( 183635 ) 2024/06/23 15:36:38 0 00 東京都知事選立候補予定者の共同記者会見で手を合わせる(左から)石丸伸二氏、小池百合子氏、蓮舫氏、田母神俊雄氏=6月19日、東京・内幸町の日本記者クラブ(写真:共同通信社)
(舛添 要一:国際政治学者)
6月20日(木)、都知事選が告示された。これまでの都知事選の常識、良識を破る異例、異常、異様な選挙である。日本社会全体の劣化を象徴しており、選挙後の東京の未来が気にかかる。
【写真】東京都知事選で、24人の立候補者を出した「NHKから国民を守る党」。そのポスター掲示スペースに貼られた女子キックボクサー「ぱんちゃん璃奈」のポスター。ポスターには「生活困窮者をなくせ!」と書いてあるが、ぱんちゃん璃奈が都知事選に立候補したわけではない
■ 50人を超える候補者
まずは候補者の数の多さである。56人に上る。候補者の数が多いと、「選択肢が増えるので良い」とか、「関心度の高さのバロメーターで評価する」とか、「誰でも立候補できるのが民主主義だ」とかいった積極的な評価もあるだろう。
300万円という供託金は立候補を制限するのに役立っていないことを証明しているとも言える。供託金は、売名を目的にしたり、面白半分に手を挙げたりする泡沫候補を極力減らすという目的があるが、今回はそうはなっていない。しかし、だからと言って供託金の額を増額すると、金銭的理由で、有為な人材が立候補しにくくなる。
候補者が増えた原因は、「NHKから国民を守る党(NHK党)」の掲示板作戦にもある。24人を立候補させたこの党は、候補者を大量に擁立して選挙ポスター掲示板を占有し、党に寄付した人に自由に自分の主張をポスターに掲載させるという。
具体的には、5月末日までは5000円、6月1~19日は1万円、20日以降は3万円を寄付すれば、1万4000カ所に設置してある掲示板のうち1カ所で、自分が自由に作ったポスターを最大24枚まで貼れるという。寄付が順調に伸びれば、供託金を支払ってもお釣りが出るくらいの収入となる。
このような「金儲け」的な掲示板の利用には批判の声が上がっているが、公選法にはこれを禁じる規定はない。しかし、このような行為は選挙という民主主義の土台を破壊するものである。公選法の改正が必要である。
掲示板には48人分しか確保されていない。そこで都選管は、届け出が49番目以降の候補者にはクリアファイルや画びょうを支給し、それを使って掲示板の端にポスターを掲示するよう要請している。その経費の財源も、私たちの税金である。
■ 政党隠し
いつからそうなったのか定かではないが、自治体の首長選挙では、候補者は「無所属」を標榜するのが通例となっている。そうしたほうが、無党派層の票をより多く獲得できるからだという理由からである。蓮舫も、立憲民主党を離党し、無所属候補となった。
2014年の都知事選に私は立候補し、当選した。国会議員の経歴を始めたときは自民党所属であったが、2009年夏に政権が民主党に移ったことを契機に、離党し、新党改革を立ち上げた。しかし、党勢拡大は難しく、2013年夏の参議院議員としての任期を全うした後、国会を去った。
その半年後、猪瀬都知事が辞任し、都知事選挙が行われることになった。各種世論調査で、次期都知事として私の名前を挙げる人が圧倒的に多く、自民党が私にアプローチしてきた。その結果、2014年1月に、自民党、公明党の推薦候補として、立候補することが決まった。私も、一般的な風潮に従って、新党改革を離党して、無所属で出馬することにしたのである。労働組合の連合も、私への支援を約束した。
その他に、共産党と社民党の支援を受けた宇都宮健児、小泉純一郎元総理が支援する細川護熙元総理、石原慎太郎元都知事が支援する田母神俊雄などが立候補した。
選挙期間中は、安倍首相や公明党の山口代表が、銀座などでの私の街頭演説会に駆けつけ、応援演説をした。つまり、無所属ではあっても、国政与党の自公代表として立候補していることは明らかであった。
結果は、舛添が約211万票、宇都宮が約98万票、細川が約96万票、田母神が約61万票であった。
今回の都知事選では、蓮舫はいち早く出身母体の立憲民主党、そして共産党の推薦を明らかにした。しかし、小池百合子に関しては、自民党の推薦を受けることもなく、確認団体を作って、それを隠れ蓑にして、裏で自民党が支援するという戦術のようである。
それは、派閥の裏金問題で国民から厳しく批判され、岸田内閣も自民党も政治率が低下しているからである。小池は、世論を気にしてその不人気な自民党に「抱きつかれる」ことを嫌う。一方、各種選挙で負け続けている自民党は、今のところ優勢が伝えられている小池を支持して、敗戦記録を終わらせたいのである。
