( 186640 ) 2024/07/02 16:05:42 0 00 舛添要一氏 Photo by Wataru Mukai
派閥は悪なのか。政治資金はなぜ透明化できないのか。「派閥とカネ」に関する素朴な疑問を当事者らにぶつけた。テレビや新聞の報道からは見えてこない問題の真相に迫る。連載の第3回は、元東京都知事の舛添要一氏。国会議員のキャリアを持つ政治学者として、実践と理論を兼ね備えた見地から「政治資金パーティーこそ最も健全」と断言。「叩かれるのは承知の上」と強気の姿勢を崩さない。自身も「カネ」の問題で痛い目を見た同氏に、マスコミや世論と真っ向から対立する主張の中身を聞いた。(取材・文/ライター 田之上 信)
【画像】石破茂、高市早苗、鈴木宗男…連載「派閥とカネ」の証言者たち
この連載は、派閥論の名著と名高い渡辺恒雄氏の『派閥と多党化時代』(雪華社)を復刊した『自民党と派閥』(実業之日本社)を事前にお読みいただいたうえで取材をしています(一部を除く)。連載の新着記事を読み逃したくない方は、連載のフォローがおすすめです。メールで記事を受け取ることができます。 ――渡辺恒雄氏の『自民党と派閥 政治の密室 増補最新版』を読まれて、どのような点に興味、関心を持たれましたか。
実はね、私は原著の『派閥と多党化時代』を大学1年のときにリアルタイムに買って読んでるんですよ。もう黄色くなってボロボロですが、いまも大事に持っていて、奥付を見ると1967年の初版ですね。当時は450円だったんだね。
私は国際政治が専門ですが、最初は日本の政治を研究していたんです。東大の教員になるための就職論文も、テーマは自民党の研究で、吉田茂の政治指導について書きました。この本も参考にしました。
――古本はいま2万円ぐらいするんですよ。超プレミア価格がついています。
そうなの? 捨てないでよかった(笑)。実は東京都知事時代に知事室にかなりの量の本を置いていたんですけど、急に辞任することになり、本を持って帰る時間がなくて、ほとんどの本を処分せざるを得なかったんですよ。この本は自宅にあったから災難を免れた(笑)。
それは余談として、この本は本当に渡辺さんが記者として足で歩いて書いたという感じがすごくします。自民党の派閥とは何かを最初に研究した、また本格的に研究した本ですから、いまも古書として価値があるんだと思います。今回、新しい本が出てよかったなと思います。
【続きの目次】 ・結局、政治にはカネが必要だ ・都知事選で実感した自民党の“力” ・ヒトもカネもない……同級生に依頼した「ポスター貼り」 ・「政治資金パーティーが最も健全」である理由 ・「政治資金パーティー禁止」で政治はより腐敗する?
――自民党の派閥による政治資金パーティーの裏金事件を受けて6月19日に改正政治資金規正法が成立しました。パーティー券購入者の公開基準を現行の「20万円超」から「5万円超」に引き下げられましたが、企業・団体献金は維持されました。どのように見ていらっしゃいますか。
結局、政治にはカネが必要なんです。たとえば有権者の声を聞かないといけない。代議士本人が国会にいるときは、地元に秘書を張り巡らせないといけないんですよ。
私は世田谷区在住ですが、世田谷区は広いですから、事務所が1つではダメで、仮に5つ置いたら、家賃が7万円だとして35万円。光熱費などもかかるし、各事務所にスタッフを1人ずつ置いたら5人分の給料が必要になる。
秘書3人までは公費で賄えますが、私設秘書2人分の人件費は誰が出すのか。政党交付金などもありますが、そんなものじゃ全然足りないですよ。そうすると、おカネを捻出できなければ、政治家としての活動が制限されることになるわけです。
それと選挙システムに問題があります。日本の選挙は非常にカネがかかるんです。たとえば、ポスター掲示板。あんなムダはないです。あのポスターはプロのカメラマンに撮ってもらったりして、自分でつくって、しかも1枚1枚自分たちで貼るんですよ。さらにポスターにはすべて選管の証紙を貼らなければいけない。
――ポスターのことなど気にもしていませんでした。
99年に初めて東京都知事選挙に出たときは無所属だったので、非常に苦労しました。多摩地域の有権者から事務所に電話がかかってきて、まだポスターが貼られていませんよと。東京都といっても伊豆諸島とか青ヶ島とか八丈島とか、どうやって貼りに行けばいいのかと。
