( 180695 ) 2024/06/14 17:12:35 0 00 会見に臨むトヨタ自動車の豊田章男会長 Photo:Bloomberg via Getty Images
● トヨタ、ホンダ、マツダが謝罪会見 業界に広がる認証不正問題
6月3日、トヨタ自動車・ホンダ・マツダのトップが相次いで“緊急謝罪記者会見”を行った。昨年末に、自動車の量産に必要な認証である「型式指定」でダイハツ工業が不正を行い全車種が出荷停止となったことを受けて、国土交通省が自動車各社に内部調査を求めた。その結果、この3社にスズキ・ヤマハ発動機を加えた5社から「不適切な事案」が報告されたのだ。
3社トップの謝罪会見は、16時にマツダの毛籠勝弘社長、17時にトヨタの豊田章男会長、18時にホンダの三部敏宏社長と順に行われた。3社が急きょ時間調整した結果だろうが、移動時間を考えると全ての会見会場に一人で回るのは難しいものだった。筆者はトヨタの会見に行き、マツダとホンダの会見はZoomからイヤホンで聴くことにした。案の定、3社の謝罪会見は1時間では収まらず、各社がラップしてしまうものとなった。
すでに報じられているように「痛恨の極みで経営としての責任を重く受け止めています」(マツダ・毛籠社長)、「認証制度の根底を揺るがすもので、トヨタグループの責任者として心からおわび申し上げます」(トヨタ・豊田会長)、「過去に販売した四輪車で型式申請時の認証試験に関する不適切事案があったことを確認した。生産を終えた車種ではあるが、認証制度に関わる試験は安心・安全の大前提であり、深くおわび申し上げます」(ホンダ・三部社長)と、それぞれ陳謝した。
今回の社内調査で発覚した現時点での「不適切な事案」は、各社報告によると5社で38車種に上る。その内容を見ると、過去に生産し販売終了した車種と、現行で生産・販売している車種に分かれる。具体的には、ホンダとスズキはすでに終了した車種のみで、現行車種での発覚はなし。トヨタは、「カローラフィールダー」、「カローラアクシオ」「ヤリスクロス」、マツダは「ロードスターRF」、「マツダ2」、ヤマハ発動機は二輪車の「YZF-R1」の現行車種について認証不正が判明し、これらが出荷停止となった。国交省は、道路運送車両法に基づき4日にトヨタへ立ち入り検査を実施したのに続き、対象各社の立ち入り検査にも入った。
「『ブルータス、お前もか』という感じだ」。トヨタの豊田会長は、謝罪会見でふと胸中の本音を吐露した。「ただ、トヨタも完璧な会社ではない」と釈明したものの、これは本来、消費者側が「トヨタ、お前もか」と感じることであり、トヨタグループの総帥がそんな“客観的”な発言でいいのか、と思えてしまう。
ダイハツ・豊田自動織機・日野自動車のグループ3社の不正を受けて、1月末にトヨタグループの総帥として豊田会長が会見を行った際には「トヨタにはこうした不正はない」と言い切っただけに、忸怩(じくじ)たる思いもあるだろう。
だが、この認証不正がトヨタ本体にまで広がったことが、日本車全体の信頼に傷をつけるものになりかねないことは事実だ。自動車は日本経済を支える基幹産業であり、サプライヤーなどの裾野も広いことから、経済への悪影響を懸念する声も上がっている。
実際、トヨタの生産・出荷停止となった車種は、トヨタが東日本大震災を経て重視しているトヨタ自動車東日本の岩手工場(岩手県)と宮城大衡工場(宮城県)で生産されており、地元ではサプライヤーも含む東北経済への影響が大きく報道されている。マツダも本社工場(広島県)と防府工場(山口県)での対象車種生産停止により、中国地区の下請けの不安なども含めた影響が報道されているようだ。
また、ダイハツのケースのように全車種の出荷停止という極端な事態ではないが、販売店サイドから「売れ筋のクルマがなくてどうする」という不満の声も上がっている。生産停止で、部品会社や販売会社など供給網全体に少なからず影響が出ることになる。
2024年3月期の連結業績で営業利益が日本初の5兆円超えとなった国を代表する企業であるトヨタにまで広がった今回の「認証不正」の話題は、やはり最近のネット上でも持ちきりとなっているそうだ。「トヨタもか!」との批判もある一方、「国交省の認証制度が古すぎる」との書き込みも乱立しているようだ。
実際、豊田会長も今回の会見で、「この場で言うべきことではないかも知れないが」と前置きをしながら、「現行の認証制度の中には非常に曖昧で属人的な技能に頼るケースも多い。車がどんどん新しいものに変化し、新しい仕事も付加されている。整理整頓することも(国と)一緒にやっていきたい。議論するきっかけになってほしい」と呼びかけた。
ホンダの三部社長は「悪意や故意ではなく、都合いのいい解釈によるコンプライアンスの認識の甘さがあった」と釈明。マツダの毛籠社長も「法令に則したかどうかを内部で検証できれば未然に防げたが十分でなかった」と述べ、反省しつつチェック体制やガバナンス体制の再整備を進めていくことを強調した。
本来、「世界の自動車品質をリードする日本車」の体制づくりは、官民一体で進めてきたはずだが、ここ10年近く自動車の不正問題が連発している。
