( 184375 ) 2024/06/25 16:34:21 0 00 2021年に登場したトヨタ自動車の小型車「アクア」2代目。その売れ行きは、グローバルで累計約187万台を販売した初代と比べると、大きく失速している
年間20万台以上を販売するなど、一時国内乗用車販売台数1位の常連だったトヨタ自動車の小型車「アクア」に、“異変”が起こっている。2代目発売以降、月間販売台数が4000台レベルにまで落ち込んでいるのだ。いったい何が起こっているのか、小沢なりに冷静に検証してみると、2つの理由が浮かび上がった。
【関連画像】アクアのインテリアを見てみると、ヤリスよりもカラフルでコストもかかっている
最近、ずっと不思議に感じていることがある。
2021年に登場した、2代目となるトヨタ自動車の小型車「アクア」が、販売台数で本格的に失速しつつある事実だ。発売から3年目の24年に入り、ますますその存在感が市場で薄くなってきている。
乗用車の月間販売台数ランキングを見ると、24年1月が17位、2月が18位、3月が19位、4月が13位。23年度に遡ってみても、年間6万6000台で13位。残念ながら、ベスト10以下が定位置となっている。いったい何が起こっているのか。
●トヨタの敵は身内にあった
歴史を振り返ると、10年代はまさに「アクアの時代」と呼ぶにふさわしい売れ行きだった。
11年末、ハイブリッド専用のコンパクトカーとして登場した初代は、類似したフロントグリルの顔つきから“ミニプリウス”と呼ばれ、注目を浴びた。発売からわずか1カ月後には月販目標の10倍となる12万台を受注した。
特長は、全長4mと割り切った小型さ、高効率な1.5Lのハイブリッドエンジン、そしてリアシートが狭い分、車重が1.1トン以下とプリウスより数100kgも軽く抑えられていた点だった。
国内で一般的なJC08モードでの燃費は、当初1リットル当たり35km台で、改良後は37km台とぶっちぎりの良さを誇った。当時のガソリン車としては世界最高レベルの低燃費を誇り、かわいいデザインも手伝って売れに売れまくったのは当然だった。
13年から15年まで年間20万台以上を維持し、3年連続で国内乗用車販売台数1位を獲得。その後プリウスなどの競合車種に首位を譲ることはあったものの、モデル末期の18年に再び2位を記録し、19年は10万台超え、20年も年間販売台数が6万台を超えるなど好調を維持した。
初代アクアのグローバル累計販売台数は実に約187万台。すさまじい記録を打ち立てたことからも、2010年代がアクアの時代と評されたことが分かるだろう。
てっきりその勢いは続き、アクアがプリウスに続く“新たなトヨタ印のハイブリッド車の象徴”になる……。小沢はそう信じていたが、実際はそうはならなかった。
理由の一つは、トヨタの敵は身内のトヨタにあり、とでも言うべき4代目ヤリスが20年に発売されたことだろう。
ヤリスは、3代目まで国内では「ヴィッツ」の名称で売られていたコンパクトカーであり、5ドアハッチバックである点はアクアと同じだが、全長がアクアより若干短く取り回しがしやすく、新世代の1.5Lハイブリッドエンジンをアクアより先に搭載するなど差異化が図られた。
しかもヤリスにはガソリン車があり、1Lタイプの設定もある約150万円からとお手ごろ価格。その点が支持され、レンタカーでの採用も進んだ。結果、20年に登録車年間販売台数でナンバーワンをいきなり記録すると、23年まで4年連続でその座を維持。すっかりヤリスがトヨタ印の定番コンパクトカーとなり、アクアのお株を奪ってしまったのだ。
厳密にはヤリスのランキングは、1.5Lや1Lのガソリンエンジンモデルや、サイズやデザインが全く違うSUV(多目的スポーツ車)「ヤリスクロス」も含めたトータル販売台数をカウントしたものであり、本来のハッチバックタイプの台数は全体の16万~20万台前後のうちの7万~10万台程度とみられる。ハイブリッド車に限るとさらに半分の3.5万~5万台程度なので、実はアクア(21年は7万2000台、22年は7万2000台)の方が売れている。
