( 182955 )  2024/06/21 15:03:05  
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「本人確認はマイナンバーカードに一本化」のニュースは大きな批判を巻き起こした。写真はイメージ 

 

 6月18日、政府は携帯電話を「対面」で契約する際、事業者に対してマイナンバーカードなどに搭載されているICチップの読み取りを本人確認の方法として、義務付けることを決定した。さらに「非対面」での契約の際には、運転免許証の画像を送信する方法は廃止し、原則としてマイナンバーカードに一本化する方針を示した。これが波紋を広げている。SNS上では、「マイナンバーカードは任意のはずなのに」「これではほとんど強制では」との批判が相次いだ。識者は「運転免許証のICチップでも代替可能」と見解を示すが、「原則」とはいえ、なぜマイナンバーカードに一本化する必要があるのか。デジタル庁に真意を聞いた。 

 

【写真】カード普及に躍起になっている大臣はこちら 

 

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 18日に首相官邸で開かれた犯罪対策閣僚会議では、政府は国民を投資詐欺などから守るための総合対策として、「非対面」で携帯電話を契約する際には、本人確認の方法を「マイナンバーカードの公的個人認証に原則一本化」することが明らかにされた。「原則」という文言が入ってはいるものの、同会議が公表した資料を読む限り、本人確認はマイナンバーカードでしかできないように読める。 

 

 それを受けて、メディア各社は携帯契約の際は「マイナンバーが必要になる」というトーンで報道。するとSNS上では、「マイナンバーって(作成が)自由ではなかったの?」「なかば強制的にマイナンバーカードを持たされるということだよね?」など政府への不審と批判が相次いだ。 

 

■「詐欺防止」という点では有効 

 

 まるで、普及が進まないマイナンバーカードを政府が“ゴリ押し”するために、携帯電話契約にかこつけた施策のようにも思えるが、詐欺防止という観点では「妥当性」もある。 

 

 警察庁によると、SNSを悪用した詐欺被害は、今年の1~4月で2508件発生しており、被害総額は約334億円に上る。その詐欺行為のほとんどが不正に入手した携帯電話から行われており、1日に約3億円が被害に遭っている計算になる。政府としては、この不正入手経路を断つためにも、マイナンバーカードによるIC確認が不可欠だ、としているわけだ。 

 

「偽造したマイナンバーを使って他人になりすまし、勝手に機種変更をしてスマホを乗っ取り、ネットバンクから不正送金が行われたりするSIMスワップ詐欺などが多発していることは事実です。マイナンバーカードを使った身分確認は目視で行われることが多いため、犯罪に利用されてしまうことが少なくありませんでした。今回は、携帯事業者にマイナンバーカードのICチップ読み取りを義務付けることで、偽造マイナンバーカードによる被害を食い止める狙いがあることは確かでしょう」(全国紙記者) 

 

 実際、自宅でマイナンバーカードを偽造したとして、昨年12月には大阪に住む中国籍の女が逮捕、今年5月にも別の中国籍の男性らが同じ容疑で逮捕されている。 

 

 

■識者は「マイナンバーの一本化」に危惧 

 

 とはいえ、疑問なのは、なぜICチップによる本人確認がマイナンバーカードに限定されているのか、ということだろう。 

 

運転免許証も2007年から段階的にICチップ機能付きの運転免許証が導入されている。その背景には、精巧な偽造免許証が増えたことがある。偽造免許証で他人名義の口座開設や携帯電話の契約を行い、振り込め詐欺などに不正に使用されていたことから、警察庁は導入を急いだという経緯がある。 

 

 そうであれば、2022年12月時点で約8200万人が取得済みとされる運転免許証で本人確認をすることが、詐欺防止の観点からも理にかなっていると考えるのが普通だろう。 

 

 経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう指摘する。 

 

「運転免許証にもICチップが入っているのだから、それを読み取ることを義務付けたらいいだけのことです。iPhoneからでも読み取りは可能です。政府はマイナンバーカードのICチップを読み取る専用アプリを開発するとのことですが、そうなると導入まで時間もかかります。それまで詐欺被害を野放しにするつもりでしょうか。マイナンバーカードを普及させるために、政府はすでに1兆1700億円もの税金を使っています。それなのに、マイナンバーカードのICチップを読み取る機械の普及や偽造防止などの対策すら追いついていないのが現状です。政府の行き過ぎたマイナンバーカード普及策に国民は振り回されています」 

 

■デジタル庁は「一本化」を否定 

 

 世間からの相次ぐ批判や識者の見解に担当省庁はどう答えるのか。AERA dot.がデジタル庁に問い合わせると、担当者は「”非対面”での携帯電話の契約などで、本人確認をマイナンバーのICチップに一本化することは考えていません」と回答。ICチップでの本人確認は推進するが、マイナンバーカードだけに限定する予定はないという。そのうえで「政府側の伝え方が悪かったことで、一部のメディアがミスリードしてしまった側面がある」と苦々しく答えた。そして、「これから具体的な内容を検討し、国民の皆さまが安心できるようなシステムを作ります」と続けた。 

 

 デジタル庁としてはマイナンバーカードを“ゴリ押し”するつもりはないようだが、そうであれば、政府としてもわかりやすい形で再度説明することが求められるだろう。いずれにせよ、ここまで国民から反発が強い施策を強行することだけはやめてほしいものだ。 

 

(AERA dot.編集部・板垣聡旨) 

 

板垣聡旨 

 

 

 
 

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