( 185755 )  2024/06/29 17:11:49  
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池袋駅東口のシンボルである池袋西武。駅直結の北口側がヨドバシカメラとなる。並びにはビックカメラ、はす向かいにはヤマダデンキが店舗を構える(撮影:梅谷秀司) 

 

 池袋駅東口の景色が大きく変わろうとしている。 

 

 家電量販大手のヨドバシホールディングス(HD)は6月21日、池袋駅東口に化粧品や美容家電などを取り扱う新業態「Yodobloom(ヨドブルーム)」をオープンした。ここはもともと西武池袋本店(池袋西武)1階の免税カウンターがあった場所。西武池袋駅の改札前に位置し、まさに池袋の玄関口といえる。 

 

【画像】池袋の玄関口にオープンしたヨドバシの美容新業態「ヨドブルーム」 

 

 2023年9月にセブン&アイHDは、大手百貨店のそごう・西武をアメリカの投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却した。フォートレスはヨドバシHDと組み、池袋西武へのヨドバシカメラ出店を進めている 。そごう・西武が所有していた池袋西武の土地は、約3000億円でヨドバシHDが取得した。 

 

■売り場、ショップ数とも半減 

 

 「完璧な百貨店の形態はやはり難しく、いろんなものを寄せ集めた売り場構成という印象はが拭えない」。池袋西武のリニューアル案を見たそごう・西武の関係者は、そう評価する。 

 

 6月10日、そごう・西武は2025年夏のグランドリニューアルオープンに向けた池袋西武の新しい売り場計画を発表した。池袋西武全体の売り場面積は約8万8000㎡だが、これがリニューアル後は約4万8000㎡と半減する。現在、池袋西武内のショップ数は745店だが、改装後は約380ショップとなる。 

 

 売り場構成は「近年お客さまからもっとも支持されている」(そごう・西武のリリース)ラグジュアリー、コスメ、デパ地下を中心に強化する。ラグジュアリーとコスメは各およそ60ブランドを展開予定で、売り場面積はそれぞれ現状より約1.3倍、約1.7倍広げるという。 

 

 デパ地下には「西武池袋本店のパワーコンテンツを集積」(同リリース)し、新ブランドを含む約180ショップ(改装前は約200)を展開する。 

 

 池袋西武の土地などがヨドバシHDの所有になったことで、池袋西武自体も家賃を支払って出店する1つの「テナント」となる。今までは池袋駅の改札付近を中心に南北に延びる店構えだったが、駅利用の利便性が高い北側には家電量販のヨドバシカメラの大型店が入居する予定だ。百貨店として集客力を維持できるかが要となる。 

 

 

 そごう・西武は池袋西武の本格的な改装工事に着手し、2025年1月から段階的にオープンする見通しだ。同店では地下2階で展開していた食品スーパー「ザ・ガーデン自由が丘」を今年1月末に閉店した。 

 

 また、池袋西武の改装案は「基本的にそごう・西武が主体となって決めたもの」(前出と別の関係者)というが、ヨドバシHDが展開するスポーツ小売りの「石井スポーツ」との兼ね合いもあり、池袋西武8階で展開していた「西武スポーツ」も5月末で閉店している。 

 

■「百貨店半減」で従業員はどうなる 

 

 百貨店の改編で懸念されるのが、雇用の問題だ。正社員は前の親会社であるセブン&アイHDが今年の春から出向を受け入れているほか、現在の親会社であるフォートレスへの出向も検討されているもよう。また、池袋西武との店舗契約社員のうち、8月末までに退職の判断をした人を対象に「転身支援金」を支給することも明らかになった。 

 

 ラグジュアリー、コスメ、デパ地下のように重点展開する売り場がある一方、当然ながら縮小する売り場もある。筆頭が衣料品だ。現在は婦人服を主に3・4階、紳士服を5階で展開しているが、改装後は7・8階に雑貨、催事場、アートサロンが置かれ、その中にファッションも集約される。 

 

 関係者は「衣料品のナショナルブランドは、そごう・西武の(地方などの)標準店で重要な役割を果たしている。池袋から撤退を迫られれば、地方からも撤退するブランドが増えるのではないか」と影響を危惧する。 

 

 また、ブランドから売上高に対するマージンを得るビジネスモデルの百貨店として、一般的にマージンの売上高比率が高い衣料品が縮小することは、収益構造に対する影響も大きい。 

 

 関係者によると、そごう・西武が出店ブランドから得ている(対売上高の)手数料率より、ヨドバシHDがそごう・西武に対して求める家賃料率のほうが高い状態になっているという。 

 

 その差額分がそごう・西武の持ち出しとなれば収支は悪化する。マージンの売上高比率が低いと言われるラグジュアリーブランドが増え、利率の高い衣料品が縮小すれば、百貨店の利益率が低下することは免れない。売上高拡大が改装後の重要課題となる。 

 

■池袋西武は「外商」が強みだったが 

 

 改装計画のリリースには、「そごう・西武の強みでもある、お得意様向けの外商機能も今後さらに強化して参ります」と外商の維持についても言及がある。ただ「取扱商品の偏りは、池袋西武の外商にも影響を及ぼすのではないか」と懸念する声も聞こえてくる。 

 

 

 もともと池袋西武は、外商と呼ばれる上得意客向けの販売に強みを持っていた。外商は基本的に百貨店の店舗で販売する商品を紹介することが多いが、展開商品の偏りは販売力にも影響する。人材面でも、最近は池袋西武の外商員が他の百貨店に移ったり、引き抜かれたりしているという。 

 

 もっとも雇用や営業面についての懸念は、フォートレスへの株式譲渡前から、そごう・西武の労働組合などが問題提起してきた。「出向を受け入れるといっても、百貨店業務から仕事の内容や質は大きく変わる。同じ額面の給料を渡せばいいという話ではなく、会社は労働へのデリカシーを持たなければならない」(そごう・西武関係者)。 

 

 足元の百貨店業界はインバウンドを中心に、高額品などの販売が好調そのものだ。そごう・西武の「新しい百貨店」もその流れに乗ることができるか、来年のリニューアルオープンが注目される。 

 

山﨑 理子 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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