( 184093 )  2024/06/24 17:53:36  
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東京都知事選挙では異例な光景が続いており、1党が選挙ポスター掲示板をほぼ独占し、問題が生じている。

物議を醸すポスターの掲出や第三者に掲示枠を提供する行為、また政見放送の利用など、選挙活動の乱用や悪用が見られている。

このような行動が選挙の信頼性や意義を損ねる可能性があり、今後は選挙活動の規制や法改正が必要とされている。

(要約)

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選挙ポスター掲示板の大部分を1党が占拠するという異様な光景が見られる(編集部撮影) 

 

 7月7日に投開票される東京都知事選がやりたい放題だ。 

 

 6月20日に告示された東京都知事選。立候補者は56人と、過去最多だった前回(2020年)の22名を大きく上回っている。事前に用意されたポスター掲示板の枠は48名分で、足りない枠はクリアファイルでポスターを貼るという異例の対応となっている。 

 

【画像】悪びれる様子もなく、自身のポスターが掲示板をジャックすることを発表した美人格闘家 

 

■選挙ポスターをめぐる“珍事”の発生 

 

 さらに、この掲示板を巡って物議を醸すトラブルが生じている。 

 

 候補者の一人が、「表現の自由への規制はやめろ」と書かれた“ほぼ全裸”の女性の写真のポスターを掲出した。警視庁は都迷惑防止条例に抵触するとして、ポスターをはがすよう候補者本人に警告。その直後にポスターは撤去されることとなった。 

 

 なお、このポスターで掲出されている女性は候補者自身ではなく、アイドル活動をしているモデルである。このトラブルにより、モデルの女性は契約していた別の商品のイメージガールを降板する事態となっている。 

 

 これにとどまらず、1つの掲示板に選挙とは無関係の同じ人物や動物などポスターが多数貼られるという事態も起きている。これを行ったのは、24人の候補者を出す「NHKから国民を守る党」(以後「NHK党」と表記)であるが、同政党に寄付した人に対価として掲示枠を提供したという。実質的に、選挙のポスター枠を第三者に転売したことになる。 

 

 こうした異例の掲示板活用はSNSで大きな物議を醸しただけでなく、NHKの報道によると、東京都選挙管理委員会には告示翌日の6月21日夕方までに1000件以上の苦情や問い合わせが殺到したという。 

 

【画像】都知事選で「やりたい放題の人たち」を見る(5枚) 

 

 有権者の反発を食らうようなことを候補者が選挙活動で行うという事態が起きているのは非常に逆説的だが、ある意味、「現代」という時代を象徴している出来事とも言える。 

 

■“言論の自由”が無法状態を生んだ 

 

 投票率が低下する中、泡沫候補が乱立、荒唐無稽な主張やパフォーマンスが目立ち、選挙の本来の意義が見えづらくなってきている。 

 

 逆に、選挙を狭義の政治活動の場としてではなく、広義のプロパガンダや広告の場として捉えると、別の世界が見えてくる。 

 

 立候補に必要な供託金は都道府県知事で300万円である。選挙運動にかかる費用はさらに膨らむが、立候補をするだけなら、供託金を払うだけでよい。 

 

 

 これを「広告・宣伝費」として捉えるとどうだろうか。 

 

 掲示板にポスターを貼れるのみならず、政見放送で1人5分30秒(紹介も含めると6分)の枠が与えられる。しかも、放映回数は2回ある。 

 

 テレビ放送やテレビCM、屋外広告には厳しい法規制、自主規制があり、自由な表現を行うことはできない。一方で、選挙ポスターは公職選挙法では内容を直接制限する規定はなく、事前チェックもないという。政見放送についても、無料で、そのまま放送することが義務付けられられている。 

 

 言ってみれば、やりたい放題のことができてしまうのが、選挙ポスターであり、政見放送であるということになる。 

 

 政見放送に関しては、2023年4月20日の午前6時から約9分間にわたり、「ジャニー喜多川氏の性加害問題」についてNHK総合テレビで放送されるという“事件”が起きた。これは衆議院千葉5区補欠選挙において、政治家女子48党(現NHK党)が政権放送の枠を使って、ニュース番組風の映像を流したものだ。 

