( 179880 ) 2024/06/12 02:15:25 0 00 【お金は知っている】
本欄では、円安のプラス面を活かす政策をとるべきと主張してきた。残念なことに、日本国内では依然として少数派だ。そんな折り、米国のノーベル経済学賞受賞学者、P・クルーグマン教授がごく真っ当なコメントを出した。
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ブルームバーグ電日本語版6月3日付によれば、同教授は円安について、「多少の時差を伴って日本の物品・サービス需要に実際には前向きとなる」「なぜこれほど多くのパニックを引き起こしているように見受けられるのか不可解だ」と指摘した。同発言は「円安悪者」論メディアの影響を殺(そ)ぐ一助にはなると期待したが、馬の耳に念仏に終わりかねない。
日本経済新聞に至っては6月3日付朝刊1面から「円の警告」なる連載を始め、「円安はじわじわと日本を貧しくしている」と断じた。円安によって米国産牛肉の輸入価格が上昇し、学校給食献立メニューから牛肉が消えたとか、最新鋭ステルス戦闘機「F35A」の調達コストが大幅に上がったなど具体的な事例を集め、日本の国力がそがれると論じている。
円安の行き過ぎはできれば避けたい。だが、巨額の投機資金が支配する外国為替市場で、回数、規模が限られる円買い介入で円売りを止めることは難しいのが現実だ。さりとて日銀が金利を連続して大幅に上げれば、デフレ圧力で内需が萎縮する。企業の売り上げや収益を減らし、設備投資や賃金を押し下げる。税収も減り、財政収支は悪化する。為替ではなくデフレこそが国民を貧しくさせ、国力を衰退させてきた。
今、悪い円安論を唱えるエコノミストやメディアは円高とデフレを高進させる増税や緊縮財政を支持した。「国力」を論じるとは厚かましい。逆に円安局面に転じれば緊縮財政に加えて大幅利上げまで求めるのは無定見も甚だしい。
円安は日本国内での生産、雇用や投資を有利にする。それを妨げてきたのが消費税増税など緊縮財政である。2012年12月からのアベノミクスはもっぱら日銀の異次元金融緩和による円高是正効果に頼った。企業収益、雇用情勢は好転し、設備投資も回復に向かったが、持続性に欠けた。財政でブレーキをかけるのに、金融でアクセルを目いっぱい踏み込んだせいだ。
デフレ病を克服できないなか、エネルギー価格が高騰し、円安が急進行するや、円安を止めろと騒ぎ立てる政官財界。そこで、日銀は自身の出番のチャンスとばかりにハイな気分に浸る。昨年4月の植田和男総裁体制発足を機に利上げムードを演出し、今年3月には大規模緩和撤廃に踏み切り、更なる利上げの機をうかがう。
結果はどうか、グラフを見ればよい。市場金利は上がり続け、円安は加速している。家計消費も生産も低迷が続く。小手先の定額減税の効果はおぼつかないのに、財務省は増税、社会保険料の引き上げを画策する。国力を衰退させる元凶は政府、日銀とそのお先棒を担ぐメディアなのである。
(産経新聞特別記者 田村秀男)
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