結局、私はポスター貼りが間に合わず、最後は高校時代の同窓生なんかに手伝ってもらいました。おカネがないから、ボランティアに頼るしかないわけです。
その後、自民党に推されて都知事に出たときは、選挙の公示日の朝にはバーッと一斉にポスターが貼られていました。それは自民党支部の人たちが貼ってくれるんです。多摩で伊豆諸島でもどこでも。さすが大組織だなと思いましたよ。
野党も、共産党は共産党支部があるし、立憲民主党は連合がバックについているから全部貼ってくれるわけです。
あとは選挙カーなんかもなくすべきです。おカネがかかるし、うるさくてしょうがない。住宅街で大音量を流されたら迷惑ですよ。
こういういろいろな選挙運動にスタッフを雇ったりして、とにかく選挙にはおカネがかかるんです。だから志のある若い人なんかが、無所属で個人で出ようって思っても非常にハードルが高いシステムになってるんです。
――政治活動、選挙運動にはどうしても多くの費用が必要になるということですね。
そうです。だから選挙制度を変えない限り、政治にはカネがかかるんです。そうした現状がある中で、そのカネをどこかから捻出しなければいけない。そうすると寄付・献金に頼るしかないわけです。
ところが、日本は欧米のように個人が寄付や献金をする文化が根づいていません。特に政治家に対してはですね。個人の寄付は年間1団体につき150万円まで認められていますが、基本は企業・団体に頼るしかないんです。結果、政治資金パーティーということになるわけです。
私はむしろ、政治資金パーティーが最も健全な資金集めの方法かもしれないと思っています。それが禁止になれば、より悪質なカネ集めの手法が出てくる可能性があります。
今回、自民党がパーティー券購入者の公開基準を「10万円超」にしようとがんばったのは、パーティー券1枚2万円を10万円分、200の企業・団体が買ってくれたら、2000万円になるじゃないですか。いろいろ経費などを差し引いても、私設秘書の給料分ぐらいは捻出できるわけです。
でも結局、公開基準が「5万円超」まで引き下げられた。そうすると実質2枚で4万円の売り上げしかない。2000万円集めるには500の企業・団体に買ってもらわなければいけない。それは非常に難しいので、半分として1000万の売り上げになっちゃうわけですね。そうすすると、経費を差し引いて300万ぐらいしか残らない。これではどうしようもない。
自民党の議員の中に「やりきれない」っていう人が増えてるのは、実はそういう意味なんです。それで政治資金パーティーがダメなら、どうするのか。それこそワイロをもらうようなことになりかねないんですよ。私に言わせれば、ヤバい橋を渡る人間が出てきかねない。
――より悪い方向に進む懸念があるわけですね。
そう思います。そもそも今回の問題の発端は、裏金だったわけです。政治資金パーティーそのものが悪いわけではない。私自身もかつていよいよ金欠になったときに、たった2~3回ですが、パーティーを開きました。それで生き延びられたという経験があります。
実際、パーティーをやめろと言っていた立憲民主党の幹部がパーティーを開こうとして、叩かれてやめたじゃないですか。あなたたちもやってたわけでしょと。なぜ野党がパーティーを開くかというと、それが一番健全な資金集めだからじゃないですかと。
なぜそのことを言わないのか。それ言うとマスコミに叩かれ、世論の批判を受けて、次の選挙で落とされてしまうからでしょう。
繰り返しになりますが、政治資金パーティーそのものは悪くないんです。裏金は政治資金規正法違反だからよくないんだけど、そういう実態をいま誰も言わない。私は現役ではないので、叩かれるのは承知の上で言いますよ。
私は、政治資金パーティーで集めたカネを、不適切に私利私欲のために使っている代議士は基本的にいないと思っています。
このパーティーの制度が使えないなら、法の抜け道をいろいろ考える人が出てくる可能性があると思いますね。
中編:派閥解散は愚の骨頂!このままでは独裁国家に成り下がる…舛添要一が指摘する「日本衰退の主犯」は7月4日(木)に公開予定です。連載の新着記事を読み逃したくない方は、連載のフォローがおすすめです。メールで記事を受け取ることができます。
ダイヤモンド・ライフ編集部
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