( 185540 )  2024/06/29 01:44:36  
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赤字でも黒字でも、批判が寄せられるNHK。稀有な組織と化した印象ですが、NHKのこれまでの商売の仕方への不満が積もった結果と言えるのではないでしょうか(写真:ニングル/PIXTA) 

 

NHK(日本放送協会)が34年ぶりの赤字決算となり、SNS上では経営体制を批判する声が相次いでいる。しかし、過去のSNSの反応を振り返ってみると、NHKは「黒字でもたたかれる存在」であることがわかる。 

 

【衝撃グラフ】34年ぶり、136億円もの巨額赤字のNHK。しかし、例年は200~400億円もの利益が…受信料の値下げが原因? 

 

決算がどちらに転んでも、バッシングの的になるのは、なぜなのか。長年SNSを中心に、メディアを見てきた立場から、背景を考察してみると、NHKそのものへの違和感と、テレビ業界全体への疑念、そしてライフスタイルの変化が絡み合った結果なのではないかと感じる。 

 

■NHKの赤字決算は34年ぶりの出来事 

 

NHKは2024年6月25日、2023年度の単体決算を発表した。事業収入は、受信料の減収等により、前年度比433億円減の6531億円に。増減率は前年比マイナス6.2%となった。一方の事業支出は、前年度(6702億円)から微減の6668億円に。結果として、収支で見ると136億円の赤字となった。 

 

NHKの赤字決算は1989年度以来、34年ぶりの出来事となる。収入が減った背景には、受信料の値下げがある。事業収入のうち、受信料収入のみを見ると、前年度の6725億円から5.9%減の6328億円となっている。 

 

NHKは2023年10月、受信料を1割値下げし、たとえば衛星契約は月2170円から1950円になった。あわせて学生免除の対象者を拡大させた結果、大幅な減収につながったと報じられている。 

 

ただ、値下げから半年で5.9%減となれば、年間で見ると、受信料の値下げ幅である1割を超えることになる。なお、予算の段階では280億円の赤字を見込んでいたが、これでも赤字額は136億円に抑えられている。 

 

今回の赤字決算を受けて、SNS上ではNHKをたたくような投稿が相次いでいる。多くは「どうして赤字になるのか」「もっと経費を削減できないのか」というもので、職員の給与を減らすことで、赤字を埋めるよう求める声も相次いだ。 

 

そんなNHKだが、SNS上では「黒字でもたたかれる組織」でもある。黒字決算だった2022年度以前の投稿を見てみると、「民間企業でないのに利益を上げるのはおかしい」「黒字なのであれば、そのぶん受信料の値下げに充てるべきでは」との指摘があった。赤でも黒でも、なにかとバッシングの的にされやすい存在なのだ。 

 

■嫌われる理由は「NHK」と「テレビ全体」の2因 

 

ではなぜ、NHKは嫌われるのだろうか。ネットメディア編集者として10年以上、ネットを見てきた筆者としては、大きく分けて「NHKそのもの」と「テレビ全体」の2方向に問題があると思われる。まずはNHKそのものの「たたかれやすい背景」を考えてみよう。 

 

SNSを眺めていて、一番伝わってくるのが、「殿様商売への反発」だ。テレビ受像機があれば、その家からは受信料を徴収できる。それを根拠にして、ことあるごとに受信料を払うよう求めてきて、困惑したといったエピソードは、ネット上でも多々見られる。 

 

後にも説明するが、「一家に一台はテレビを置いている」という前提が崩れた現代では、果たして自分の生活に必要なのかと、立ち止まって考える人も多い。解約か継続か、つまり「ゼロ円か、2000円か」の2択で悩む人々は、そもそも1割値下げした程度で「安くなった感」を得られない。 

 

 

いくらNHKが「あなたたちが求めるから、値下げしましたよ。だから赤字になっちゃいました。てへぺろ」とアピールしたところで、「NHK離れ」が進んでいる人を引き留められるほどの吸引力を持っているかというと、そうとは思えないのだ。 

 

■「清廉潔白さ」への違和感 

 

