( 181480 )  2024/06/17 01:47:45  
00

岸田文雄首相(矢島康弘撮影) 

 

岸田文雄内閣の目玉政策の1つ、定額減税が始まった。会社員の場合、給料やボーナスの手取りが増える。高額所得者を除いて1人あたり4万円(所得税3万円、住民税1万円)、扶養家族の分も合わせて税金が安くなる。歓迎しない人はまずいないだろう。しかし、やり方がまずい。これっきりにすべきだ。 

 

【イラストで解説】「中間所得者にもうれしい」収入で変わる定額減税 

 

政府が一律にお金を配るのと比べると仕組みは複雑だ。最終的に減税は同じ額になるのだが、所得によって6月にドンッと手取りが増える世帯もあれば、減税分が何カ月かに分割される人もいる。さらには給付との組み合わせになるケースも。消費行動に与える影響は世帯によって異なるだろう。 

 

住民税を徴収する地方自治体や所得税を源泉徴収している企業の担当者は、それぞれの納税額、家族構成に応じて処理していかなければならない。子供が生まれるなど扶養家族が増えれば、減税額も変わる。 

 

そもそも税制は「公平・中立・簡素」を旨としている。経済力に応じた公平な負担、経済活動の意思決定をゆがめないような中立性、納税者が理解しやすい簡素な仕組み-が必要だ。今回の定額減税はいずれの条件も満たしていない。 

 

また、産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査(5月18、19日)の結果をみると「評価しない」が56・4%と過半を占めた。減税規模3兆円超という大盤振る舞いにもかかわらず、政権浮揚に結び付くかは見通せない。今のところ、岸田首相の政治勘は疑わしい。 

 

「税は政治」とは、永田町や霞が関で税制を取材していて何度も聞いた言葉だ。毎年末の与党税制調査会による税制改正作業では、重鎮が多様な利害を調整してきた。 

 

自民党税調の幹部に「あの業界の優遇措置をやめて増税するのなら、代わりにこっちの税率を引き下げるんですよね」と聞いたことがある。「税とはそんなもんじゃない。バーター(取引)なんかせんよ」とたしなめられた。しかし、議論が立ち往生しかけたとき「わしゃ、中間がええと思うんじゃ」とひと言。税率の引き下げ幅を半分にして、優遇期間を延ばすことで決着を図った。 

 

そんな風に、党税調は各方面からの陳情を受けて丸く収め支持基盤を固めてきた。半面、日本の税制はつぎはぎだらけのパッチワークのような体系になったとされる。 

 

 

これはよろしくない、と言わんばかりに「公平・中立・簡素」を強く主張してきたのは、首相の諮問機関である政府税制調査会だ。有識者で構成し、中長期的な視点から税制のあるべき姿を示してきた。 

 

ただし、その昔、自民党税調の大物は、政府税調について「軽視しない」と断ったうえで「無視する」と続けたとされる。アメリカ独立戦争のスローガン「代表なくして課税なし」を裏返せば、税制を決めるのは学者ではなく、国民を代表する政治家なのだ。 

 

その総本山である党税調は、時の首相より権威があるともされた。しかし、第一次安倍晋三政権から首相官邸主導の態勢が整うにつれ、影響力は低下。流れを引き継いだ岸田首相が主導して打ち出した定額減税は、政府税調の掲げる理想からも党税調の現実路線からもほど遠い。かといって画期をなすような内容でもない。 

 

にもかかわらず与党内では、来年度以降も定額減税を実施すべきとの声が上がっている。否定的な意見もあるが、調整の末「中間でいこう」などと生ぬるく決着するのは避けるべきだ。国の根幹である税制を軽視したあしき前例を作ることになる。 

 

 

 
 

IMAGE