( 188188 )  2024/07/06 17:45:48  
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記者会見する立憲民主党の泉健太代表(写真:時事) 

 

 9月末に任期満了となる立憲民主党・泉健太代表の交代論が、永田町で急拡大している。泉氏自身は再選への意欲をにじませるが、9月の代表選は次期衆院選での政権交代をにらんでの党首選びとなるだけに、同党幹部の間で「経験不足の泉氏は、首相候補としての資質に欠ける」との声が相次ぐからだ。 

 

 6月下旬に閉幕した「裏金国会」での自民党の右往左往ぶりと、野党第1党を狙う日本維新の会の迷走が、立憲民主への強い追い風となり、5月連休中の衆院補欠選挙や静岡県知事選など各種首長選でも連戦連勝し、政権交代への国民の期待も高まっていた。その一方で、野党選挙協力などを巡る泉氏の指導力不足も目立つことで、同党内では、野田佳彦元首相や枝野幸男元官房長官ら経験豊富な実力者の代表選出馬に期待する声も広がる。 

 

 そうした中、蓮舫・元民進党代表の擁立で大勝負を仕掛けた東京都知事選(7月7日投開票)で、結果的に小池百合子都知事の圧勝を許し、「第3の候補」の石丸伸二・前広島県安芸高田市長との2位争いともなれば、泉氏の代表再選への大きな痛手となるのは避けられず、「党全体が固唾をのんで結果を見守る状況」(閣僚経験者)だ。 

 

■「代表としての資質に欠ける」との声も 

 

 泉氏は6月28日の記者会見で、「今は総選挙に向けた準備をしている。(代表選は)まだ考える時期ではない」と、あえて再選出馬についての明言を避けた。その一方で、7、8月は衆院選をにらんだ全国行脚を展開し、地方議員らとの交流も重ねることで、代表選での地方票固めにつなげる構えも。  

 

 そもそも泉氏は、2021年11月に枝野幸男前代表の後任として代表に就任したが、2022年参院選で6議席減の敗北を喫するなど、厳しい党運営が続いてきた。しかし、自民党の裏金事件で状況が一変、今年4月の衆院3補選の全勝などで勢いづき、国民の期待の高まりで政党支持率も維新を大きく引き離し、野党第1党として地歩を固めている。 

 

 ただ、そうした状況変化についても、党内では「あくまで自民や維新の敵失によるもの」(幹部)との冷めた見方が大勢。前回代表選で泉氏を支持した実力者の小沢一郎氏も、ここにきて野党間で衆院選候補者の調整が進まないことに強い不満を示し、「代表交代論」を唱えている。 

 

 

 その背景には、党内に泉氏の経験不足を指摘する声が多い。泉氏は衆院当選8回のベテラン議員だが、旧民主党政権下での閣僚経験はゼロ。さらに、代表就任後も、「党・国会運営は、岡田克也幹事長と安住淳国対委員長に頼りっぱなしで、代表としての統率力や求心力に欠ける」(国対幹部)との批判が絶えないからだ。 

 

 こうした党内の厳しい声に対し、泉氏は6月14日の記者会見で「経験者が有資格者だということになれば、過去首相を経験した人しか(代表を)できない」と気色ばんで反論した。ただ、泉氏に近い議員の間からも「(代表選出馬に必要な)20人の推薦人を集められるかすら不透明」(若手)と不安の声が漏れてくる。 

 

 というのも、次期代表選には、野田、枝野両氏以外でも、前回も立候補した小川淳也前政調会長に加え、中堅・若手議員によるグループ「直諫(ちょっかん)の会」会長の重徳和彦衆院議員が出馬の構えを見せており、「推薦人の取り合いになれば、泉氏は劣勢」(党幹部)との見方も出ているからだ。  

 

■3年ぶりの党首討論は岸田首相に「判定負け」 

 

 その泉氏にとって、代表としての最大の見せ場となるはずだったのが、前国会最終盤の6月19日に、3年ぶりに実施された「党首討論」。岸田文雄首相と野党各党首の対決は初めてで、裏金事件で追い詰められた岸田首相に対し、「泉氏が野党を代表して、岸田首相をどれだけ追い詰めるかが焦点」(政治ジャーナリスト)とみられていた。 

 

 もともと党首討論は、「衆参の予算委員会での質疑などと違って、党首同士の真剣勝負で、本来、用意されたメモの棒読みなどは許されない雰囲気」(同)だ。今回もNHKだけでなく民放テレビやネットでも生中継されただけに、「各党首の見識や討論力が厳しく問われる場となった」(自民国対幹部)のは間違いない。 

 

 特に泉氏は、野党第1党党首として最長の30分弱を割り当てられ、「野党の首相候補として見せ場を作れるか」(政治ジャーナリスト)が注目される中、まず「大将同士の討論だ」と切り出し、党首討論の直前に成立した改正政治資金規正法などでの岸田首相の対応について、厳しい口調で批判した。 

 

 

 これに対し、討論の前半は岸田首相が守勢に回っていたが、後半に差し掛かると反転攻勢が際立ち始めた。岸田首相が切り返しのポイントとしたのは、立憲民主の内部でも異論や反論が絶えない安全保障・エネルギー政策や憲法改正問題で、強い口調で「責任ある態度を示すべきだ」と泉氏を問い詰めた。 

 

 なかでも討論会場を騒然とさせたのは、岸田首相が「御党(立憲民主)は企業団体献金は禁止、(政治)資金パーティーは禁止、政策活動費も禁止。禁止、禁止、禁止というのは大変気持ちがいいかもしれない。しかし、現実的な政治の中で、政治資金というものは民主主義を支える重要な要素だ」と反論した際だった。普段の岸田首相からは考えられない強い口調での反撃に、泉氏も虚を突かれた形で言葉に詰まるなど、うろたえぶりを露呈した。 

 

 そもそも、泉氏はかねて、次期衆院選での政権奪取の前提として、維新や国民民主と連携した非自民連立政権構想(ミッション型内閣)を掲げてきた。これに対し、維新、国民民主両党は、「基本政策での一致がない限り、連立政権樹立は困難」(維新幹部)という立場で、岸田首相の一連の反撃は「まさに最大の弱点を突いた」(自民幹部)格好だ。  

 

 泉氏は党首討論終了後、記者団に対し「(岸田首相の発言で)印象に残ったところはない」とことさら強気を装ったが、立憲民主内部からも「残念だが、泉氏の判定負け」(幹部)との声が漏れていた。 

 

■蓮舫氏が「大差」敗北なら、“七夕の悪夢”に 

 

 そうした中で、泉氏の代表再選の可否を決めかねないのが、国民的大騒ぎを巻き起こしている都知事選だ。というのも、各メディアや主要政党が選挙戦終盤に実施した情勢調査の多くが「小池氏がリードし、伸び悩む蓮舫氏は石丸氏との2位争いも接戦に」という予測を立てている。もちろん、「選挙は投票箱の蓋が開くまで分からない」(都選管)が、「無党派層の支持の低さなどから、終盤に来ての蓮舫氏の失速が目立つ」(選挙アナリスト)のは否定できない。 

 

 このため、「最強の候補を擁立したのに、小池氏の足下にも及ばなかったとなれば、共産党との選挙協力も含め、党執行部の責任が問われる」(党若手)ことは避けられず、「泉氏にとって“七夕の悪夢”になりかねない」(同)のが実情だ。 

 

泉 宏 :政治ジャーナリスト 

 

 

 
 

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