( 181510 )  2024/06/17 02:20:45  
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授乳する母親と赤ちゃん(写真はイメージ) 

 

 「母乳飲ませる練習しているの?」。思うように母乳が出ない中、夫からそんな言葉をかけられショックを受けた。それでも母乳は出ない―。厚生労働省の調査(2015年度)では、妊娠中に母乳で育てたいと思った人の割合は9割を超えるなど、母乳育児への関心は高い。一方で、8割近くが授乳について「困ったことがある」と回答しており、母乳の量などに関して悩みを抱える母親は少なくない。専門家は「周りが母親の気持ちを否定しないことが大切。自分の気持ちを受け止めてくれる支援先を頼って」と訴える。(デジタル編集部・町香菜美) 

 

授乳で悩んだ経験を語る女性=市川市 

 

 「出産前は産んだら母乳は何とか出るものだと思っていました」。 

 

 長男(5)と次男(1)を育てる市川市の女性(42)はこう振り返った。長男を出産後、入院していた病院で母乳指導を受けた。ただ、長男は乳首がうまくくわえられず、泣いてしまう―の繰り返しで次第に母乳育児がつらくなった。搾乳機を使うことになったが、絞っても10ccほどしか出ず、すぐ次の授乳時間に。初めての育児で手一杯の中での作業に疲労が募り、子どもの夜泣きも重なって睡眠不足にもなった。 

 

 ミルクに抵抗はなかったが、実際に母乳が出ない現実に直面すると劣等感やうしろめたさを感じるようになった。「母乳飲ませる練習しているの?」。そんな中、夫から心ない言葉をかけられ、深く傷ついた。結局、産後1カ月検診で、長男が「少し痩せ気味」と言われたのを機に、ミルク中心に切り替えた。 

 

母乳育児の利点 

 

 母乳育児への関心は高い。厚労省が行った2015年度の乳幼児栄養調査では、生後1カ月で母乳のみで育てる母親は51・3%だが、粉ミルクと併用する「混合」を含むと全体の約9割に上り、妊娠中に「母乳で育てたい」と回答した母親は9割を超えた。 

 

 厚労省の「授乳・離乳の支援ガイド」では母乳育児の利点として、感染症発症の減少などさまざまな点を紹介している。 

 

 一方で「母乳が足りているかどうかわからない」「思うように出ない」との悩みを抱える母親も少なくない。同調査では、77・8%が授乳について「困ったことがある」と回答。具体的には「母乳が足りているかどうかわからない」が40・7%、「母乳が不足気味」が20・4%、「授乳が負担・大変」20・0%の順で多かった。SNS上にも「母乳が出るなら母乳で育ててみたかった」「母乳が出ない自分に自信をなくして号泣してしまった」などと、追い詰められている母親たちの声があふれる。 

 

 市川市の女性も、不安になるとついネットの情報を検索し、誤情報に惑わされたこともあった。「出産後、母乳のことを気軽に相談できる場所がなかった。どうしたら良いのか、どう進めたら良いのか分からなかった」。こうした母親たちの悩みにつけ込むかのように、インターネット上には母乳と称するものを販売しているケースも。千葉県内の自治体ホームページでも、第三者がネットで販売する母乳は感染症や衛生上の危険が伴うとして注意を呼び掛けている。 

 

 

「すず助産院」で母乳育児について話す來田さん=浦安市 

 

 母乳育児を巡るさまざまな課題はどうすれば解消されるのか。 

 

 母乳育児支援の国際資格「国際認定ラクテーション・コンサルタント」を持つ「すず助産院」(浦安市)の來田美鈴院長は、産後の母親たちが「母乳が出にくい」と感じる状況を作り出しているのは「母親自身の問題というより、妊娠中の情報のあり方や母乳育児支援のあり方、退院後のサポート体制などが大きく影響している」と話す。 

 

 退院後も継続的に母乳育児などのサポートを受けられることが理想だが、「今は1カ月検診が終わると、母親はきちんとした方法を教えてもらっていないから荒波に放り出され、溺れているような状態。情報はたくさんあるけれど、それが正しいものじゃないことも多い。本来は妊娠前から正しい情報が得られる環境が必要」と指摘する。 

 

 母乳育児には前提として、子どもには「母乳育児で育つ権利」、母親には「母乳育児をする、したいという権利」があるとし、「ミルクが絶対にだめ、母乳じゃなければならないということではない」と強調。助産院などの支援先が「母乳で育てたいと思う母親の権利を支えることが重要」とする。ただ、こうした支援先でも「こういう人は母乳がでにくい」「これは難しい」などとの言葉をかけられ、母親が傷つけられているケースも少なくないとし、母親側には「思いをきちんと受け止めてくれる助産師などに相談してほしい」と呼び掛ける。 

 

 家族などの母親の周囲の人には「母乳育児がつらいと思うのは自然な感情で、周りがその気持ちを否定しないことが大切。お母さんは120%努力してきたと思うのでその気持ちを受け止めてほしい。母乳育児は1人でやるものではない。最も大切なのは周囲が理解し、気持ちに寄り添いお母さんの意志を尊重すること」と訴える。 

 

※この記事は千葉日報とYahoo!ニュースによる共同連携企画です 

 

 

 
 

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