( 181925 )  2024/06/18 15:45:47  
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 7月7日投開票の次期東京都知事選で、ついに現職の小池百合子都知事が立候補表明した。すでに出馬表明している蓮舫参院議員(立憲民主党を離党)との「女帝対決」は注目度が高く、立候補者も過去最多となる見通しだ。今回、2人を“解剖”した経済アナリストの佐藤健太氏は「都知事選はベストよりも、ベターを選択する戦いになる」と見る。 

 

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「100年先も全ての人が輝く、明るい東京の未来をつくることを大義として、都民の皆様の共感を得て、確かな道筋を紡いできた東京大改革。大胆な構造改革を成し遂げてこそ達することのできる持続可能な社会の力強い歩みを今ここで止めてはなりません」。都議会定例会の最終日を迎えた6月12日、小池都知事は「これからも都民のために、都民とともに、もっともっと都政の発展へと全力を尽くしてまいります」と立候補を宣言した。 

 

 約1400万人を抱える東京都の知事選は、時として国政選挙を上回る注目度になる。各陣営による「情報戦」は苛烈で、新聞・テレビの論調やコメンテーターの見方も公平性が疑わしい時がある。それだけに選挙戦は冷静に見る必要があるだろう。 

 

 それでは、小池氏と蓮舫氏を“解剖”してみたい。まずは「公約」だ。2016年の初当選から都知事を務めてきた小池都知事は「チルドレンファーストの子育て施策をはじめ、これまでのあり方に一石を投じてきた」と実績を強調する。たしかに、小池都政では特定不妊治療助成や卵子凍結支援、私立高校授業料の無償化、都立大授業料の実質無償化など「人」に焦点を当てた先進的な取り組みを展開し、0歳から18歳までの子供に月5000円を支給する「018サポート」や公立学校の給食費負担軽減策などを行ってきた。就任当時、1万人に上る勢いだった待機児童数は足元で300人を下回る。 

 

 事業評価の見直しで計8100億円の財源を確保し、都債の発行抑制によって1人あたりの借金残高を8万円近く減少させたことも評価ポイントだ。ただ、蓮舫氏は「ゼロはどこに行ってしまったのか」と批判している。小池氏が2016年の前々回知事選で掲げた「待機児童ゼロ」「ペット殺処分ゼロ」といった「7つのゼロを目指します」との政策目標が達成されていないと攻撃しているのだ。 

 

 通常ならば、今回の都知事選は2020年に行われた前回知事選からの歩みが評価されるものなのだろうが、あえて8年前にフォーカスを当てるあたりは「情報戦」の1つと言える。8年前に実施された前々回知事選からの小池都政については、2020年7月に弁護士の楊井人文氏が「小池知事は27の公約をいくつ実行したか」と題した記事で検証しているのが興味深い。調査報道とファクトチェックのメディア「InFact」が弁護士や地方行政の専門家、ジャーナリストからなるチームで評定したもので、今でもYahoo!ニュースで読むことができる。 

 

 

 政策目標を達成すれば「優」、未達成でも課題解決に貢献していれば「良」、問題解決への寄与が不十分なら「可」、何もやっていない・やっていても後退は「不可」―といった基準で独自に評定しているものだ。新聞社やテレビ局などは当然知っているはずなのだが、小池氏が2016年に掲げた公約は「27」ある。楊井氏の記事による評定は、その27個のうち「優」または「良」が12個(44%)、「可」は10個(37%)、「不可」は3個(11%)だったと結論づけている。 

 

 小池氏が掲げた「7つのゼロを目指します」という点については、楊井氏は記事で「問われるべきは『ゼロ』を達成したかどうか、ではない。問題解決に向けて着実に取り組み、都民の福祉が向上したのかどうかだ」と位置づける。 

 

 たしかに「目指す」という政策目標を掲げて達成できていないことがダメならば、「原発ゼロを目指す」といった類いのものは短期間での実現が困難であり、すべて掲げることができなくなってしまう。今度の知事選は、それらも踏まえて都民が総合的にどう判断するかだ。 

 

 ただ、小池知事への対抗心を燃やす蓮舫氏は「一番わかりやすい評価は、公約だ」と攻撃を緩めない。会見する時間や公約発表のタイミングも小池氏に重ねるなど、攻撃力や意識の高さは見事と言える。その一方で、公約批判は蓮舫氏にとって“ブーメラン”となる可能性がある。 

 

 その理由は、蓮舫氏が閣僚を務めた民主党政権では「公約違反」が続出していたからだ。蓮舫氏は3年3カ月の民主党政権時代を除けば野党議員が長く、残念ながら「実績」で評価するのは難しい。「公約の達成状況」を言うのであれば、どうしても民主党マニフェスト(公約)の達成状況と比較せざるを得ない。 

 

 蓮舫氏が所属していた民主党は、政権交代を果たした2009年の衆院選で「子ども手当2万6000円」「高速道路無料化」「ガソリン税などの暫定税率廃止」「企業団体献金禁止」「衆院の比例代表定数を80削減」「国家公務員の総人件費2割削減」などを掲げた。国の総予算を徹底的に効率化し、無駄遣いや不要不急な事業を根絶するなどによって合計16兆8000億円を捻出するとうたっていたのだ 

