( 179315 ) 2024/06/10 16:10:23 0 00 日傘は女性が使うもの。そんな価値観は過去のものになりつつある(写真はイメージです) Photo:PIXTA
ここ数年、夏が近づくたびに話題になる「メンズ日傘」。日傘の下では体感温度が5度違うとも言われ、紫外線を避ける意味からも推奨されるものの、年長者ほど「女性が使うもの」という意識が強いのも事実である。今年こそメンズ日傘は市民権を得るのか。中年男性の本音に迫る。(フリーライター 武藤弘樹)
● 徐々に浸透が進む「メンズ日傘」 いつの間にか肯定派が9割に
これまではなんとなく女性的な持ち物だと認識されてきた日傘だったが、最近は男性向けの「メンズ日傘」なるものが登場して、これに対する社会的関心が年々増してきているようである。
メンズリゼが10~40代の男性を対象に行った2024年のアンケートによれば、「男性の日傘を使用」について「肯定的」と答えた人がなんと92.2%にのぼった。
また、同じアンケートでは「肯定的」が2022年は79.7%、2023年は83.0%で、ここ数年でも増加傾向にあるのがわかる。他に「すでに日傘を利用している人」や「日傘の利用を前向きに検討している人」の割合についても同様の傾向となった。メンズ日傘が世の中の男性に受け入れられつつある様子が見て取れる。
【参考】 PR TIMES 「メンズ日傘」男性9割以上 “肯定的” 2年で12.5%増 医療法人社団風林会 リゼクリニック https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000095.000020081.html
なお、「使用してみたい」が7.5%、「前向きに検討中」が56.0%、そして「すでに使用している」は13.5%、「使用しない」は23.0%である。実際に使用している人の割合は多くなく、また一定数の男性が、他人の日傘の利用には肯定的でありながらも自分では「使用しない」と回答している点にも注目したい。
さて、本稿ではメンズ日傘への男性の思いを分析しつつ、世代の中でもとりわけ同アイテムに抵抗を覚えそうな中年男性以降の本音を紹介していきたい。
● メンズ日傘を敬遠する人たち 本音の裏にあるもう一つの本音
現在メンズ日傘への認知や許容が少しずつ進んでいる背景には、「毎年猛暑日を更新していく酷暑」や「ジェンダーに基づいて慣習となってきた決めつけ(『○○は男っぽい・女っぽい』など)を薄めていこうという考え方」などがあり、後者と関連して「美容ケアに関心を持つ男性の増加」などがある。
近年の日本の美容トレンドに多大な影響をもたらしているのはお隣の韓国で、昭和生まれの現在40代の筆者は「雄々しさこそ漢の生き様・格好良さよ……」という価値観の中で育ったから、K-POPをはじめとする最近の男性アイドルのツルッとした感じを見ているとむずむずしてくるのだが、K-POPといえば今や世界的に人気を誇るポップカルチャーであり、妻はどこかから仕入れてきたK-POPを盛んに聞いているし、ついには娘(6歳)まで韓国発で本国では大ヒットしている『キャッチ!ティニピン』という、プリキュアシリーズと『カードキャプターさくら』を混ぜたようなアニメにどっぷりハマっているような状況。
家でも外でも韓流推しというなら、もはや昭和の残骸のごとき筆者は黙ってそれを受け入れるしかなく、差し当たっては毎日娘とティニピンごっこに興じている按配である。
その韓国では、さすが日本に先駆けてというべきか、男性の日傘需要が一足先に高まっていたようで、2019年の以下のような記事を見つけることができた。それによると、あるデパートでは男性用日傘の売り上げが前年同期の20%増だったそうである。
【参考】 「韓国にも日傘男子?」(聯合ニュース) https://jp.yna.co.kr/view/PYH20190618130400882
冒頭に書いたことの繰り返しになるが、日傘はどうしても今まで女性用アイテムとして認識されてきたので、従来の価値観の影響を強く受けているであろう年長者ほど抵抗は強くなるはずである。実は筆者も“メンズ日傘”という響きに抵抗を感じている1人であった。
しかし、筆者を含む世の男性は他人の趣向や考え方に寛容である、あるいは寛容であろうと努めているためか(家庭内では幼児性を露呈する男性でも家の外では成熟した思慮深さを見せるケースを含む)、「メンズ日傘に92.2%が肯定」という結果が出たように見える。
この92.2%の肯定はもちろん本音なのだが、ちょっと“よそ行き”然とした本音でもあり、たとえばアルコールが入った人に突っ込んで聞けば、こんな話を聞くことができた。
「情けない。男はいつからこんなになよなよしてしまったのか。こんなことを言う自分は若い人にとって老害だろうから平素は胸の奥にしまっているが、そう思っているのも事実。他人はいざ知らず、いくら夏の暑さがつらかろうが、自分は日傘は御免こうむる」(50代男性)