 

 この時点では、ジャニー喜多川氏の性加害について、BBCがドキュメンタリーを放映し、カウアンオカモト氏が記者会見も行っていたが、テレビ局はほとんど取り上げていなかった。この事件をあえて放送して、世の中の関心を喚起したことは、いまから振り返ると、英断であったと言えるかもしれない。 

 

 一方で、政見放送枠が選挙以外の目的に利用されたり、偏向した主張を拡散したりする恐れがあることも明らかになったと言えるだろう。 

 

 このような勝手な行いができてしまうのは、日本社会で言論と表現の自由が尊重されているからで、これを制限してしまうと、言論統制、弾圧との批判を受けかねないためだ。 

 

■「広告・宣伝の場」として見た選挙の価値は?  

 

 都知事選への立候補を「テレビ放送とポスター掲示板が自由に使える広告契約」と見なせば、「超高コスパの契約」と見ることができる。 

 

 NHK党によると、今回の都知事選では、一定額を同党に寄付すれば、ポスター掲示板の1カ所で最大24枚のポスターを貼れる権利が寄付者に与えられるという(告示された6月20日以降は、ポスター1枠当たり2万5000円)。 

 

 

 6月21日に行われたNHK党・立花孝志党首の記者会見によると、その時点での寄付金の総額は1000万円に満たず、候補者24人分の供託金7200万円にはまったく届いてはいない。 

 

 しかし、もし都内1万4000カ所すべてのポスター枠が“売却”できれば、売上総額は単純計算で3億5000万円となる。それだけで候補者の供託金を賄えてしまうどころか、大幅な黒字になる。 

 

 それに加えて、メディアやSNSで取り上げられることも含めた「露出効果」もある。選挙以外のところで同じことやっても「変なことをやっている人がいる」くらいにしか思われなくても、選挙運動として行えば大きな注目を集めることができる。 

 

 実際、NHK党の寄付枠を活用して、キックボクサーのぱんちゃん璃奈氏が大規模なポスタージャックをしたほか、出会い系サイトのような広告や風俗店のポスターが掲出された。 

 

 ただし、まともな感覚を持っている人であれば、批判を浴びることによる“逆効果”も想定してこうした行為は控えるはずだ。 

 

 かくして、“まともではない”人たちが群がってくるという結果になってしまっている。 

 

■選挙活動“悪用”の弊害 

 

 現在の公職選挙法の枠内では、このたび起きた諸問題を禁じることは難しいという。たとえば、供託金を値上げするという方法も考えられるが、そうすると「お金がない人は立候補できない」という弊害を招いてしまう。 

 

 しかしながら、この状況が繰り返されることは、下記のようなさまざまな弊害をもたらす。 

 

1:選挙活動の濫用 

2:税金の不適切な活用 

3:選挙や政治に対する不信の拡大 

 選挙には多額の税金が投入される。にもかかわらず、選挙で当選することを目的としない私的な活動や、偏向した思考を広げるために選挙活動を利用するのは、どこから見ても不当な行為である。 

 

 それだけにとどまらず、泡沫候補が乱立して選挙活動からずれた行動を行ったり、関係のない第三者が宣伝活動を行ったりすると、選挙に対する信頼性が揺らぎ、有権者の関心も削いでしまうことになりかねない。それは、長期的には政治への不信へと繋がっていくだろう。 

 

 

 現代の日本の政治で独裁者の圧政、権力の乱用よりも懸念されるのが、良識のない人たちの自由や権利の乱用であるように思える 

 

 これまで、法律で縛らずとも、大幅に道を外れた行動を取る人はあまり多くはなかったが、一度このような事態が起きてしまった以上、同じことが再発することは十分予想できる。 

 

 次に起こるのは、政見放送の悪用ではないかと思う。少なくとも、選挙運動を選挙以外のことに利用することは、早急に規制する必要があるだろう。 

 

 本日から放送される政見放送も注視したい。 

 

西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 

 

 

 
 

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