( 183910 ) 2024/06/24 02:38:09 0 00 家庭料理は「おふくろの味」?
6月23日~29日は男女共同参画週間。女性の社会進出やジェンダー平等が叫ばれる今の時代ですが、依然身の回りには男女間の格差や「モヤモヤ」が多数存在します。 例えば家庭内の「家事分担」。中でも「料理」は、“おふくろの味”など、昔からとりわけ“母親の役割”という意識が強く残ります。果たして「料理」はお母さんだけが担当するものなのでしょうか?
料理はお母さんがすること? 料理代行の注文も「100%母親から」 家事分担のモヤモヤ #令和の親
料理代行サービスを始めた稲田幸恵さん
「きょうはロールキャベツにしようかな」
キッチンに立ちテキパキと作業を進めるのは、島根県松江市に住む稲田幸恵さん(30)。ロールキャベツにミルクスープ、野菜の肉巻きなど、おいしそうな料理が次々とできていきます。
「これで完成です。きょうは15品ですね」
稲田さんが行っているのは、利用客の家に行って作り置き料理を作る「料理代行」サービスです。
料理代行「ゆきどころ」 稲田幸恵さん 「10年間保育園の栄養士として働いてきた中で、働くお母さんを間近で見て『助けてほしい』っていう声を沢山聞いてきたんです。 掃除や洗濯って最悪1日2日しなくても命には関わらないけど、食べることは1日3回やってくる。もう1歩踏み込んで手を差し伸べたいけど、保育園でできる保護者支援には限度があると感じたのが、“料理代行”を始めるきっかけでした」
長年勤めていた保育園を退職した稲田さんは、今年4月から料理代行サービスをスタート。オーダーがあると利用客の家に出向き、その家にある食材・調理器具を使い、作り置き料理を作っています。
サービスを提供するなかで、稲田さんはある疑問を感じていました。
「料理代行を依頼してくるのは、100%『お母さん』。普段台所に立つのもほぼ100%『お母さん』というご家庭ばかりなんです」
稲田さんの料理代行サービスを利用する松江市の野津さんは、生後6か月の娘をはじめ3人の子を持つ母親。 夫は仕事が忙しく、家にいないことが多いため、野津さんは一人で赤ちゃんの世話をしながら、合間に自営業の仕事や家事を行っているといいます。そんな中で、一時は「産後うつ」のような状態になった時期もありました。
料理代行サービスを利用 野津さん 「料理にしても、家事も育児も全部やるのが私しかいない状態、私がやらなきゃって思っていました。 料理代行を頼むのは最初すごく後ろめたかったんです。『産後ずっと家にいるのに人に頼んでるの?』って思われるんじゃないかって…。でも、実際に頼んでみたら本当に心の余裕が前と全然違った。家庭がうまく回るなら、料理するのも母親じゃなくてもいいんじゃないかなと思うようになりました」
鳥取県米子市内でのアンケート調査
家庭の中で誰が「料理」を担当するのが良いと思うか―。取材班は街でアンケート調査を行いました。
「男女両方すればいいと思う」(10代高校生・女性) 「うちの場合は妻が専業主婦なので、女性がいいと思います」(30代・男性) 「得意な方がしたらいいと思う。うちは父親が料理好きでよくやってました」(20代・男性) 「どちらでもいい、性別は関係ないと思います」(50代・女性)
男女各60人に聞いたところ、男女とも約90%が「男女どちらでもよい」と回答。この結果だけをみると、時代の変化に伴い、女性だけが「料理」を担うという風潮はなくなりつつあるようにみえます。
そこで、今度は「実際に家庭内で料理をしているのは誰か」聞いてみました。
「共働きですけど、私が料理してます」(40代・女性) 「実家で両親共働きで、母の方が帰りが遅いので父がやってることが多いです」(20代・男性) 「私です。お父さんも古い人間なんで何かそういう風に育ってきてるというか…」(50代・女性) 「メインは妻、私はたまにご飯炊いたりかな」(60代・男性)
実際に料理をしているのは ▼女性(妻・母・祖母など) 71.6% ▼男性(夫・父・祖父など) 5% ▼その他(男女どちらも・外食・外注など) 23.3% という結果に。
料理に対する性役割意識がなくなってきている一方で、現実はその意識に追い付いているとは言えない状況です。
料理代行サービスを開業した稲田さんも2児の母ですが、夫が県外に単身赴任しているため、家事も育児もワンオペで行ってきました。
