( 185875 )  2024/06/30 01:21:43  
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オオカミ型ロボット「モンスターウルフ」 

 

「WBSクロス」今回のテーマは、全国で被害が相次ぐ「クマ」です。人への警戒心が薄れ、街に下りてくるクマが増える中、テクノロジーで対策を打つ動きを取材しました。 

 

 

 

札幌から車でおよそ1時間半、北海道・砂川市。1万5000人ほどが暮らすこの町を悩ませている問題があります。 

 

ある民家に市の職員がやってきました。取り出したのは1枚の紙。道路を横切るヒグマの姿が映っていました。市の職員の相談相手は「北海道猟友会」砂川支部の池上治男支部長。40年近くヒグマハンターとして活動しています。 

 

砂川市では5月以降、冬眠明けのヒグマが相次いで出没。既に17件の目撃情報が寄せられています。池上さんは状況を把握するため、急いで写真の現場へ向かいます。 

 

「(ヒグマは)水を飲みに来るシカを襲うとか、そういう行動をしている」(池上さん) 

 

池上さんは車から降りるときに大声を出します。クマは臆病なため、大声を出せば不用意に近づいてきません。周囲の鳥の動きなどで当たりをつけ、草むらに入るとシカの死骸がありました。 

 

「やっぱりクマ来ているな。その後ろ足、全部食べられている。ヒグマが食べた」(池上さん) 

 

少し離れた場所でも手足だけになったシカの死骸がありました。 

 

次の日、再び取材班が同じ現場を見に行くとシカの死骸はなくなっていました。クマが持ち去ったようで、フンだけが残されていました。 

 

クマを仕留めるハンターの数は最盛期から半減 

 

鳥獣による農作物の被害は全国で156億円。ここ数年は横ばいが続いていますが、クマの人身被害を見ると、昨年度は過去最多の198件。東京都内でも昨年度211件の目撃情報がありました。 

 

一方、そのクマを仕留めるハンターの数は最盛期から半減し、現在およそ22万人。多くが60代以上で、後継者不足も深刻です。 

 

砂川市の隣町である奈井江町では人手不足や報酬の低さなどを理由に、地元の猟友会がヒグマの駆除を断るという事態にまで発展しました。 

 

「若い人に誰でもハンターになれと言えない。(ハンターは)簡単にできない」(池上さん) 

 

 

害獣の自動検出AI「Bアラート」 

 

クマ対策の現場で深刻な問題が起きる中、テクノロジーで解決しようという動きも出ています。石川・小松市の農林水産課で鳥獣対策を行う埴田大助さん。 

 

「今年は(去年の)倍近くまで現在(クマの)出没が確認されている」(埴田さん) 

 

人数が減ったハンターへの依頼を増やすわけにもいかず、ある仕組みを導入しました。 

 

埴田さんが向かったのは市内の里山。木の幹に定点撮影用のカメラをくくりつけました。赤外線センサーで動物を感知し、自動で撮影できます。 

 

クマが出没すると映像が撮影されます。その映像は福井市にある通信会社「ほくつう」へと送信され、そこでほくつうが独自に開発した害獣の自動検出AI「Bアラート」がクマかどうかをスコアリングします。 

 

「トータル約5万枚の画像を学習してAIをつくっている」(「ほくつう」企画開発課の藤枝勝己課長) 

 

Bアラートで80%以上の数字が出た場合だけ、小松市に通知されるという仕組みです。 

 

「約500枚の(さまざまな)画像のうち、1枚、2枚の(クマを)選別可能」(藤枝課長) 

 

Bアラートは自治体の利用が拡大し、現在は北陸を中心に7県15自治体で導入されています。 

 

「職員だけに頼るとどうしても限界があるので、(クマの存在を)住民に速やかに伝えることで安全確保の第一歩につながる」(埴田さん) 

 

海外からの引き合いもある「モンスターウルフ」 

 

クマなどによる被害をテクノロジーで解決しようという動きが広がる中、北海道・上砂川町が先月導入したのは、オオカミ型ロボット「モンスターウルフ」です。赤外線センサーで動物の接近を確認するとLEDランプを光らせ、オオカミや人間など50種類の声で威嚇します。 

 

導入した上砂川町有害鳥獣担当の片岡貴弘係長は「対策に苦慮しているので、検証して効果が得られればと思って設置した」と話します。 

 

モンスターウルフを開発したのは北海道でLED機器の製造などを行う町工場「太田精器」です。培ってきたLEDの加工技術を生かし、専門家の協力を得て実証実験を重ねたといいます。 

 

「(開発当初は)子供だましや思い付きでつくったとよく言われて、あまり相手にされない頃もあったが、だんだん引き合いが増えた」(「太田精器」の太田裕治社長) 

 

実際にモンスターウルフが使われたときの映像を見ると、ロボットに気づいたクマやイノシシが逃げたり、人間の声で追い払うときも一定の効果があるようです。 

 

現在、大阪や鹿児島などの自治体が約250機導入。獣害に悩むアメリカなど海外からも問い合わせが来ています。 

 

「都会の住宅地に(クマが)出た場合は鉄砲も撃てないし、このモンスターウルフの活躍には可能性がある。人口減少、高齢化、耕作放棄地が日本全国で増えていくわけだから、獣害が増えるのは将来における日本の社会問題の一例」(太田社長) 

 

※ワールドビジネスサテライト 

 

 

 
 

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