスマスに食べる」イメージから脱却し、普段使いされるブランドへの転換を目指している。2022年10月にはそれまで「サンド」だった商品名をわかりやすく「バーガー」に変更。既存店売上高はその後18カ月連続で前年同月比を上回り続けた。 

 

 そんな中、一段の成長に向けた課題も見えている。 

 

 一つが規模拡大だ。店舗数は2024年3月期末で1232店だが、この10年間で77店舗しか増やせていない。また、度重なる値上げの影響で、足元では集客の勢いに陰りも見えつつある。こうした課題に、カーライルとともに挑むことになる。 

 

 カーライルはどのようにKFCを変革させていくのか。日本国内でさまざまな企業に投資してきた同社だが、外食企業で参考になるのは、居酒屋チェーン「はなの舞」「さかなや道場」などを運営するチムニーだろう。 

 

 チムニーは2009年にカーライルの支援を受け、経営陣による買収(MBO)を実施した。その後、人材育成や新規事業の立ち上げが十分に進展したとして2012年に再上場している。 

 

 「カーライルとのMBOはよいものだった」。チムニーのある幹部は当時を振り返る。MBO後、カーライル側は取締役会などに出席するものの、経営に頻繁に口をはさむことはなかった。 

 

 

 だが、カーライルが明確に指摘した点もある。それが飲食チェーンとしての基本を徹底することだった。 

 

■会計も管理も、基本を徹底 

 

 一つは会計時の誤差をなくすことだった。居酒屋業態ではテーブルで決済を行う場合が多い。そこで現金の受け渡しや、クレジットカードによる支払いの際に、金額に誤差が生まれることがある。 

 

 指摘を受け、チムニーはミスが発生する場所を特定し、そのときのスタッフの人数など店舗内の状況を把握。再発防止の体制を作っていった。 

 

 もう一つは、食材や在庫の管理を徹底すること。飲食店を運営する以上、食材のロスをゼロにすることは難しい。しかし、各店舗でロスが積み重なれば、全体で損失の額は膨れあがってしまう。 

 

 実際、当時の管理体制はそれほど厳しくなかった。そこで、店舗の売り上げに応じたロスの水準を守るように徹底するなど、在庫管理を徹底していった。 

 

 また、チムニーにとって大きかったのは、カーライルによる出店のサポートだった。「飲食チェーンが持つ物件情報と比べると、カーライルの情報は質と量ともに段違いだった」と前出の幹部は話す。 

 

 カーライルは以前に営業していたテナントの設備が残る「居抜き物件」の情報を早期に入手。営業中のテナントの退店を把握しているケースもあったという。チムニーはそうした情報を基に出店を進めていった。 

 

 カーライルの下で、チムニーは調理技術の向上を目的とした社内大学の設置、執行役員制の導入、漁業への進出、給食事業の受託、新業態の開発などさまざまな改革を実行し、短期間で再上場を果たしたのだった。 

 

■三菱商事出身の役員は退任へ 

 

 日本KFCにとって規模拡大は最も重要な課題だ。前述のように2024年3月末の店舗数は1232店。業界トップ・マクドナルド(同3月末2978店舗)との差は大きく、まだ拡大余地があるといえる。 

 

 チムニーのように、カーライルの物件情報などのノウハウを活用できれば、大幅に出店ペースを加速できる可能性もありそうだ。 

 

 今回の一連の取引が完了すれば経営陣も大きく変わる。判治孝之社長をはじめ、三菱商事出身の幹部は退任する見込みだ。また、鶏肉などの食材も三菱商事の子会社などから仕入れを行っていた。調達経路が変更となる可能性もある。 

 

 資本、経営、調達など、さまざまな転換期を迎えつつある日本KFC。カーライルと共に課題をクリアし、拡大路線を進むことができるのか。成長の本番はこれからだ。 

 

金子 弘樹 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

IMAGE