( 184418 )  2024/06/25 17:22:14  
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日本版ライドシェアに関する議論が激化しており、解禁が見送られる一方で、なぜ日本経済が成長できないのかをライドシェア問題を通じて考察されている。

タクシー不足や経済活動の活性化など、ライドシェア全面解禁が経済に与える影響が議論されている。

経済の視点から、日本経済が成長できない根本的な要因を考察し、議論を深める記事。

(要約)

( 184420 )  2024/06/25 17:22:14  
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photo by gettyimages 

 

 日本版ライドシェアを巡って有力政治家の間での議論が盛んになっています。 

 

 つい先日まで、焦点は全面解禁に踏み切るかどうかでしたが、推進派と慎重派の間では結論が出ず、最終的に岸田文雄首相による裁定となり、解禁は見送られました。 

 

【写真】「ペイペイの毒」に潰されたキャッシュレス企業…その残酷すぎる末路 

 

 ライドシェアを巡る論争自体も大きな話なのですが、一歩俯瞰してみると、この論争は日本経済停滞というより大きな社会問題の縮図でもあります。わたしたちが疑問を持っている「なぜ世界経済の中で日本経済だけが成長できていないのか?」が、実はライドシェア問題から理解できます。 

 

 そこで今回の記事では、なぜ日本経済が成長できないのかをライドシェア問題を切り口に解説したいと思います。 

 

いま日本はタクシーが全く足りていない…Photo/gettyimages 

 

 まずは個人的なエピソードから。 

 

 つい先日、高齢の母が検査で大病院に出かけなければならなかったのですが、あいにく当日の予報が大雨だということがありました。前日からタクシーアプリでタクシーを予約しようとしたのですが、日本版ライドシェア含めてタクシーはすべて売り切れで予約ができません。 

 

 結果として私が午前中の仕事のアポイントを急きょリスケしてもらい、母を病院まで自家用車で運ぶことになりました。 

 

 ささいな日常の話に見えますが、この話が経済のどのようなメカニズムから起きているのかを考えてみます。 

 

 東京23区内では法人個人あわせてタクシーが約42000台走っています。 

 

 個人タクシーは法人タクシーのように長時間稼働できませんから、稼働台数は平均すれば3万台程度でしょう。 

 

 もともと高齢化が進んでいたところにコロナによる離職が起き、その後、インバウンド需要の増加で都内ではタクシーが本当につかまりにくくなっています。 

 

 4月から始まった日本版ライドシェアでは、サービス開始から約一カ月で東京都の稼働台数はのべ1760台です。一日あたりでみれば60台以下と需要にはまったく足りていないことが数字からわかります。 

 

 それはまだ始まったばかりだからというかもしれません。 

 

 でも日本版ライドシェアで一番多くの枠が設定されている金曜日深夜(土曜日0時~4時)の上限枠は2540台ですから、この先、ドライバーの数が増えたとしてもピークでもタクシー全体の10%程度の需要増しか補うことができません。これが今、生活者が不便を感じているタクシー不足のメカニズムです。 

 

 

落ちていく日本…Photo/gettyimages 

 

 いま議論されているライドシェアの全面解禁が起きると、この状況はどうなるのでしょうか。 

 

 規制された日本版ライドシェアと違い、アメリカのウーバーが世界各国で導入しているようなライドシェアではダイナミックプライシングが導入されます。 

 

 私の家から大病院までタクシーなら1200円程度の運賃ですが、ウーバーの場合、大雨だとか深夜だとか需要の多い時間帯は運賃が需給のメカニズムによってあがります。たとえば私の例では大雨の日ということで同じ距離の運賃が2000円にあがったりするわけです。 

 

 すると市場原理が働きます。低い運賃なら家で遊んでいる人が、ちょっとの距離を運んで2000円稼げるのならドライバーの仕事をしようと手をあげるのです。需要の多い日は運賃が上がり、結果として供給がダイナミックに増えるという現象が、ウーバーがベンチャー企業だったころに発見したイノベーションでした。 

 

 もし日本でライドシェアが全面解禁され、グローバル版のライドシェアにアップグレードされたら、この現象が日常的に起きます。 

 

 では、全面解禁されたらどうなるか。 

 

 わたしの場合を例にとって、経済効果を考えてみましょう。 

 

 私は半日仕事をリスケしたのでその分、GDPが下がったことになるのですが、ライドシェアが解禁されればわたしもこの日は働いていたでしょう。さらに別の人がわたしの母を病院まで運びGDPを2000円押し上げていたはずです。 

 

 それが国全体で起きます。首都圏のターミナル駅でタクシーを待つ長い行列が解消されますし、移動をあきらめていたひとが移動を増やします。ドライバーの収入が増えるだけでなく経済活動も活発化します。 

 

 つまりライドシェア解禁をすれば経済成長が起きることは「他国の事例からわかっている」ことなのです。 

 

 一方でライドシェア解禁はタクシー会社やタクシードライバーの仕事を奪うという議論があります。大義名分としては安全が導入慎重派の錦の御旗ですが、現実の集会では「仕事を守るぞ」とシュプレヒコールが上がっているのは周知の事実です。 

 

 国土交通省が解禁に慎重なのも、一部の政治家が導入に反対なのも、これらの意見を重視した結果です。 

 

 この記事ではライドシェアを解禁すべきかどうかについてはこれ以上は論じません。そうではなくて、この問題からなぜ日本経済が成長できないのかを理解しようというのが今回の記事の本筋です。 

 

 後編「なぜ日本経済は成長できないのか…日本から「天才たちが逃げる理由」を「ライドシェア解禁見送り」から解説します!」では、今回起きたことを、経済成長の視点で見直していきたいと思います。 

 

鈴木 貴博(経営戦略コンサルタント) 

 

 

 
 

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