 

 

 だが、行政改革によって捻出された財源は十分とは言えず、子ども手当の満額支給や高速道路無料化、暫定税率廃止などは次々と断念された。民主党が2012年11月にまとめた「2009年総選挙マニフェスト 実績検証について」を見ると、2009年衆院選で掲げた166項目の公約のうち、「実現」は51にとどまる。「一部実施」は63、「着手」は26。公約破綻に加え、米軍普天間飛行場移設問題をめぐる迷走や消費税増税もあった。 

 

 毎日新聞は2012年11月24日付朝刊に非営利団体「言論NPO」と合同でマニフェストを検証した記事を掲載している。55項目の政策目標を5点満点で評価したところ、平均点は2.2点だったという。「3」以上は約33%にとどまり、予算を組み替えるという「ムダづかい」は2.2点、「外交」は最低の1.6点。財源議論を置き去りに選挙狙いの政策が並べられたと厳しい評価がなされている。 

 

 先に触れたように、問われるべきは「着実に取り組んだかどうか」であり、民主党の公約未達成を蓮舫氏だけの責任にするのは酷だ。蓮舫氏がトップに立てば、状況が違っていた可能性もあるだろう。今回の都知事選でも蓮舫氏は「『蓮舫は削る、切る』と言われてきたが、行革は手段。削る、切るだけではない」と意気込む。 

 

 次は、2人の「弱点」を見てみたい。小池氏には、エジプトのカイロ大学を卒業したとする「学歴問題」が再燃している。これは2020年の知事選直前にも月刊誌や週刊誌などが取り上げてきたものだ。小池氏は2020年6月にカイロ大の「卒業証書」「卒業証明書」を記者会見でメディアに公開し、カイロ大学も学長名で「小池百合子氏が1976年10月にカイロ大学文学部社会学科を卒業したことを証明する」「卒業証書はカイロ大学の正式な手続きにより発行された」との声明を発表した。 

 

 だが、一部には「エジプトでは卒業関係書類は買える」「書類は偽造されたものではないか」といった声が残る。小池氏の元側近は「カイロ大から声明文を出してもらえば良い」などと自らが提案したことを明かし、これに蓮舫氏は「高い信憑性があるのかなと思う」と小池氏への攻撃を強める。 

 

 

 ただ、重要なのはカイロ大学そのものが小池氏の卒業を認めている点だ。加えて、これまで新聞社やジャーナリストなどが大学当局に問い合わせた結果、卒業の事実をカイロ大学が改めて認めているという。仮に「エジプトでは卒業関係書類が買える」にしても、「カイロ大の声明文が元側近の提案通りに出された」としても、カイロ大学が卒業を認める以上、「卒業」そのものは動かないだろう。 

 

 立候補予定者の「学歴」に関しては、「週刊文春」(6月20日号)が違う角度から蓮舫氏に関する記事を掲載した。蓮舫氏の公式サイトにあるプロフィール欄には「北京大学に留学」と記載されている。だが、週刊文春の記事によれば、初出馬した2004年の選挙公報などに同様の記載があったものの、その後の選挙公報では記載が消え、正式な本科の留学ではなく「語学留学・研修」だったのであれば誤解を招きかねない、などと指摘しているのだ。 

 

 同窓生の「授業で見かけることはほとんどなかった」、中国に詳しいルポライターの「蓮舫氏の中国語能力と中国の知識は相当、レベルの低いものです」といったコメントも記されている。ただ、北京大学に「留学」していたことが事実であれば問題ないのではないか。 

 

 2010年7月19日に「現代ビジネス」が配信した近藤大介編集次長名の記事も紹介しておきたい。それを読むと、ワイン片手に蓮舫氏と放談していたという近藤氏は、蓮舫氏が「日本生まれの日本育ちだけど、父が台湾人なの。それなのに、中国語がまるでできない。それを情けなく思って、とにかく中国へ行って集中的に中国語を勉強しようと決意したの」と語っていた、と記している。 

 

 民主党政権で閣僚となった蓮舫氏は中国で人気者だったそうで、中国国営新華社通信は「華僑の末裔である蓮舫大臣の人気は旺盛 女性初の首相が有望視」と題した記事を掲載し、選挙の開票速報を流すほどだったという。中国メディアの「架橋の末裔」という持ち上げ方はともかく、小池氏のカイロ大学も、蓮舫氏の北京大学も国立だ。どちらも「卒業」や「留学」を認めているということであれば、それがネガティブキャンペーンの一環として選挙戦で用いられたとしても、致命傷になることは考えにくい。 

 

 若くして他国の地を踏み、元キャスターといった共通点がある2人は「政党との距離」に悩んでいる点も同じと言える。小池氏は2016年の都知事選で「ブラックボックス」などと自民党東京都連を批判した。ケンカ対象を都連に限定し、当時の安倍晋三首相率いる自民党本部とは関係を維持していたのだが、派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金問題で今は自民党本部が“大炎上”している。内閣支持率は低空飛行を続け、自民は地方選でも連戦連敗中だ。 

 

 

 
 

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