( 188128 )  2024/07/06 16:32:48  
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 注目度が高い東京都知事選は、いよいよ7月7日投開票を迎える。候補者たちは「首都の顔」を目指して声を張り上げてきたが、選挙戦においてはネガティブキャンペーンの一環として「フェイクニュース」や「選挙妨害」と思われるようなものも目立った。経済アナリストの佐藤健太氏は「有権者にはネガティブキャンペーンに惑わされることなく、立候補者の政策や人柄などを見極めて貴重な一票を投じてもらいたい」と指摘するーー。 

 

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 4月の衆院東京15区補選で、政治団体「つばさの党」の代表らによる選挙妨害事件が起きた。補選に立候補していた人物の選挙カーを追いかけ回し、大声を張り上げたり太鼓を打ち鳴らしたりするなどして演説を妨害したとされる。公職選挙法違反(自由妨害)の疑いで代表らは6月28日に3度目の逮捕となった。 

 

 事件発生当時から言われていたことは、同様の行為が他者によって起き得るということだった。実際、今回の都知事選でも「ジャーナリスト」や「YouTuber」を自称する人物が立候補者の演説会場に現われ、執拗にヤジや中傷行為を繰り返している。動画撮影によって自身が広告収入を得ることを狙うYouTuberはともかく、仮にも「ジャーナリスト」を名乗るならば特定の候補者だけを執拗に追いかけ回すのは異様でしかない。 

 

 ある陣営関係者は「自称ジャーナリスト」らが執拗につきまとい、批判ビラを掲げたり、大声で罵詈雑言を浴びせたりしたとして「妨害行為」を警視庁に通報したという。今回の都知事選は4月の「つばさの党」事件だけではなく、あらためて選挙のあり方を問うものとなった。 

 

 その上で、いくつかの気になる点を見ておきたい。非営利団体「日本ファクトチェックセンター」(JFC)は6月25日、3選を目指す現職の小池百合子知事が同22日に東京・八丈島で演説した際の画像に関する検証記事を掲載した。ネット上には小池氏の前にある白紙の垂れ幕に「カイロ大学首席卒業」と書かれた画像が拡散していたが、JFCが検証した結果、実際には白い幕には何も書かれておらず、意図的に悪意のあるコラージュだったと判定された。 

 

 JFCは6月20日、小池知事が都議会で自身に批判的な発言をした議員を退席させたという言説が拡散されたものの、拡散した動画は議事進行の順番を変えて編集されており、「小池都知事が自身に批判的な議員を退席させた」はミスリードで不正確と判定。JFCは「特に選挙など社会的に重要な局面においては注意が必要」としている。 

 

 

 カイロ大学を卒業したという小池氏に関しては、6月20日の告示日直前に元側近とされる人物が「学歴詐称」問題に絡み刑事告発した。2020年6月に小池氏はカイロ大学の卒業証書や卒業証明書をメディアに公開し、その時の記事は今でもネットで読むことができる。 

 

 ただ、一部からは「本当に卒業したのならば卒業証書を示せば良い」といった誤解も根強い。カイロ大学は小池氏の卒業を認める声明文を出し、最近ではカイロ大学の副学部長を務めていた人物が大学内の記録を確認したところ「卒業」していることが確認できたとする発言もしているが、その事実をなかったかのような騒ぎだ。 

 

 この際、小池氏は改めて卒業証明書を大学に発行してもらい、それを公表したらどうか。あるいはカイロ大学の関係者に証明してもらったら良いだろう。刑事告発がなされたとはいえ、カイロ大学の卒業が事実であれば「受理」をされないケースも予想される。とはいえ、ネット上にいまだ残る疑問については大学側に依頼し、証明してもらうことが重要と言える。 

 

 政党やマスコミによる情勢調査で「2位」とされてきた蓮舫氏にもフェイクニュースによる攻撃がなされている。JFCの検証記事によれば、テレビ番組と見られる画像で蓮舫氏が「尖閣諸島は日本の領土」という質問にバツ印の札をあげている画像がSNS上で拡散されてきた。この画像は2016年から拡散されてきているとされるが、これは加工されたものであり、もちろん誤りだ。 

 

 SNS上には、6月27日の街頭演説動画で蓮舫氏が「結婚して子供がいれば、税額控除が受けられる」と発した模様が拡散され、間違っているのではないかとの議論が沸き起こった。16歳未満の年少扶養控除は廃止されており、「控除」は誤りであると批判されたのだ。ただ、これは「公助」と言いたかったのだろう。選挙戦においては言い間違いくらい誰にもあるだろう。 