特に22年は、新型コロナウイルス禍の影響でヤリスの販売が振るわず、23年もヤリスがブランド合計19万4000台のところ、アクアは8万台と健闘している。
しかし、そこまでだった。24年に入ると、アクアは月間販売台数が4000台レベルに失速し、年間で見ても7万~8万台程度の“ポテンヒット”レベルの売れ行きが普通になってしまった。年間20万台以上とぶっちぎりでランキングトップを独走していた面影は、もはや感じられない。ブランド合算で軒並み月間販売台数1万台超をキープし続けるヤリスとは対照的である。
当初小沢が、2代目アクアが国民的ハイブリッド車として売れ続けると思った最大の理由は、そのつくりからだ。
ヤリスの現行ハッチバックモデルと同じ高効率な1.5Lハイブリッドエンジンを搭載しつつも、ヤリスよりホイールベースを5cm長くしてリアシートを広げた。言ってみれば、上手にヤリスのネガティブな要素を消したようなつくりだった点を評価した。
見た目は、欧州車を凝縮したようなテイストのヤリスに比べると、アクアの方が優雅で優しい乗用車といった印象が強い。インテリアも、質素なファブリックを採用するヤリスに対して、アクアの方が明らかにカラフルでコストもかけている。
走りも、若干硬さが目立つヤリスに比べてアクアの方がしなやかであり、システム出力こそ116psと変わらないものの、アクアはほとんどのグレードで大電流が流せる出力が2倍の「バイポーラ型ニッケル水素電池」を搭載しており、明らかに出足の電動感が強い。停車時のエンジン音が静かで、最良の燃費も1リットル当たり35.8kmと悪くない。
静かで力強い走りのバッテリー電気自動車(BEV)が昨今人気だが、そのはやりに近いのはヤリスよりアクアだと断言できる。カージャーナリストとして冷静に乗り比べしてみて、個人的にもコンパクトハイブリッド車を今買うのであれば2代目アクア一択だとの結論に至った。
●ハイブリッド車の価値が世界的に見直され始めた
もう一つの理由は、ハイブリッド車が一転して浸透率が高まり、アクアの位置づけが大きく変貌したことに他ならないと小沢は考える。
トヨタは09年に発売した3代目プリウスからハイブリッド車の本格的な世界展開を始め、それを受け継いだのが初代アクアだった。
当初「カローラ」にはハイブリッド車がラインアップされず、「クラウン」「ハリアー」も高価なV6の3.5Lハイブリッドエンジン搭載車しか用意されなかった。「RAV4」に至ってはそもそもハイブリッド車の設定がなかったが、徐々にトヨタがハイブリッド車を広げていったのはご存じの通りだ。
BEVブームが巻き起こるなか、ハイブリッド車を中核に据えるトヨタの戦略は批判されることもあったが、24年以降その声は鳴りを潜めている。というのもハイブリッド車の価値が世界的に見直され、実際BEV以上の売れ行きを見せつつあるからだ。
日本は乗用車のハイブリッド車比率が全体で5割程度とされるが、北米は18年まで1割程度(RAV4の場合)にとどまっていた。それが一気に3割かそれ以上へ上昇。ハイブリッド車は、今や世界的な普及フェーズに入りつつある。
結果、何が起こったのか。要はハイブリッド車の需要が一極集中していたアクアやプリウスから、実用的なカローラやRAV4のハイブリッド車に流れ始めたのではないか。小沢はそう見ている。
言ってみれば、ハイブリッド専用車だったアクアは、燃費の良いハイブリッド車が欲しい人が選ぶ特別なクルマではなく、トヨタがラインアップする多種多様なハイブリッド車の一つに過ぎないクルマになった。“普通のクルマ”になったと言ってもいいだろう。
まとめると、アクアが以前より売れないのは、それだけハイブリッド車が普及し、トヨタの戦略が世界的に見直されている証左ということだ。ある意味、トヨタの経営陣にとっては、大変喜ばしい事態になっていると言っていいのかもしれない。
小沢 コージ
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