( 183835 )  2024/06/24 01:13:17  
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候補者ではない女性たちのポスターが半数を占めた掲示板 

 

 東京都知事選は過去最高の56人が乱立する事態になった。候補者のポスターを貼る掲示板には48人分の枠しかなく、どこの掲示板も8人分の枠が足りない状態だ。政治団体「NHKから国民を守る党(N国)」が24人もの候補者を立てたことが大きな原因で、枠が足りなくなったことに加えて、その枠の利用権を売買する動きもあり、都の選挙管理委員会には苦情の電話が殺到する。地方政治や選挙に詳しい法政大学大学院の白鳥浩教授に掲示板をめぐる問題のポイントを聞いた。  

  

 

【写真】都知事選でも何かある?行動が気になる団体はこちら 

 

 告示翌日の21日、記者は都選挙管理委員会に何度も取材の電話を入れたが、とうとう一度もつながらなかった。都知事選のポスターに関する疑問や苦情が殺到しているのだという。 

 

 候補者にはそれぞれ、掲示板における枠に該当する番号が割り振られる。候補者は自分に与えられた番号の枠にポスターを張ることになる。番号は午前8時半までの受付した立候補希望者のくじ引きと、それ以降に訪れた希望者の先着順で決まった。49以降の番号になった候補者には、都内1万4000カ所にのぼるいずれの掲示板でも、48ある正規の枠は使えない。代わりに都選管が用意したのは、クリアファイル、雨よけ用の袋などだった。掲示板の左右の枠外や上部に各候補者自身が、選挙ポスターの入ったクリアファイルを、ホチキス、画びょうなどで固定するのだという。 

 

 白鳥教授「この時点で、48番までの人と49番以降の人で、選挙の条件に差ができてしまった。49番以降の人の条件が悪い。公平な選挙とは言えない」 

 

 都選管の責任者は「49番目以降の候補には手間をかけてしまうが、許容範囲の対応だと判断した」と説明する。  

 

 白鳥教授「雨が降ったら、掲示板の端に止めたクリアファイルには雨が溜まるかもしれない。風が吹いたら、ファイルが揺れて見えにくいですよね」「クリアファイル組になって落選した人が『不公平だった』と、選挙無効の訴えを起こす可能性もあると思う」  

 

 

■事前にわかっていたこと 

 

 立候補者が50人以上にのぼりそうなことは、事前に分かっていた。N国の立花孝志党首は、2カ月余り前の4月11日に都庁で記者会見し、多数の候補者を立てる方針を示していた。しかし都は掲示板の枠を50以上に増やす方策を取らなかった。 

 

 白鳥教授「都選管の選挙行政に対する認識が甘かったと言わざるを得ない。例えば掲示板内に横の列をもう1列増やせば、何となくクリアできたような気がする」 

 

 ベニヤの掲示板の増設には億単位の費用がかかってしまうという。クリアファイルならもっと安くで済む。 

 

 白鳥教授「その金額は民主主義のコスト。安いからいい、高いとだめ、という話ではない。同じ条件で選挙を行うことが何より大切で、やっぱり、都選管の落ち度なんじゃないかと思う」  

 

 掲示板について、もうひとつの問題は、ポスターを貼張るための枠が売買の対象となったことだ。立花党首は4月の会見で、N国に寄付してくれれば、ポスターを貼る枠を譲る旨を表明した。告示後、実際に複数の掲示板で、N国が獲得した掲示枠に選挙とは関係のないポスターが無数に貼られている。掲示場1カ所あたり、1万円で権利を売買すると仮定すると、すべてに掲示場の権利が売れれば1億4000万円以上の収益になる。候補者1人あたりの供託金は300万円なので、N国が立てた24人分計7200万円を上回り、利益が出ることになる。 

 

 白鳥教授「選挙ポスター掲示板というのは、税金で設置されている公器と言ってもいいと思う。候補者はその公器の使用許可を得ているだけで、所有物ではない。それを売買するというのはかなりの問題だと思う」  

 

 掲示板の枠の売買については、多くの人が疑問を持ち、都選管にも問い合わせが寄せられている。しかし公職選挙法はこうした行為を想定しておらず、禁止する規定もないという。  

 

 白鳥教授「法改正には時間がかかる。改正を待っている間に他の選挙で模倣犯が出てくる可能性もある。改正しなくとも、ポスター掲示板という公器を使って特定の個人や私的な企業が宣伝に使ったり、金銭的利益を得たりするということは望ましくないと、運営の上で決めればよかったと思う。総務省の省令でも政令でもいいので、ルールを明示する通達を出しておけばよかったのではないか」  

  

 

■QRコードをたどると… 

 

 ポスター掲示板の使い方にも問題がありそうだ。場所代として売買されたと思われるポスター枠には、都知事選に関係がなく、候補者とは異なる人の写真などがズラリと並ぶ。ポスターにQRコードがついていて、 出会い系サイトや求人情報に飛ぶようなものも見られる。 

 

 白鳥教授「ポスターのコンテンツも問題。候補者の政治的な情報、例えば顔、スローガン、政策みたいなものを有権者に訴えるのが掲示板の本旨。目的外のポスターの掲示というのは、本旨からすれば認められないことになると思う」  

 

 レースクイーンなどで活躍するモデルの女性と思われるほぼ全裸姿のポスターが掲示された。警視庁は都迷惑防止条例に違反するとして警告。作成した候補者はポスターをはがした。 

 

 白鳥教授「これが候補者自身だったら、自己表現だという議論もあり得るのかもしれないが、この女性は立候補もしていないようですね。映画作品では猥褻か芸術かという議論があったが今回のはそういうことではない」  

 

 選挙が本来の目的から外れて、ビジネスに利用される例が他にもあった。今年4月の衆院東京15区補選がそれだ。つばさの党が他候補の演説を妨害するなどして公選法違反容疑で代表者らが逮捕された。警視庁は同党が過激な動画配信で広告収入を得ていたとみている。 

 

 白鳥教授「選挙をビジネスにできないようにする何らかの方策を考えていく必要がある。そうしないと、同じことがこれからも繰り返される」  

 

上田耕司 

 

 

 
 

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