料理代行サービスを営む 稲田幸恵さん 「料理代行を頼むことも『母親の役割なのに楽をしていいのか』って罪悪感を抱くお母さんも多いんです。 子どもを産むのも育てるのも、料理をするのも、なんで女性なんだろうって。固定観念が変われば、もっと子育てしやすい世の中になるのになって思います」
日本女子大学 人間社会学部社会福祉学科 永井暁子教授
「“おふくろの味”ってこだわる国ほど、出生率低いんですよね」
そう話すのは、家族社会学やジェンダーを専門とする日本女子大学の永井暁子教授です。
日本女子大学 人間社会学部社会福祉学科 永井暁子教授 「イタリア、スペイン、韓国、そして日本などですね。逆に、出生率の回復に成功した国は、晩御飯がさっぱりしている傾向がある。 “おふくろの味”っていうのは母親を称賛する言葉でもあるけど、同時にやはり、女性に負荷がかかっている状況を現わす言葉でもあります」
とはいえ、日本も昔から食卓に手の込んだ料理が並んでいたわけではないといいます。
「家庭で毎食きちんと手の込んだ料理を作るようになったのは、高度経済成長を経て安定期になって、日本社会が豊かになってからのこと。それまでの自営業や農業中心の社会だった頃は、家庭の中で妻は内職や家業の手伝いという形で働くことが多かったんです」
夫が「会社勤め」、妻が「専業主婦」という、一般的にイメージされる“昭和の家庭像”は、1970年代以降に一般化したもの。女性は結婚後夫を支え、家事・育児に専念するべきという「性別役割分業」意識が強まり、専業主婦が増加しました。
1985年には男女雇用機会均等法が制定され、女性の社会進出も叫ばれるようになりましたが…
「女性も徐々に外に働きに出るようになりますが、今度は『新・性別役割分業』という言葉が出てきた。男性は仕事、女性は仕事も家事もするというような分業になって、女性への過重負担が問題になってきたんです」
夕食を作る渡辺さん(夫)
「家事の役割は特に決めていなくて、気づいた人がやっています。」
そう話すのは、現在3歳の子を育てる渡辺さん夫婦。共働きですが、夫婦2人で協力し日々の食事を準備しているといいます。
渡辺さん(妻) 「平日の夜は汁物などを作って、あとは週末に作った作り置きのおかずを出すような形にしています」 渡辺さん(夫) 「繁忙期によって逆になることもあるんですけど、今は平日の夕食は私が担当しています」
同じ職場に勤める地方公務員の2人は、朝・夕に子どもと家で過ごす時間を確保するため、今は夫が午前8時~午後4時45分、妻が午前9時~午後5時45分と、時差出勤制度を活用し勤務しています。 そこで、夕食は早く帰宅する夫が担当し、妻の帰宅に合わせ食卓の準備をしているといいます。
渡辺さん(妻) 「料理担当が女性に偏るのは、男性が料理が苦手であったり、男性の方が帰宅時間が遅いというのがあると思うんですよね。 得意不得意もあるので、夫婦で納得しているのであれば無理に男性が料理をしなくてもいいとは思うのですが、働き方の部分がネックの場合は何か考える余地があるんじゃないでしょうか」 渡辺さん(夫) 「例えば2人ともフルタイムであれば、夕方仕事を切り上げて帰るのは女性という風潮になっている。 雇う側も、子どもがいる女性社員には残業をお願いしにくいけど、男性社員にはそうでもないとか…その辺りが改善されないと、なかなか問題は解決していかないと思います」
こうした男女間の家事分担の“モヤモヤ”は一体どこからくるのでしょうか?
日本女子大学 人間社会学部社会福祉学科 永井暁子教授 「今モヤモヤしている問題って、モヤモヤしているのは女性だけ。『女性の問題』なんですよね。 男性に当事者意識がなく『女性の問題』となってしまっているから、やっぱりモヤモヤするんだと思います。 ですので、これを女性の『私の問題』『妻の問題』ではなく、男性も『我が家の問題』として捉えていく必要があるのではないでしょうか」
『女性の問題』から『我が家の問題』へ―。それはつまり、“おふくろの味”も変化していく必要があるということ。
「“おふくろの味”って、哀愁や懐かしさもあって決して悪いものではないと思うんですけど、これからは“おふくろの味”ではなく『我が家の味』にしていけば良い。 “我が家のカレー”はお父さんのカレー、”我が家の煮物”はお母さんの煮物…というように、我が家の料理を作っていけばいいのではないでしょうか」
※この記事はBSS山陰放送とYahoo!ニュースによる共同連携企画です
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