メンズ日傘を理解しようとしているのも本音だし、メンズ日傘をちょっと嫌だなと思っているのも本音である。この2つの相反する本音から、理知的であろうとしている人間の葛藤が現れている。
● 「手に何かを持つのがイヤ」 「夏特有の充実感が失われる」
酒の席でまかれていたクダをここに紹介しただけで、これに正当性があるなどと主張するつもりはない。しかしこうした独善的な感想でも、ある程度の年齢の人にはいくらか共感できる部分があるかもしれない。
また、「日傘=女性っぽい」というイメージとはまったく別の理由でメンズ日傘を敬遠している人もいる。仕事で外を歩くことが多い男性の談話である。
「去年の夏はたしかに命の危険を感じる暑さだった。今年もあれならメンズ日傘に検討の余地はなくはないが、傘を持つ煩わしさを考えるとちょっとためらわれる。手に何かを持つのが好きではないので。
それに、汗だくになったあとにカフェで飲むアイスコーヒーや、就業後のビールが極上にうまかったりするわけで、そうした夏特有の充実感が日傘の導入によって失われてしまうのはさみしい」(40代男性)
新しい風習を目の前にして、失われるかもしれない風習に思いを馳せ――。これも人の自然な反応であろう。
● 中年男性に特有? 「必死さが漂う美容」
一方、メンズ日傘の携帯を試みる中年男性たちもいる。
日傘は美容に関連するグッズだが、使用の際、女性や若い男性が「美しく・カッコよくありたい」と願うのに対して、中年男性の場合はもっと切迫した「美容」が動機となりうる。
自称“清潔感”に定評があるアラフィフ男性の話である。
「中年以降は、よく言われるように清潔感が重要。周りに不快感を与えず、よくすれば好感を持ってもらうことができる。
日頃“美容に気を使っている”という姿勢をある程度周りに見せておくのも手。美容面で何かミスをしていても『あの人は日頃努力をしているし』と大目に見てもらえる可能性が高くなる。
そのやり方も、人前で脇にスプレーを振るような下品なやり方はダメで、スマートでなくてはいけない。その意味で、『メンズ日傘を携えている』は理想的で、控えめな美容アピールとなる。汗を少し抑制するだけでも体臭予防となる。今年からはメンズ日傘を持って我が清潔感を盤石なものとする所存」(50代男性)
また、AGA、いわゆる男性ホルモンが関係して起こる男性型脱毛症を過度に心配しているある男性も、「今年から日傘の波に乗る」としている。
「メンズ日傘関連の記事で、紫外線が薄毛を促進する可能性があるらしい(※筆者注:諸説あり)と知った。もう以前のようにノーガードで頭を紫外線にさらしたくない。すぐにでも日傘がほしい」
美容アピールの男性、AGAが心配な男性、ともに美容目的のメンズ日傘利用だが、中年なりの必死さが伝わってくる。
● メンズ日傘を受け入れる層は? もう「男らしさ」にこだわる必要なし
さて、「メンズ日傘」なる語を飲み下しがたい筆者であったが、メンズ日傘を調べていくうちにやや考えが変わった。先のアンケートになぞらえるなら、使用を決定してもいないがメンズ日傘を拒絶するつもりもないので、56%が回答した「前向きに検討中」に、今は筆者も属している。
その理由としては、まず上記の美容男性2人が挙げた「汗の抑制」と「紫外線から頭をガード」といったメリットが望ましく思えたからである。
それに加えて、先のアンケートなどを見て結構な割合の男性がメンズ日傘に乗り気だということがわかり、「じゃあ自分もそこに加わっていいかも」という安心感が背中を押す。しかし依然として「やっぱり日傘は男性向けのアイテムじゃないんじゃ……」という戸惑いもあった。
そこで、たわむれに「メンズ日傘」で検索してみれば結構色々なデザインが出てきて、なぜかただの傘なのに男性的でカッコよく見えるデザインがあったりして、これなら「雄々しさ」や「男らしさ」に妙にこだわる筆者のごとき人間でも、ちょっと持ってみたいかもという気にさせられたのである。
メンズ日傘についてはまだ認知が進んでいなかったり、認知度の低さに起因する抵抗感によって敬遠されてきたりはしたが、筆者やAGAを心配する既出の男性のように、メンズ日傘を知ることでメンズ日傘を受容する層も出てきている。メンズ日傘は「日傘=女性」の既存イメージとバチバチに対立するかと思いきや、思いのほかすんなり認知が進んでいきそうな気配である。
「今年はメンズ日傘が定番化するのでは」といった強気な見通しもあり、筆者はそこまで言い切る気はないが、昨年よりは街中で多く見かけそうな予感はある。まずは今年の夏の暑さ次第であろうか。成り行きを見守りたい。
武藤弘樹
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