この一連の動きは、まさに政党隠しである。現代民主主義の基礎は政党政治である。政党隠しは、その根本を揺るがすことになり、ポピュリズムの跋扈を許すことになってしまう。
■ 学歴詐称疑惑
小池百合子の元側近である小島敏郎弁護士は、4月に月刊誌に寄稿して、学歴詐称の隠蔽工作に加担したという事実を暴露したが、6月18日に、虚偽の学歴を記載したとして、東京地検に小池の告発状を提出した。
これまでも、小池は「カイロ大学を卒業していない」という証言は当時の彼女を知る人々から明らかにされてきた。私自身も、その件については、40年前に彼女に騙されている。
(参考)40年前、私に学歴を「詐称」した小池都知事(JBpress 2024.4.17)
学歴詐称疑惑潰しの裏工作を実行した側近による今回の暴露、そして告発はたいへん重い。
しかし、小池は、「大学が、卒業したと言っている」とこれまで通りの反論をし、選挙妨害だと息巻いた。そして、選挙公報に、これまで通り「カイロ大学卒」と記した。
欧米先進国だったら、彼女は一発アウトで立候補できないのみならず、公職からも追放される。マスコミも黙ってはいないし、有権者も厳しい。エジプトでは卒業証書や成績証明書の偽造は日常茶飯事であるが、それだから許されるというわけではない。コピーではなく、本物の書類を公にして、疑惑を払拭する義務がある。「名誉博士号」のようなもので「名誉卒業生」だというのなら、そのことを明らかにすべきである。
50年間にわたって嘘で固めてきた虚飾の人生をこれからどうするのかは本人の自由であるが、権力を握る以上、その弊害は国益、国民の利害に直結する。エジプトに頭が上がらないからである。国政に復帰することなど、外交防衛が国政の専管事項であるだけに、絶対に許されない。
ところが、日本のマスコミは小池の学歴詐称疑惑には一切触れない。小池が大手マスコミから都知事秘書を採用するなどの手を打っているからであろう。また、東京都には、マスコミをはじめ大企業には垂涎の利権が山ほどある。その利権の配分もまた、小池の自己防衛の武器として使える。私は、マスコミや利権集団の操縦術には、彼女ほどは長けていなかった。
■ AIゆりこ
4年前の2020年の都知事選挙の直前にも、小池の学歴詐称疑惑が表面化したが、それは、先述したように、側近の小島らのもみ消し工作が上手くいき、沈静化に成功した。
そして、その疑惑について他の候補やメディアからの質問を回避するために小池が採ったのが、新型コロナウイルス流行の活用であった。感染拡大防止という大義名分を使って、街頭演説、集会、討論会、メディアのインタビューなどをシャットアウトしたのである。
今回は、本人そっくりの「AIゆりこ」を作成するという奇策に出た。公務多忙を理由に街頭などには出ず、「AIゆりこ」に代役を務めさせるという。要するに、自分の肉声ではなく、人工的に事前に合成された映像と音声で説明し、突発的で不愉快な質問には答えないというわけである。AIゆりこは、「カイロ大学が私の卒業を証明しています」と繰り返し答えるのみであろう。
さらに、小池は、これまでも「stay home」とか「lockdown」とか、しきりに横文字を使って、外国語能力をアピールしてきたが、今度は自分が最先端技術の採用にいかに前向きであるかを誇示したいのであろう。
そして、「AIゆりこ」で話題作りをし、集票につなげようという魂胆も垣間見える。
今、アメリカで大統領選挙が行われているが、候補の支持者も批判者も、「AIバイデン」、「AIトランプ」など、生成AIで偽画像や偽音声を拡散させており、問題になっている。法規制の必要性も論じられている。
私は、「AIゆりこ」のような手段は公選を改正して禁止すべきだと考えている。
今回の都知事選のような異様な選挙は、民主主義の墓を掘ることになりかねない。
【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)、『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)、『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)、『都知事失格』(小学館)、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(ともに小学館新書)、『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)、『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。
舛添 要一
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