( 186055 ) 2024/06/30 16:23:25 0 00 Adobe Stock
札幌ドームの2024年度3月期決算は6億5100万円の赤字、最終収益は前期比で7億7100万円の減少となり、苦しい経営状況が明らかとなった。予想できていたこととはいえ、まさか赤字がこれほど増えるとは思わなかった読者も多いのではないか。ライターの小林英介氏が札幌ドーム経営の惨状をレポートするーー。
6月21日、札幌ドームを運営している札幌市の第三セクター「株式会社札幌ドーム」の株主総会が開かれ、経営状況について報告された。
「プロ野球をやらせてくれないのでね」
総会後、記者団の取材に応じた札幌ドームの山川広行社長は、苦虫を嚙み潰したように話した。今年1月から募集している命名権(ネーミングライツ)への応募も未だない状態。北海道日本ハムファイターズが札幌ドームを離れ、北海道北広島市にある「エスコンフィールド北海道」に移転してからというもの、札幌ドームにとってネガティブな報道が相次いだ。
「札幌ドームの末路」
「日本ハムから逃げられた札幌ドーム」
当初は2億9400万円の赤字を予想していたとはいえ、それをも上回る大きな赤字になった。山川社長の「やらせてくれない」などという姿勢から見ても、札幌ドームの再建への道のりは、引き続き厳しいと言わざるを得ないだろう。会見の中で、山川社長は「見通しが甘かったのではないか?」との質問に「それには抵抗がある。うまくいかなかったのは事実。しかし、挑戦したことは挑戦した」などと述べ、2024年度には黒字化を目指すと表明した。
札幌ドームは、株主総会と同日に公表した資料の中で、「新規自主イベントとして『全開エール』や、札幌ドーム開業以来初めてとなるフェス形式のイベント『SAPPORO MUSIC EXPERIENCE2024』が開催されるなど、コンサートやコンベンション、アマチュアスポーツの利用日数が増加した」と強調。しかし「北海道日本ハムファイターズの公式戦の開催がなくなったことが影響し、総イベント開催日数は前期比26日減の98日となりました」「貸館事業・商業事業・広告事業を含むその他営業収益では大幅な減収となりました」などとして、2021年3月期以来、4回目の赤字になったとした。
札幌ドームでは、新しい需要への対応として、10億円をかけて「新モード」なるものを整備。黒い幕でドーム内を区切ることで、2万人前後のコンサートなどを開くとしていたが、数日の利用のみにとどまっていた。
「新モード」と札幌ドームをめぐっては、お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣氏が「窮地に追い込まれている札幌ドームの『そうじゃない感』」と題して自身のブログを更新。「とくに札幌ドーム関係者の方は耳を傾けていただけると嬉しい」などと切り出し、「まず『札幌ドーム』ウンヌン関係無しに、そもそもの問題として『北海道公演』が昔から鬼門」「北海道って他の都市に比べてシンプルにお客さんの集まりが悪い」「お客さんが集まらない割に、機材移動費がメチャクチャ高い」「たとえば『札幌ドーム』でライブがあったとしても、道外のお客さんを数万人運ぶだけの「移動手段」がない」などと解説。そして「判断がイチイチ間違っている…というか、(何の根拠もない)素人の思いつきの域を超えていない」「自分達で判断するのではなく、ちゃんと現在進行形で結果を出しているプロを雇って、その方の言うことを聞いてください」とアドバイスしていた。
現在、集中的に札幌ドームを使用しているのは、サッカーJ1リーグの北海道コンサドーレ札幌だが、成績が芳しくない。いや、最悪だ。けが人が相次いでいることなどもあり、20チーム中20位と最下位。6月26日の対FC東京戦(味の素スタジアム)では0-1で敗戦。リーグ戦では、5月15日(対ジュビロ磐田戦)以来の白星はお預けとなった。今季は札幌ドームでホーム21試合が行われるが、「このまま成績が低迷すれば、コンサドーレとともに札幌ドームも厳しい状態になる」との認識もちらほらとある。
そのような中で、札幌の三上大勝代表取締役兼GMが5月29日に声明を発表。「クラブは、今シーズンの最後までミシャ監督と戦う決意をしました」と、札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督の続投を表明したと思えば、「今シーズンをクラブとミシャ監督との集大成として考えている」として今季限りでの監督退任も示唆した。
クラブは戦力の補強として6月21日、大﨑玲央選手が完全移籍で加入することを発表。現在もJ1で強さを見せているヴィッセル神戸などに所属していた経験があることもあり、期待の声は大きい。
J1リーグは6月26日から後半戦に入った。札幌の今季最終戦はホームで柏レイソルを迎える。このとき、札幌がどのような状況になっているのかは定かではないが、対策をできるだけ施して安心してJ1に残留できるよう、願っている。
6億円以上の赤字計上となった札幌ドーム。経営が厳しいことには変わりないが、札幌ドームによれば、今年も様々なイベントなどを計画しているという。今年度のイベント実施予定数は123日。昨年度より25日増えることとなる。来年の今頃、札幌ドームはどのような状況になっているのだろうか。
札幌ドームを巡っては、2016年頃に浮上した「ボールパーク構想」で、札幌・北広島の両市を誘致合戦へと駆り立てた。北広島市側は前述の「きたひろしま総合運動公園」の土地活用案を提示したのに対し、札幌市側は①札幌市豊平区の学校法人が所有する土地と、隣接する土地の一体的活用、②北海道大学構内の一部(札幌市北区)、③道立真駒内公園(札幌市南区)の3候補地を提案した。
検討したところ、「きたひろしま総合運動公園」案はアクセスの課題のみ、懸念の声があった。一方の札幌市側が提案した3案は、「学生への影響」「面積不足」(北大構内など)、「大規模開発ができない」「地元住民らが反対」(真駒内案)といった理由で移転交渉が停滞。札幌市側の提案は「万事休す」状態のまま進み、球団側が新本拠地の候補地を北広島に決めたと発表するに至ったのだ。
球団側にこれほど札幌ドームから移転したいと強く決断させた背景の一つに、使用料の問題がある。札幌ドームを運営しているのは、札幌市の第三セクター「株式会社札幌ドーム」(山川広行社長)。とはいっても、札幌市が55%出資しているため札幌市が運営しているも同然である。
球団側は、球場を使用する際の「使用料」のほか、ドームのリース料、物販収入、飲食物による収入など、数十億円にも上る収入をドーム側に支払っていた。「さすがに経営に影響する」と球団側が値下げを要求したこともあったが、それを拒否。2016年4月にはドーム側が札幌ドームの使用料、いわゆる消費税分の値上げに踏み切った。
それに業を煮やした球団側は、新本拠地への移転へ向けて動きを加速させていったとみられる。球団側が本拠地への移転を決定した際には、以下のような批判がみられた。
「札幌市側は球団側から頭を下げられ、『やっぱり移転しない』と言われると思っていたのではないか。しかし、球団側は新本拠地を北広島に決めた」
「札幌市側の対応は遅きに失した。札幌市民は『どうして日本ハムが札幌からいなくなったのか』と怒っている」
小林英介
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