( 188098 )  2024/07/06 15:56:09  
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都知事選の共同記者会見に臨む(左から)石丸伸二氏、小池百合子氏、蓮舫氏、田母神俊雄氏=2024年6月19日 

 

 なんとも不思議な選挙という印象だ。2024年6月20日告示・7月7日投開票の東京都知事選は、史上最多の56人が出馬しただけではない。またおよそ都知事選と無関係に見えるポスターが掲示され、問題視されただけではない。取材を重ねるほどに、気味の悪さが残っていく。その正体はいったい何なのか――。 

 

【写真】掲示板に貼られた「生後8カ月のわが子のポスター」はこちら 

 

 現職の小池百合子知事が露出を控えるだろうということは予想できた。 

 

 4月10日に発売されれた「文藝春秋」5月号は、かねて囁かれていた小池知事の「経歴詐称疑惑」について改めて特集し、2020年に出版された『女帝 小池百合子』にも登場した小池知事のカイロ時代のルームメート、北原百代氏(単行本出版時は匿名)と、かつて側近だった小島敏郎・元東京都特別顧問の証言を掲載。とりわけ小島氏は、前回の都知事選で小池知事に相談を受けて「経歴詐称工作に加担」したことを暴露したうえ、今回は小池知事を刑事告発した。たとえ“カイロ大学卒業”がエジプト政府からお墨付きを得たものであったとしても、身内からの告発は小池知事にとって致命傷になりかねない。 

 

■小池知事、序盤は露出を抑え 

 

 実際に小池知事は「公務優先」を口実に、告示日である6月20日は多くの聴衆に向けては「第一声」を発しなかった。22日に八丈島を訪れて初めて街頭でマイクを握り、23日には奥多摩の2カ所で演説した。 

 

 翌週も露出は最小限に抑えられ、小池知事の演説は、29日には北千住駅前、30日には蒲田駅前で行われた。ここで多少の“異変”が漂った。小池知事にかつてのような勢いがなくなっている点だ。 

 

 初挑戦した2016年の都知事選では、小池知事のテーマカラーである「緑色」を持った人たちが演説会場に駆けつけた。小池知事と支援者の距離も、もっと近かったように記憶している。2020年の都知事選はコロナ禍のために自粛されたが、今回の都知事選でもその影響は残っているのか。いや、もっと大きな変化があったに違いない。 

 

 

 2016年の勢いでもって2017年7月の都議選では、自ら率いた都民ファーストの会をして55議席も獲得させた小池知事だが、同年10月の衆院選では、自ら命名した希望の党を躍進させることはできなかった。小池知事は2020年の都知事選では366万1371票も獲得したが、2022年の参院東京選挙区で最側近の荒木千陽元都議を当選させられず、2024年4月の衆院東京15区補選では、自らの代わりに出馬させた乙武洋匡氏は当選どころか供託金没収をかろうじて免れた。 

 

 それでも都知事選で現職の小池知事が強いことに変わりはない。情勢調査の数字を見ても、立憲民主党や日本共産党などが応援する蓮舫氏らをはるかに引き離している。だからわざわざ露出してアンチを招き、その優位を損なう必要はないということだろう。 

 

 だが最後の週にはやや変化が見られている。 

 

■情勢調査で石丸氏が蓮舫氏を抜いた? 

 

 7月1日の夕方に、小池知事は“金魚鉢”と呼ばれるガラス張りの宣伝カーに乗り、渋谷などを回っていた。そして翌2日には秋葉原でマイクを握り、3日には三軒茶屋駅前、4日には立川駅前、そして5日には新宿駅前に立っている。 

 

 おそらくは「第3の候補」である石丸伸二氏を意識したのではなかったか。当初の情勢では、小池知事、蓮舫氏、石丸氏を4:2:1強とする調査が多かった。しかし終盤にきて、石丸氏が蓮舫氏を抜いたという調査も出てきたからだ。 

 

 その石丸氏の選挙は奇妙な展開を見せている。ひとつはSNSの利用で、バーチャルの世界で「圧倒的優位」を喧伝。これは4月の衆院東京15区補選で、日本保守党の候補に対して行われたやり方と極めて似ている。 

 

 両者が異なるのは、石丸氏のSNS戦略が“計画的なもの”として見られるのに対し、日本保守党のそれは一部の「ファン」から膨らんでいった点だ。ただネットによるマネタライズ(現金化)である点は共通しており、視聴数を稼ぐために露骨に誇張されたものも散見され、実態とはかけ離れているという事実もある。 

 

 

 たとえば6月30日に銀座4丁目交差点で行われた蓮舫氏と石丸氏の街宣を見ても、演説を聞いている人数は蓮舫氏のほうが圧倒的に多く、3時間後に行われた石丸氏のほぼ2倍が集まった。石丸氏の演説には「石丸さんだ」と気付く人は数人いたが、いずれも足を止めて演説を聞こうとしなかった。 

 

 にもかかわらず、石丸氏が圧倒的にパワフルに見えるのは、1日に約10カ所も都内を回っている点だろう。奇妙なことにほとんどの演説会場で、集まる人数は平日も休日も関係なくほぼ一定。しかも平日の午後に1時間以上前から、石丸氏の演説を待つ人もいた。 

 

■蓮舫氏への“手塚ブロック”とは 

 

 同氏を取材した記者は、「同じ人が朝から夕方まで演説会場を“はしご”していた」と証言する。「ある演説会場で石丸さんが『初めて来た人はいますか』と聞くと、何人かが手を挙げた。次の演説会場に移動しようと電車に乗ると、その人たちが同じ車両に乗っていたんだよね」 

 

 別の記者は「演説会場で『どこから来たのですか』と聞くと、東京都ではない場合が多かった。あるいは日本の選挙を珍しがって見ていたアジア系のインバウンド観光客だった」と述べた。確かに聴衆の中心はそういう人たちだったに違いない。そしてそれを遠巻きに、ベビーカーを押した若い母親など地元の有権者たちが石丸氏の演説を聞いていた。 

 

 一方で蓮舫氏は、石丸氏ほど街宣を行っていない。その理由を関係者に尋ねると、「本人はもっと演説をやりたいと思っているようだけど、“手塚ブロック”があるからねえ」と残念そうに答えた。手塚仁雄・立憲民主党東京都連幹事長が選挙の全てを握っているというわけだ。 

 

 おそらくはタレントだった蓮舫氏の「知名度」を期待して露出を抑える戦法なのだろうが、その効果は果たしてどうか。蓮舫氏は2010年の参院選では、東京選挙区で171万734票をたたき出した。だが2022年の参院選で獲得したのは67万339票と、最盛期より100万票以上も減らしている。 

 

 しかも安定的な現職に対して、露出を抑えるのは有意な戦略ではない。また演説での現職批判も、国政での選挙はともかく、自治体の代表である首長の選挙としてはいかがなものか。しかも演説では小池知事を「攻め」てはいるが、肝心の公約発表については蓮舫氏は「小池知事が発表してから」と「守り」にこだわり、同日発表となった。このちぐはぐ感がいまいち有権者に理解されていないのではないか。 

 

 大方の結果は予想できるが、都知事選は最後の一日まで続く。都知事選は各陣営の得票数次第で、その後の政局にも影響しうる重要な選挙だ。最後の最後まで、その行方を見届けたい。 

 

(政治ジャーナリスト・安積明子) 

 

安積明子 

 

 

 
 

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