( 187080 ) 2024/07/03 16:12:26 0 00 分譲マンション業界では、修繕費や環境基準への適合など、一見目立たない部分での競争も進んでいる。
分譲マンションの価格が高騰するなか、不動産各社が差別化戦略を探っている。
分譲マンションといえば、駅からの距離や、玄関などの共用部の華やかさ、ディスポーザーや床暖房などの設備面の充実など“目立つ部分”の競争ばかりが注目されがちだ。
【全画像をみる】分譲マンション「目立たない」戦い。大規模修繕12年を18年に延長、超“省エネ”物件開発
しかし「マンションの大規模修繕費の抑制」や「最高基準の環境基準への適応」など、あまり”目立たない部分”でも各社の差別化が進んでいる。
今回は、大規模修繕工事の周期を一般的な12年から18年に延長する工事を開発した野村不動産グループと、「ザ・ライオンズ」ブランドで超省エネ物件を開発した大京を取材した。
分譲マンション「プラウド」で知られる野村不動産グループ は、マンション住民が支払う「修繕費」の負担を軽減する仕組みを導入している。
分譲マンションでは従来、12年に一度は、足場を組んで実施する大規模修繕を行う必要があり、この費用を捻出するため住民らは毎月、修繕金を積み立てるのが一般的だ。
野村不動産が分譲したマンションの管理を受託し、修繕工事などを提案している「野村不動産パートナーズ」は、2017年から業界で先駆的な取り組みとして、大規模修繕の周期を12年ではなく最長18年に伸ばした大規模修繕工事の取り組み「re:Premium(リプレミアム)」を発表した。
業界標準を超える長期保証に加え、工事の周期を伸ばすため、外壁タイルや窓サッシと外壁の隙間を埋めるシーリング材の耐久性を上げるためにメーカーと共同開発をするなど、re:Premiumの開発には約2年間もかかったという。
「開発時点では12年周期が業界の常識で、『12年周期を変えるなんてありえない』『長周期化はリスクが高い』と業界内では冷ややかな反応でした」
野村不動産パートナーズの仙田浩之・技術統括部長は当時をそう振り返る。
工事を請け負う協力会社や、資材メーカーにとってもこれまで12年に1度受注できていた工事が、18年に1度となれば売り上げの減少に直結することもあり反発が強かったという。
「マンション管理をしている私たちとしては、住民たちの修繕積立金をショートさせることなく、どうマンションを健全に保っていくのかが大事です。工事周期の延長は、住民の視点に立てば自然と出てくる発想です」(仙田氏)
18年周期の修繕工事は、従来の12年周期の工事に比べて1回にかかる費用は高くなる。しかし、18年周期が2回ですむところを、12年周期であれば3回も工事が必要になるため、トータルのコストは抑えられるという。
現在、分譲マンション「プラウド」で野村不動産パートナーズが大規模修繕工事を受注した物件では、約8割の大規模修繕で18年周期の工事が選ばれるようになっている。
実際に他の大手マンションディベロッパーも、18年周期の工事プランを続々と発表しているという。
資材や人件費の高騰により、マンションの工事価格も上がっており、修繕積立金が不足するリスクも高まっている。
「修繕積立金への意識は高まっていると感じます。1回の工事価格は高くなりますが、長期的な視点でのライフサイクルコスト低減は多くの管理組合から支持されていると感じます」(仙田氏)
野村不動産の担当者も「リプレミアムの需要は今後も高まっていくものと感じている。高耐久部材・工法の採用した商品設定に取り組んでいく」としている。
ライオンズマンションで知られる大京は、環境負荷に配慮したマンション作りに先進的に取り組んできた。
現在、世田谷区で建設中のマンション「ザ・ライオンズ世田谷八幡山」は、分譲マンションとしては日本初となるZEH(ゼッチ※)区分最高ランクの『ZEH-M』および全住戸『ZEH』の認定を受けている。その上、「ザ・ライオンズ世田谷八幡山」は太陽光発電や蓄電池、井戸も設けており、災害によって電気・ガス・水道のライフラインが途絶しても、自宅で1週間以上生活を維持できる防災システムまで備えている。
※ZEH…Net Zero Energy Houseの略語。家全体の断熱性や設備の効率化を高め、太陽光発電などで創る電力が、生活で使うエネルギーよりも多くなる住宅のこと。マンションの基準である「ZEH-M」は省エネ率などによって4タイプに分かれており、住棟全体で100%以上の省エネ率を実現するのが『ZEH-M』。省エネ率の基準がゆるくなる順に、Nearly ZEH-M、ZEH-M Ready、ZEH-M Orientedの4段階の基準がある。
「ZEH区分最高ランクと災害時のライフライン維持、その両方を兼ね備えるマンションは、現状、他に例がありません。
大京としては、これまでも一歩先のスタンダードを作ってきた会社として、環境に対するニーズを先取りできたと思っています」
大京・建築企画一課の安友明子氏はそう話す。
赤タイルの外装やライオンの像で知られる「ライオンズマンション」だが、2023年4月にリブランディングに踏み切り、マンションブランド名を「THE LIONS」に変更した。
これまでファミリー層を中心に38万戸以上のマンションを供給してきた実績を誇るが、リブランディング後は、「パワーカップル」と呼ばれる共働き世帯などをターゲットに、高付加価値のマンションを供給する戦略にかじを切った。
省エネ住宅への取り組みついては、法改正の後押しもあり今後さらに加速が見込まれている。2025年4月からはマンションを含む住宅を含むすべての新築建築物で、省エネ基準の適合を義務付けられ、2030年にはZEH基準への対応が求められる。
「ZEHの最高基準を先んじて取得できたが、ゆくゆくは当たり前になっていく基準。資産価値を保つという面でも価値がある」(安友氏)
一方で、環境性能を高めることで、当然、建設コストも上がるため、マンションデベロッパーは「環境性能と顧客ニーズ」のバランスも問われているという。
「例えば『地球のためになる』と訴求しても、お客様にはメリットとして感じにくい面もある。環境性能に関しては各社、かなり研究している部分で、スペックだけを追求した住宅にならないようにバランスを考えています。
ただ企画してから実際に住み始めるまでにはタイムタグもあるため、企画段階では環境基準としてはオーバースペックであっても、住み始める段階でお客様のニーズに合致するように、常に一歩先の未来を考えています」(安友氏)
大京はマンションのこれまでもZEH基準では他のマンションデべロッパーに先行してきた。
2019年にはZEH基準4段階のうち、日本で初めて上から2番目の基準に合致する「ライオンズ芦屋グランフォート」(兵庫県芦屋市)を竣工した。
また2021年には他社に先駆けて、新築マンションはすべてZEH基準を満たす方針を発表している。
「他社より積極的に環境面での施策を先んじてきた自負があり、企画職としても誇りを感じています。これからも環境性能No.1デべを目指していきたい」(安友氏)
横山耕太郎
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