( 187476 )  2024/07/04 17:28:40  
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(写真:Getty Images) 

 

 直接的な言葉ではなく、表情や態度によって相手に精神的苦痛を与える「不機嫌ハラスメント」。やられた側が受けるダメージは想像以上に大きいという。やる側にならないために注意すべきことは何か。AERA 2024年7月8日号より。 

 

【要確認!】あなたもやってませんか?こんな「ため息」がフキハラに… 

 

*  *  * 

 

 指示されていた会議用の書類。苦労してまとめた部下は、チェックしてもらうために上司の席へ。一読した上司は何も言わずただ、深いため息をつく。 

 

「はぁ~……」 

 

 これ、やられた側の部下の心情は察するに余りある。〈なんだこの書類、ったくいつまでたっても使えないやつだな……〉という上司の心の声が聞こえる気も。でもそれがハラスメントにあたると聞くと、「え、ため息が?」と意外に感じる人も多いのではないか。 

 

「表情やため息、態度で相手に精神的苦痛を与える行為である『不機嫌ハラスメント』(フキハラ)にあたります」 

 

 こう話すのは日本ハラスメント協会代表理事の村嵜要さん。この表情、態度とはどんなものなのか。 

 

「たとえば黙ったまま相手をにらんだり、口元をムッとさせたり、話を聞いている途中に急に腕を組み出したり、座った姿勢でふんぞり返ったり。そういった表情や態度、ため息などが相手に威圧感や精神的苦痛を与えると総合的に判断できれば、フキハラになります。たとえば大きなため息が明らかに特定の相手に向けられている場合などは、単発でもフキハラが成立します」 

 

■パワハラ対策による二次的なものとして 

 

 フキハラの相談件数はここ数年で増加傾向にある。なぜか。村嵜さんは理由の一つとして2020年から施行されたパワハラ防止法があると見る。 

 

「上司たちも本当は言いたいことを我慢したり、言葉遣いに気をつけたりするようになった。でも我慢することで結果的に表情や態度に出てしまっている面はあると思います。パワハラ対策による二次的なものとも言えるんです」 

 

 フキハラの相談で代表的なものがため息で、さまざまなパターンがある。もちろん「ため息はつかないと生きていけません。すべてが悪いわけではない」と村嵜さんは言う。では「セーフなため息」と「NGなため息」、境界線はどこか。 

 

 

「周囲に聞こえない程度のため息で自分をコントロールする分には問題ないですし、周囲に誤解されない場所やシチュエーションでつくため息もセーフです。周囲に聞こえたとしても、怒っていたり機嫌が悪いわけではないと周りにわかってもらえるため息なら問題ないでしょう」 

 

 いまのため息、ちょっと大きかったかな。自分でそう気づいたときの対処法としては、笑顔で周囲に話しかけるなど、「怒ってない感じ」を理解してもらう言動でカバーすることを心掛けるといいと言う。 

 

「一方でため息をつかれた側は、ついた人のため息が自分を落ち着かせるためのものか、こちらに何か言いたそうなものか、見極めることが大事です。後者の場合、もし可能なら理由を聞いてみる。理由がわかればされた側の精神的負担も減るでしょう。 

 

 ため息にそこまでする必要があるのか。そう思う人もいるだろう。しかし村嵜さんは、ため息から受けるダメージは想像以上に大きい、と指摘する。 

 

「上司のため息はやはり気になるし、何が原因なのかも聞きにくい。毎日繰り返されるとけっこうしんどいです。極論するなら、一回暴言を吐かれるよりも継続性をもってチクチクとやられるため息の方が、ダメージは大きいかもしれません」 

 

 ため息による負の側面。心理学者で京都橘大学教授の上北朋子さんも、「ため息によって相手が精神的苦痛を感じる」ことには一理あると話す。 

 

「人間は社会性が高いので、人の感情を推測したり、自分は経験していなくても人の感情から自分も同じような経験をしている感覚になる『情動伝染』が起きます。不機嫌や不快感からくるため息の場合、受け取った人が同じようにネガティブな気持ちになることはじゅうぶん起こりうると思います」 

 

(編集部・小長光哲郎) 

 

※AERA 2024年7月8日号より抜粋 

 

小長光哲郎 

 

 

 
 

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