( 183718 )  2024/06/23 17:15:02  
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日本銀行がマイナス金利を解除し、今後は金利が上昇する見通し。

金利上昇により、預金や株式の利益が増える一方、借金の利息も増加する。

専門家による試算では、全世帯平均で金利上昇によるメリットが最大年7.7万円、デメリットは例えば住宅ローンの利払い負担が増加すると予測されている。

金利のある世界では、家計にプラスとマイナスの影響があり、資産や負債の状況によって影響が異なる。

資産選択や資産と負債のバランスを考えることが重要であり、金利が上昇しても資産から得られる収益が物価上昇を上回らない場合は注意が必要。

金融資産と負債のバランスを見極めて、金融資産の選択や活用を検討することが不可欠。

(要約)

( 183720 )  2024/06/23 17:15:02  
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AERA dot. 

 

 日本銀行は3月にマイナス金利政策を解除し、今後は利上げが見込まれている。金利が上がると預金や株式の利子や配当が増える一方で、借金にかかる利息も膨らむ。「金利のある世界」ではどんな心構えや備えが必要か。家計への影響を試算した専門家に聞いた。 

 

【試算を見る】デメリットはどんな世帯でいくらくらい? 

 

*   *   * 

 

 金利の上昇に伴い、全世帯平均では差し引きで最大年7.7万円のメリットが生じる――。みずほリサーチ&テクノロジーズは4月、こんな試算をまとめた(次ページの表)。 

 

 試算では、この先、日本経済が力強く成長し、物価高や賃金増が進んで日銀が政策金利を段階的に引き上げると想定。2年余り後の2026年末時点で、政策金利が今の0~0.1%程度から2.75%に上がり、長期金利も同時点で3.5%に上昇すると仮定した。ただし、今の状況から考えると「相当高い」金利環境を前提としているという。 

 

 こうした金利のある世界では、家計にはプラスとマイナス両面の影響が生じる。 

 

 まず、マイナス面は、住宅ローンの利払い負担が増える。政策金利の上昇に伴い変動金利型ローンの借入金利は22年度平均の0.4%から26年度に2.9%へ、長期金利の上昇で固定金利型の借入金利は1.6%から4.5%へとそれぞれ上がる見通しだ。 

 

 その結果、26年度には金利が上昇しないケースに比べて年10.1万円の負担増となる。 

 

 一方、期待できるメリットは、預金や有価証券といった金融資産から得られる所得の増加だ。インフレのもとでは企業の業績もよくなり、給料の上昇や配当の増加も見込める。 

 

 みずほリサーチ&テクノロジーズの試算では、普通預金の金利は22年度の0.001%から26年度に0.4%へ、10年物定期預金の金利は0.4%から2.4%へ上がると想定されるという。 

 

 金利のある世界では、普通預金から定期預金や個人向け国債、さらに株式や投資信託といった、より収益性の高い資産へのシフトも進むと考えられるという。 

 

 

このため、家計が保有する金融資産から得られる所得は、26年度に年17.8万円増加する。 

 

 同社調査部経済調査チームで家計への影響を試算した中信達彦エコノミストは言う。 

 

「プラスの影響が17.8万円に対し、マイナスの影響は10.1万円で、家計全体では恩恵のほうが大きいといえます。ただし、これはあくまで全世帯の平均的な影響を試算した結果です」 

 

 プラスやマイナスの影響は、住宅ローンなど負債をどれだけ抱えているかや、収入や年齢によって変わってくる。 

 

 住宅ローンなど負債のある世帯に限ってみると、例えば年収678万~825万円の中所得層は、高所得層に比べて資産形成が進んでいないのに負債を多く抱えていることから、金利上昇による利払い負担の増加(年35.6万円)が、金融資産から得られる所得の増加額(年8.1万円)を上回り、マイナスの影響のほうが大きくなってしまう(〓の表)。差し引きで年27.6万円のマイナスが生じる計算だ。 

 

 資産形成が十分に進んでいない若年層も不利になりそうだ。若い世代には、住宅ローンを借り入れたばかりの世帯も多い。 

 

 年齢層別では、30~39歳はプラスの影響が年7.6万円なのに対し、マイナスの影響は年63万円で、差し引き同55.4万円もの大きなデメリットが生じるとしている(上の表)。 

 

「負債を抱えている世帯は金利上昇でマイナスの影響を受けやすい。特に資産が少なく負債が多い低・中所得層や若年層は、マイナスの影響が大きくなりやすい」(前出の中信さん) 

 

 つまり、家計全体ではプラスの影響が大きくなる見込みだが、資産や負債の状況しだいでデメリットのほうが大きくなる世帯もかなりあるということだ。 

 

 では、消費者はどうのぞむべきか。 

 

 中信さんは「今までの常識を変える必要があります」と話す。 

 

「金利のある世界では、保有する金融資産について、利子がつくかどうか、さらにはどれだけの利子がつくかを考えることが重要になります。つまり、どんな金融資産を選ぶかをもっとよく考える必要が出てきます」 

 

 今までのように金利がほとんどなければ、例えば預金をしても、国債を買っても、もらえる利息に大きな差は出なかった。であれば、銀行口座からすぐに引き出せる預金のほうが便利だと、預金を選ぶ傾向があったという。 

 

 

 しかし、金利のある世界では違う。例えば同じ預金でも、普通預金と定期預金の利子の差はもっと大きくなる。リポートによると22年度時点で普通預金と10年物定期預金の利子の差は0.4%程度だが、26年度には2%程度に広がる。 

 

 預金だけでもこれだけの差がつく。国債のほか、株式や投信などほかの金融商品に目を向ければその差はもっと広がることになる。 

 

 中信さんは続ける。 

 

「金利のある世界では、物価高も進む前提です。インフレで企業の業績がよくなり、給料も上がりやすくなりますが、モノやサービスの値上がりも進み、暮らしにかかる支出も膨らみます。金融資産から得られる利子が増えるといっても、その伸び率が物価の上昇率を下回るなら、資産から得られる収益は目減りします。その意味でも、どんな金融資産を選ぶかが大切です」 

 

 金融資産と負債のバランスを考えることも重要だ。例えば、住宅ローンを借りて家を建てる際、頭金を多くして返済期間や残債を小さくしようと考える人もいるだろう。 

 

 このとき、どんな資産を頭金に充てるかで金利上昇の影響も変わってくる。利子や配当が多くもらえる金融資産をたくさん取り崩してしまえば、金利の上昇で得られるはずのメリットもその分減る。ローンの残債は確かに減らせるかもしれないが、もらえるはずの所得がローンの減少分を上回るようなら、本末転倒だ。 

 

 メリットとデメリットをよく見極め、どんな資産をどれだけ使うかを考える必要がある。 

 

「『金利のない世界』になってから20~30年が経ち、金利のある世界を経験したことがある人は少なくなりました。特に資産形成が十分に進んでいない20~40代の層は、ほとんど経験がないでしょう。これからは資産形成について自分で学んだり、金融に関する教育環境を整備したりすることがより重要になると思います」(中信さん) 

 

(AERA dot.編集部・池田正史) 

 

池田正史 

 

 

 
 

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