16年の三菱自動車の燃費データ改ざんを皮切りに、同年のスズキの燃費不正測定、17年の日産自動車とスバルの完成検査不正、18年にはスバル、日産、スズキ、マツダ、ヤマハ発が排ガス・燃費で不適切検査、22年に日野自が燃費・排ガスの試験不正、23年にダイハツが衝突試験不正、豊田自動織機がエンジン不正と続いた。今回の5社の不正で、トヨタを筆頭に日本車メーカーほぼ全てで不正行為が明るみに出たということになる。
もちろん、品質不正と言っても悪質性の大小はさまざまだし、現場の担当はより高いハードルを自ら課して品質を担保しようとしたケースもあるようだ。だが、法令順守は絶対であり、ルールは守らなければならない。
そもそも、一連の不正につながった型式指定制度とは、1951年に成立した道路運送車両法により定められた自動車の大量生産と安全性を両立するための仕組みで、70年以上続いてきたものだ。型式指定の取得にはエンジンや安全装置など47項目の基準をクリアする必要がある。日本独自の4項目を除く43項目は国連の協定で定められた国際基準である。
そして問題の根底にあるのは、試験の多くがメーカー自ら実施することになっており、“独自解釈”を招く余地があることだ。いわば「企業任せ」の構造があり、これが不正行為などの遠因ともなったといえる。
● 認証制度の見直し議論が 本質的な打開策に
そうなると、「絶対、やってはいけないこと」と悔やんで謝罪したトヨタ・豊田会長が一方で認証制度の改善を訴えたように、これを機に型式指定の認証制度を見直す議論が今後の本質的な打開策につながるといえるだろう。
監督官庁の国交省は、旧運輸省時代から自動車の安全・環境行政を司っており、認証は物流・自動車局の審査・リコール課などが担当している。斉藤鉄夫国交相は5社の認証不正に対し、「自動車ユーザーの信頼を損ない、自動車認証制度の根幹を揺るがす行為であり、極めて遺憾だ」とした一方、「経済への影響を低減する観点からも、出荷を停止する車種が国の基準に適合するかどうかの確認試験を速やかに行う。国民の安全・安心の確保を大前提とするのはもちろんだが経済への影響を最小限に抑える観点からも努める」と述べた。
さらに、「日本の基準は国際的な基準に沿ったものだが、今後は自動車メーカー各社と意思疎通をしながら、認証制度を合理的なものにして適切に運用していく必要がある」ことにも言及した。旧運輸省は許認可行政の最たる役所であり、自動車業界も「お上への意識」が高い。今回の事態が、国交省の「面子」を刺激したものとなったことも確かだろう。
実際、今回のトヨタにまで広がった認証不正の是正を考えるに当たって、もはや自動車メーカー個社の問題だけでなく、自動車業界全体の問題として捉えていかねばならないのではないか。
となると、自動車業界の“総本山”である日本自動車工業会(自工会)が動かなければなるまい。自工会は、豊田章男氏が会長を異例の3期6年務めて、24年1月に片山正則いすゞ自動車会長にその職を譲ったばかり。片山自工会体制が今年からスタートしたが、幸いいすゞだけが一連の不正から外れていることで、リーダーシップを発揮しやすい。
自工会には、事務局トップの副会長専務理事に経産省の自動車課長OBが就く慣例があり、5月23日に松永明元特許庁長官が就任したばかりだ。加えて、事務局次席の常務理事には国交省の自動車局元幹部が就く慣例もあり、昨年4月に江坂行弘元国交省自動車局次長が就任している。今回の事態で日本車全体の信頼問題になり、今後の日本車の国際競争力が問われる流れを是正していくには、自工会と国交省との対話による改善の方向も求められよう。
認証不正での3社のトップ謝罪会見だけでなく、先の日産による下請法違反も、自動車業界の信頼性を揺るがす大問題だ。
自工会副会長でもある日産・内田誠社長は、個社の問題としながら、あえて5月23日の自工会の会見で説明・謝罪の場を設けた。異例とはいえるが、片山体制へ移行する中、自工会も変化をしているのだろう。その後、日産はこの件でも社内調査結果の会見を行っている。
自工会は、下請法違反の件に関して、サプライヤーとの適正取引の実現に向けた業界としての「自主行動計画」とその実効性を高める「徹底プラン」の改訂を発表している。また、今回の「型式指定」に関する不正が相次いで発覚した問題を受け「業界全体で再発防止に全力で取り組むべく、当局からの指導に従い、認証申請における不正問題の解決を徹底的に推進していく」との声明を発表した。
下請法違反でのサプライヤーとの適正取引にしても、型式指定の不正拡大の是正にしても、当然個社のコンプライアンスとガバナンスを確立する必要があるが、一方で業界全体でも変革に取り組む必要がある。EVや自動運転、さらにSDV(ソフトウエア・デファインド・ヴィークル)への開発が加速する時代、改めて官民一体となった制度の改善や将来の在り方の検討を進めていくべきだろう。
(佃モビリティ総研代表・NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫)
佃 義夫
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