疑念が生まれる要素は、受信料制度にとどまらない。つづいて考える背景は「『清廉潔白さ』への違和感」だ。 

 

全国に取材網を擁していて、ことある事件・事故のたびに「記者が居合わせている」ことで有名なNHKではあるが、内部構造は一見よくわからない。 

 

その「社風」も見えてこない。一般的には「お堅い人々の集まり」と認識されているようだが、フリーに転身した元NHKアナウンサーらを見ていると、在職中は胸に秘めていた「おちゃらけ要素」を、民放進出でさらけ出すケースは珍しくない。そのギャップが強ければ強いほど、視聴者は「伏魔殿なのではないか」とのイメージを強くする。 

 

そこに加えて、「『たたける存在』として認識された」。選挙シーズンなので、言及は控えめにするが、2016年ごろから「NHKをぶっ壊す」のフレーズが、一種のネットミームになったことにより、「NHKはバッシングしていい存在だ」との認識が広がった。先に挙げた疑念たちを言語化されたと、好意的に受け止める人が出てきてもおかしくはないだろう。 

 

「NHKたたき」の背景には、テレビ業界全体が抱える課題もある。まずは「報道への不信感」だ。 

 

「マスゴミ」なる蔑称が普及して久しいが、とくにSNSで発信する層は、マスメディアへの信頼が薄いように感じられる。 

 

インターネットでは、アルゴリズムの進歩により、あらゆる情報が「個人の興味」に応じて出し分けられるようになった。そこへ身を委ねるライフスタイルが定着するほどに、現代人は「自分に合った情報」に浸る心地よさを享受している。 

 

そうした中においては、マスメディアの指向する「正しい報道」や「価値のある報道」は、あまり重要視されない。あくまでユーザーは「自分にとって都合のいい情報や論調」が欲しいのであって、「正しい」とか「価値がある」などと他者に判断されることに嫌悪感を覚える。その判断者が大きければ大きいほど、それらへの反発は強まり、不信感は増していくのだ。 

 

このようにメディア接触をめぐる態度が変わるのと並行して、テレビの代替となるサービスが台頭してきた。YouTubeにレコメンドされるままに連続再生すれば、テレビと同様に「動画コンテンツの垂れ流し」を味わうことができる。 

 

 

ただ単に情報のシャワーを浴びたいだけならば、制作者が誰であるかは関係ない。放送局のコンテンツである必然性を感じさせられなければ、あえて受像機を通して、テレビ番組を見る必要はないのだ。 

 

そうした意識の変化に、ようやく放送局側も気づいたのか、ここに来てネット配信サービスに注力し始めた。NHKは「NHKプラス」を開始したほか、民放各社も「TVer(ティーバー)」を通して、気軽にリアルタイム配信や、見逃し視聴ができる環境を整え始めた。 

 

しかしながら、こうした取り組みは、さらなる競合との戦いの序章に過ぎない。NHKのみ見られるサービスは、あくまで局ブランドの専門店でしかない。Netflixのような、ブランド横断型のサービスと比べると、まだまだ優位性がアピールできていないように思える。 

 

■視聴者のモヤモヤの解消に真面目に向き合うべきだ 

 

このように、NHKそのものに対するモヤモヤと、テレビ業界全体への違和感、そしてネット社会になったことによる、コンテンツ消費の変化などが複雑に入り組んだ結果、「どう転んでも、たたかれる」といった雰囲気が醸成されたのではないか。このサンドバッグ状態から抜け出すために、NHKにできることがあるとすれば、やはり地道に「受信料を払う価値のある対象だ」と認識してもらうしかない。 

 

NHK契約者の中にも、残念ながら「民放を見るために、仕方がないから契約している」という視聴者は、それなりの割合で存在するだろう。そうした人々は、チューナー不要のTVerの誕生によって、いつNHKを解約するかのカウントダウン状態にある。 

 

今回は「値下げ」が赤字要因とされているが、契約者数の減少もまた、さらなる減収につながる大きな要素となる。これまで以上に、優良コンテンツの制作を進めるなどの対策を取らない限り、「NHK離れ」は確実に進んでいくはずだ。 

 

城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー 

 

 

 
 

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