 

 1つ気になるのは、蓮舫氏が小池氏にテレビ討論会に応じるよう執拗に求めている点だ。もちろん、チャレンジャーである蓮舫氏が現職知事に挑戦状を叩きつけるのは良いのだが、その「基準」が曖昧に感じる。 

 

 

 たとえば、候補者による討論は6月19日に日本記者クラブが主催する場でなされ、6月24日にも東京青年会議所主催の討論会が開催されている。蓮舫氏は「討論から逃げないで」などと小池氏を口撃し続けているが、一体どれくらい開催すれば良いと思っているのか。その開催回数は候補者が自身にとって有利か不利かで決めることではないだろう。 

 

 加えて、討論会に参加する候補者の数も不可解だ。蓮舫氏は4人の立候補者が参加した日本記者クラブの討論の際に「4人でやらせてもらっている。1つのスタンダードができている」と主張した。だが、今回の都知事選には過去最多の56人が立候補している。公平性の担保は最大限図られるべきであり、それを候補者自身が決めてしまうことには違和感を禁じ得ない。蓮舫氏に対しては、元広島県安芸高田市長の石丸伸二氏や、ひまそらあかね氏らが討論に応じるよう呼びかけてきた。なぜ、それには応じないのか説明も必要だろう。 

 

 SNSによる拡散効果で追い上げているといわれる石丸氏はどうか。石丸氏には市長時代の言動に関する賛否や「資金面」での指摘がネット上で多く見られる。たとえば、6月17日の記者会見で、フリーランスライターの畠山理仁氏は「利権政治はやらないという意味でいくと、石丸氏自身が経済的にも自由であることが重要だと思う。今回の選挙戦で活動資金はどれくらい必要だと考えているか。その原資はこれまで石丸氏が蓄えてきた自己資金ですべて賄おうと思っているのか。それとも大口の寄付者や貸付をしてくれる人がいて、頭の上がらない方がいらっしゃるのか」と質問した。 

 

 これに対して、石丸氏は「100万円超の申し出は結構あります。それは私がお願いしたものではなく、どんどん集まってきている献金の額が大小あるという意味」と答えた。畠山氏が「頭が上がらない方はいない?」と問うと、石丸氏は「まったくありません」と回答している。 

 

 石丸氏は6月30日配信の公式YouTubeチャンネルで5月下旬から3億円近い献金が寄せられたことを明らかにした。だが、畠山氏が問うた「貸付」の部分は曖昧であるとの指摘は消えていない。 

 

 この点については「デイリー新潮」が7月3日に配信した記事が興味深い。 

 

 

 それによれば、ドトールコーヒー創業者の鳥羽博道名誉会長が石丸氏を支援しており、取材に「僕はいくらでも献金していいと思ったのですが、友人から弁護士に相談しろと言われた。それで弁護士に聞いたら(個人献金は)150万円を超えては駄目だということでしたので、150万円だけ寄付しました。また以前、僕が副会長をやっていたニュービジネス協議会の人々が4000万円、私も1000万円、合計5000万円を法律に沿って貸付けてもいます」と答えている。 

 

 ネット上には「2013年に辞職に追い込まれた猪瀬直樹都知事と似たようなものではないか」といった声もある。だが、5000万円を選挙運動費用収支報告書に記載しなかったなどとして公選法違反容疑で東京地検に告発された猪瀬氏とは異なるのは言うまでもない。 

 

 石丸氏の場合は法令を守りながら「表」の貸付であり、それが「頭の上がらない」関係とは言えないからだ。石丸氏をめぐっては、市長時代のSNS投稿や言動に関する控訴審判決が7月3日、広島高裁であった。二審も名誉棄損を認めた形だが、石丸氏は上告する手続きを進めるという。都知事選においては、これらを前提にマイナスイメージを植え付けるような論は決して建設的とは思えない。 

 

 自称フリージャーナリストやYouTuberによる執拗な「突撃」、対立候補へのヤジや中傷行為、フェイクニュースやネット攻撃、そして大量の立候補者やポスター掲示板問題…。まもなく結果が出る都知事選は、我が国の選挙のあり方をどうすべきか問うているのは間違いない。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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