( 182715 )  2024/06/20 17:21:31  
00

ホンダは2024年後半に中国で新EVシリーズを投入し巻き返しを図る(写真:ホンダ) 

 

 「もはやホンダを当てにするような戦略は中国事業で描けない」。あるホンダ系部品メーカーの首脳はそうため息をついた。 

 

【表で見る】主要なホンダ系部品メーカー、7社のうい5社で中国事業が減益 

 

 世界最大の自動車市場である中国で日本車の販売が落ち込む中、日系部品メーカーの中国事業も苦戦が鮮明になっている。上場する主なホンダ系部品メーカー7社のうち5社で中国事業が減益となった。 

 

■中国事業関連の損失計上が相次ぐ 

 

 アンダーボディを中心に手がける車体部品メーカーのエイチワンは、中国の連結子会社で工場の投資回収が難しくなったとして150億円超の減損損失を計上したことなどから、2023年度は188億円の営業赤字、216億円の最終赤字となった。ちなみに赤字は3期連続だ。 

 

 車体部品を手がけるJ-MAXは、2023年度の中国(広州と武漢)のセグメント(経常)利益は1200万円と、2022年度の計16億円弱から激減した。広州で生産設備の廃棄や約200人の人員削減を行ったことも響き、2023年度は10億円の最終赤字となった。 

 

 2社以外でも、2023年度に中国事業で人員削減や設備縮小による損失計上を余儀なくされた部品メーカーは多い。言うまでもなく、ホンダの中国での不振が背景にある。 

 

 2023年度のホンダの中国での販売台数は122万台だった。前期比では2.5%減と落ち込みは小さく見えるが、2020年度の179万台に対しては68%の水準だ。部品メーカーの業績に直結する生産台数は2023年度に116万台。ピークだった2020年度の187万台の62%でしかない。 

 

 「期初にホンダが示していた台数より10万台単位で少なかった。準備していた生産設備や人員が余剰となり、固定費が重くなった」と、複数のホンダ系部品メーカー幹部は口をそろえる。 

 

 もっとも、各部品メーカーの中国事業のリストラはこれで終わりとなりそうにない。 

 

■ホンダも中国事業のリストラを進める 

 

 ホンダは昨年末に広州汽車集団との合弁会社である広汽ホンダで全従業員の7%に当たる派遣社員約900人の契約を前倒しで終了した。さらに広汽ホンダでは生産領域で希望退職を募集し、5月半ばまでに約1700人の応募があったという。 

 

 藤村英司CFO(最高財務責任者)は中国事業について、「広汽ホンダや(東風汽車集団との合弁会社)東風ホンダ、子会社も含めて、自然減など入れて3000人ぐらいまで減らすことはやりきった」と説明する。 

 

 

 ただ、青山真二副社長は「(中国での)余剰な生産能力について合弁パートナーと十分な協議を重ねているところだ。今期の予算では(適正化の)関連費用を見込んでいる」と、さらなるリストラを検討していることを明かす。 

 

 ホンダによると、中国事業の年間生産能力は広汽ホンダで77万台、東風ホンダで72万台の計149万台。今期は両拠点で年産12万台のEV新工場を新設するため、さらに173万台まで膨れ上がる。 

 

 一方で、2024年度の販売計画は前期比16%減、2020年度からは35%減となる106万台を掲げている。現状では台数増の見通しは立っていない状況で、本格的な生産体制の最適化が必要な状況だ。当然、系列部品メーカーも対応を求められることになる。 

 

 「どこまでホンダの計画が落ちていくのか。年産90万台でも利益が出るような体質に作りかえないと中国で食っていけなくなる」。あるホンダ系部品メーカーの首脳は憤りながら話す。 

 

 足下で部品メーカーは動き出している。売上高に占めるホンダ向けの割合が9割以上を占める自動車シート大手のテイ・エステックは、中国拠点での設備自動化への投資に加え、雇用形態見直しや業務統合による要員の最適化に着手した。 

 

 足回り部品が主力のエフテックは中国2工場での部門統合による人員の集約や部品の内製化を通じてコストの抑制を図る。エイチワンは溶接ラインを統廃合し固定費を引き下げる。 

 

 加えて各社が進めているのが“脱ホンダ”の動きだ。 

 

■中国勢への売り込みを強化 

 

 減速ユニットなどのギア部品が主力の武蔵精密工業は、中国BYDのEV(電気自動車)・PHV(プラグインハイブリッド車)向けにサスペンションボールジョイントを受注した。武蔵精密では、ここ数年でBYDの複数モデル向けの部品受注に成功。それ以外にも複数の中国EVメーカーへの拡販が進んでいる。 

 

 大塚浩史社長は「中国市場で伸びているのは現地の民族系。ここを取っていかないとじり貧になる。コモディティ化した誰でもできる部品ではなく、品質や価値の高い部品を狙っていく」と意気込む。同社の2023年度中国事業は売上高が前期比5%増の338億円、営業利益が同6%増の9億円となった。 

 

 

 J-MAXは中国の車載電池大手CATLと電池関連部品の取引を拡大している。全社売上高が500億円規模の中、約60億円を投じて福建省に新工場を建設。これらを通じてCATL向け売上を4年後に4倍の80億円まで引き上げるという。エイチワンやテイ・エステックなども現地の中国EVメーカーへの拡販を進めており、ホンダの低迷した売上を現地開拓で埋めようと模索する。 

 

 もっとも中国勢への売り込みには懸念もある。中国市場では新興EVメーカーを中心に「台数優先でなりふり構わない値引き合戦になっている」(トヨタ自動車幹部)。「部品も買い叩かれて、とてもではないがビジネスとして成り立たない。数量を優先しすぎて、赤字でも途中で抜けられない可能性がある」(ホンダ系部品メーカー幹部)と警戒の声も上がる。 

 

 だからといって、既存ビジネスで食っていけないこともはっきりしている。アリックスパートナーズによると、中国市場における中国勢のシェアは2022年の45%から2030年には65%まで高まると予測する。その分、日本勢や欧米勢は押し出される。部品メーカーとしては中国勢向けを伸ばすしかない。 

 

 ホンダ系部品メーカーの多くが、ホンダが新車の生産工場を置いている広州市と武漢市向けに2拠点を構えている。今後ホンダの低迷が続けば拠点の閉鎖や集約など更なる踏み込んだ対応を求められることになりそうだ。 

 

横山 隼也 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

IMAGE